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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 竜撃のサンドイッチ店、ルーデンス野味にて

【作者よりのお知らせ】

 大変長く休載してご心配をおかけいたしました!

 なんとか復帰しましたが、今週は一日置きぐらいの投稿かとお思います。

 (書けた都度公開しますね!)


 東大通から路地を曲がり、小道を通り抜けた先にその店はあった。


 ――竜撃のサンドイッチ店 ~ルーデンス野味(ヤミー)


 店舗が建っているのは、更に下町へと通じる三叉路の真ん中だ。

 道幅6メルテ程の通りから、Yの字に分岐する場所が、水場を中心とした広場になっている。

 人通りは多く、水場を中心とした広場の周りはパン屋、加工肉屋、薬草や香辛料を売る店、香油屋といった店が軒を連ねている。それぞれ店は大きくはないが、古くから商売をしているのか、看板はどれも趣がある。

 メタノシュタットの城下町に点在する、こうした水場を中心とした広場には、品物を安く売る露天商(・・・)も数多いのだが、ここでは露天は野菜などの生鮮食料品を売っている数人以外は見当たらない。下町の老舗の商店街といった、落ち着いた雰囲気を漂わせている。


「なかなかシャレオツな通りだね、お店も良さげじゃぁないかい」

「お前の言い回しがオシャレじゃ無い件はさておき、確かに雰囲気は良いな」

「シャレオツな賢者様は言うことが違うねぇ、えぇ?」

「や、やめろ! マントのパーツを外すな!」


 何故かムキになってアルベリーナが絡んでくる。ガチャガチャと賢者のマントの留め具を揺らす。

 恐ろしいのは施錠魔法(セキュア)で防護している留め金を、いとも簡単に外した事だ。流石は最強魔女。ぱしっと右手を払うと、今度は左手を伸ばしてくるので弾く。そんなことを繰り返すが、これではまるで「仲良し」みたいじゃないか……。

「ちいっ……!」

「やめ……!」


「ねぇねぇ! とりあえずさ、並んで待とうよ」

 何はともあれ、店を気に入った様子のアルベリーナとレントミア、三人で最後尾に並ぶことにする。

 待っているのはに2組のカップルと、若者のグループだ。店の外には腰掛ける椅子も置いてあるので少しぐらい待つのは苦ではなさそうだ。

 左にレントミア、右にアルベリーナで、真ん中が俺。


「ルーデンス系の料理を出す店なんて、珍しいな」

「でしょ? 最近、口コミで評判がいいんだよねー」

「レントミアの情報源は一体どういうルートなんだよ?」


 今流行のお店や、話題のスポットなんてのは、書籍になっている訳でもない。だから検索魔法(グゴール)では調べられない。検索魔法(グゴール)など使わずとも、今は『幻灯投影魔法具(マギナプロジェクタ)』で情報は広まるが、店の広告などそうそう目にしない。


「えへへ、別に。秘密だよーだ」


「……レン坊は、魔法協会の魔女たちに人気があるからねぇ。時々ランチに誘われてるんだよねぇ」


 アルベリーナが長い黒髪をくるくると三つ編みにしながら言う。


「あーもう。先生、そんなこと言わないでよ! ……人気はどうかは知らないけどさ、美味しいお店の事とか教えてもらえるしね」

「なんだと、初耳だぞ……」

「ごめんね、ググレ。魔法協会の『談話室(サロン)』とか、地下の小部屋は僕の第二の家みたいなもんだから、顔見知りも多いんだよ」


 しれっとした顔のレントミア。意外な一面に少し戸惑う。


 なんだろう……。胸がもやもやする。それが軽い嫉妬心だと気がついたけれど、一体何に嫉妬しているのか、戸惑う。

 レントミアを誘う魔女たちに? いや……違う。レントミアの人気に嫉妬している自分に気がついたとき、胃の上に重い物を乗せられた気がした。


「……そか」


 俺は、今更ながらあまり友だちがいない事に気が付き、愕然とする。


 今更だが、そういう風に誰かに誘われたりした記憶がない。むしろレントミアのほうが、魔法協会では先輩格だし、顔も広いのだから比べてもしょうが無いのだが。

 それなのに、新参者の俺は『三日月の談話室(サロン)』で、偉そうな事を言い放って、競争心と敵愾心だけを煽ってしまった気がする。


 なんだか、どうしようもなく、居心地が悪い。


 メガネを外して、ハンカチで拭く。


「なんだいなんだい、しみったれた顔だねぇ? レン坊に捨てられた慰めに、今日はあたしが奢ってやるからさ!」


 ガシガシと賢者のマントのパーツを右側から揺らすアルベリーナ。


「う、や、やめろ……! てか、別に捨てられてないだろ!?」

「そうだよ先生、意地悪言わないであげてよ、僕らの友情(ゆーじょー)は一生モノなんだからね」

 左から俺の腕に絡みついて頭を肩に乗せるレントミア。


 通りがかりの女子学生たちが、俺達を見て笑っていた。王都でも珍しいダークエルフやハーフエルフに絡まれる賢者(おれ)……。一体どういう風に思われているんだ?


 と、いい具合に助け舟がやってきた。


「大変おまたせいたしました。次のお客様、どうぞ!」

「あ、僕達の番だよ」

「おぉ、よかった……」


 可愛らしい女の子の店員さんが、俺たちを店内へと案内してくれた。店内は、香ばしいパンの匂いと、豊潤でワイルドな肉が焼ける匂いがして、食欲をそそる。


 壁には、ルーデンスの戦士が使う大きな『戦斧(バトルアクス)』や、巨大な竜の骨のオブジェ、誰かの肖像画などが飾られている。


 レントミアが言うには、半年ほど前に開店したらしいが、ここ最近になってから徐々に「美味しい」「個性的!」と口コミで評判が広まり、人気店になったのだとか。


「ルーデンス野味(ヤミー)ってね、野生肉(ジヴィエ)を使ったサンドイッチを出すって、評判なんだよ」

野生肉(ジヴィエ)とは珍しいねぇ、そりゃ楽しみだわ」


 アルベリーナが素直な反応をする。300年も生きていれば、あちこちで美味いものなど食べていそうだが、自慢げに語らないところが意外と慎ましい。


 三人でテーブルにおいてあるメニューに目を通す。

 

 ――ルーデンス産、野生肉(ジヴィエ)メニュー

 ☆野牛のパティ焼きサンド  5銀貨(シルバ)

 ☆野獣のパティ焼きサンド  6銀貨(シルバ)

 ☆若翼竜のパティ焼きサンド 7銀貨(シルバ)


 ――上級者向きメニュー

 ★野牛ミンチ肉ベーコンサンド 1金貨(ゴルドー)

 ★野牛肉イン野獣肉サンド   1.2金貨(ゴルドー)

 ★若翼竜のパティ厚切り野牛サンド 1.5金貨(ゴルドー)


 ――セットメニュー・ドリンク

 ○ティバラギー産ポテトフライ 3銀貨(シルバ)

 ○フィノボッチサラダ     3銀貨(シルバ)

 ○ココミノヤシ・レモンサワー 4銀貨(シルバ)

 ○青汁健康ハーブ・ミルク   4銀貨(シルバ)


「……こりゃ個性的だねぇ、上級者向きは遠慮しとくよ」

「なんだ若翼竜のパティ野牛サンドって。肉で肉を挟んでるのか!?」

「きゃはは、凄いねファリアみたい」

「わはは、言えてる」


 思わずファリアの事を思い出す。肉が大好きだったなぁ。


「でも、肉はルーデンス産なんだ? どうやって運搬を?」

「なんでも『氷結系魔法』で鮮度を保って、産地直送らしいよ」

「なるほど。ルーデンスの特産品と、魔法の平和利用というわけか」


 北の広大な森林地帯を支配するルーデンス王国は、今やメタノシュタット王国の保護国(・・・)という扱いだ。メタノシュタットへ忠誠を誓う代わりに、独自の文化と王室を維持している。言わずと知れた英雄・女戦士ファリアの故郷であり、幾つもの冒険の舞台となった思い出深い土地でもある。

 それはそうと、氷結系の魔法は、隣接するカンリューン公国や、極北のプルゥーシア王国の魔法使いが得意とする。

 おそらく経済的な意味で互いに協力、ルーデンスで獲れる野生肉(ジヴィエ)の販路を広げているのだろう。


「いらっしゃいませ! ご注文はどうなさいますか?」


 さっきの店員さんが再びやってきた。


「ググレはさ『野牛肉イン野獣肉サンド』に『青汁健康ハーブ・ミルク』にしなよ」

「いきなり上級者すぎるだろ!?」


「……! 賢者様? あ……! あぁあああ!? やっぱりそうだ!」


「え?」


 思わず顔を上げて、店員さんを見る。


 驚きと喜び混じりの顔で、俺達を見ていたのは、銀色の髪にエメラルドグリーンの瞳の少女だった。顎のラインで綺麗に切りそろえられた髪が可愛らしい。

 

 見覚えがある………いや、思い出した。


「君は、フォンディーヌ? ファリアの……妹の!」


「はい! 賢者様。よく覚えていてくださいましたね」

 店員用の白いエプロンの端を持ち上げて、優雅にお辞儀をする。


「おぉお!? 驚いた!」


 ケラケラと笑うファリア妹フォンデーヌは、おてんば姫といった雰囲気のルーデンス王家の三女だ。

 ファリアは長女で、次女がサーニャ。そして目の前にいるのが三女のフォンディーヌ。もうひとり、才女と名高い四女のフィリーナもいたはずだが……?


<つづく>


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