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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 ルーデンス三兄妹のお店で


「こんにちは、賢者様、レントミアさま、お連れ様も! 初めてのご来店、ありがとうございます」


 ファリアの妹でルーデンス王家の三女(・・)フォンデーヌは、手慣れた様子でぺこりと挨拶をすると、注文用のメモを取り出した。


「留学したとは噂に聞いていたが、サンドイッチ屋でアルバイトとは驚いたよ」

「えへへ。学生さんをしながら、上で住み込みでアルバイト生活中……ですね」


 フォンディーヌは小さく笑いながら上を指差す。確かに、この『竜撃のサンドイッチ店 ~ルーデンス野味(ヤミー)~』の外観は三階建ての建物だった。一階は店舗で、二階と三階は居住スペースなのだろう。


「そうなのか! もしかして下の妹のフィリーナさんも一緒かい?」

「はい! あの娘は中等部ですから午前中で終わり、私も学舎は午前中だけでしたから手伝っているんです。他の時間帯は、別のアルバイトさんを雇ってます」


 店内を見渡すと、テーブルが並んだオープンテラスの席の間を、ファリアと同じような銀髪の少女が動き回っていた。それは四女のフィリーナだ。背格好はプラムやヘムペローザとおなじぐらい。すこし丸顔の可愛い娘だ。

 出来たてのサンドイッチとドリンクのセットを皿に載せ、テーブルのお客さんに運んでは、笑顔で接客もこなしている。


「てかさ、王族が働いちゃって大丈夫なの?」


 レントミアが小声で言う。 アルベリーナは俺たちのやり取りをあまり気にせずに、メニューを眺めながらあれこれ悩んでいるようだ。


「レントミアさま、そんなこといったらウチのお姉ちゃんはどうなります? 女戦士として、世界を大冒険しちゃってるんですけど……」


 苦笑する妹のフォンディーヌ。


「ま、そういやそだね……」

「まぁぐぅの音もでないな」


 ルーデンス王家の長女(・・)でありながら斧を担いで世界を大冒険。魔王城さえ倒したのだから外で働くとかそれ以上の次元で活躍しまくっている。

 そんなファリアの冒険や、フォンディーヌとフィリーナの留学を許した父上は、ルーデンスの王、アンドルア・ジーハイド・ラグントゥス、その人だ。

 かなり豪快な王であり、身の丈2メルテを超える巨大な身体を誇り、とてつもない戦闘力を秘めている。腰痛という弱点さえなければ、一対一の勝負で勝てる戦士が居るのかさえいまだ疑問である。


「それに賢者様、覚えておいでですか? うちのお兄ちゃんだって、勘当(・・)されてからずっと、城の地下の食堂で働いてたじゃないですか」


「はは、そんなこともあったなぁ。そういやあのセカンディア元王子も元気かい?」


「お兄ちゃんも今、厨房にいますよ」

「え!? 彼も留学かい?」


 厨房の方を覗いてみるが、この位置からでは見えなかった。


「いえ、店を切り盛りするために派遣されたんです。実はここ、ちょっと前まで『肉汁大将2号店』だったんです。でも……、あまり流行らなくて。お兄ちゃんと私達のアイデアで、サンドイッチ屋さんに変えてから、お客さんが増えたんですよ」


 少し誇らしげに言う。店を見回すと、昼時ということもあり満員御礼だ。


「聞いたことがあるよ、元々食堂だったんだよね」

「はい!」

 王都グルメに詳しいレントミアが身を乗り出す。


 ルーデンス城の一階にある食堂『肉汁大将1号店』。


 追放された廃王子セカンディアが、住み込みで働いていた店だ。安い値段で定食や何やらを出す大衆食堂で、お客さんは主に城に勤める役人や衛兵や給仕たち。彼らが普段食事をするための、いわば社員食堂といったところだった。

 こんなところに2号店というのは、確かにリサーチが甘すぎる。


「ウチのお父さんは、いつも『その道を極めるまで帰ってくるな!』って口癖のように言いますし。お店の出店も、留学とセットで了承済みなんです」


 しかしいろいろ納得だ。妹二人の護衛を兼ねて、兄をここへ派遣。食堂は学舎へと通うための住む場所と、小銭稼ぎに社会勉強にも役立つ。みんなセットでハッピーというわけだ。


「ファリアはその道を『極めた』から、今はお城で幸せに暮らしてるだね」


 レントミアがメニューを見ながら頷く。


「お姉ちゃんは、今でも外に出たがってますけど……、強制的に花嫁修行させられてます」

 眉を曲げて残念そうに肩をすくめるフォンディーヌ。


 その視線の先には肖像画が飾られていた。お淑やかなドレス姿の銀髪の乙女が静かに微笑んでいる……かと思いきやファリアの絵だった。


「……マジか!?」

「えっ……嘘」


 俺とレントミアは唖然として思わず顔を見合わせる。


 ファリアの可憐な乙女の肖像画が、なぜ店に飾っているのかは、あまり聞かないでおこう……。


「さて、当店のサンドイッチ、どれになさいますか?」


「お、おおぅ、そうだな……」


 いろいろと聞きたいことはあるけれど、他のお客もいる。手早く注文だけはしておこう。


「あたしゃ、野獣のパティ焼きサンドと、フィノボッチサラダ、ココミノヤシ・レモンサワーね」

 アルベリーナが注文すると、フォンデーヌが笑顔で復唱する。


「僕は野牛のパティ焼きサンド、フィノボッチサラダ、あと、カラス豆のお茶、ホットである?」

 レントミアの注文にも笑顔で応える。なかなかに手慣れたものだ。


「俺は、野牛ミンチ肉ベーコンサンド、青汁健康ハーブ・ミルク」

「ご注文ありがとうございます!」


「きゃはは、ググレ、結局上級者向け頼むんだね」

「意外と豪胆だねぇ……」

「フハハ、後でマニュフェルノとリオラに自慢してやるのさ。どうせ来たいって言うだろうし」


 それとプラムとヘムペローザ、それにラーナにチュウタ。四つ子たちは早いかもしれないが、後でみんなで食べたいなぁ。


<つづく>


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