表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
1048/1480

ずっと未来(さき)にある真理

 メタノシュタット王国の魔法使いたちは、みな曲者揃いだ。

 思想信条や主義主張はそれぞれ違うし、魔法の探求も現実路線に理想主義と、人それぞれだろう。

 しかし、俺が憎まれ役を買うことで、結局は一致団結する方向で話はまとまったようだ。

 下手な芝居でも何とかなるものだが、非礼と無礼だけは詫びておこう。


「つい、失礼な事を言ってしまい、すみませんでした。どうかご容赦を」


 俺は頭を下げた。この国ではあまり一般的ではない風習らしいが、俺が以前暮らしていた場所では、こうして謝るのが普通だった気がする。


「い、いやそんな……賢者殿!」

「その、我らの方こそ、目先のことばかりで……こちらこそすまなかった。どうも、魔法のことになると視野が狭くなっていかん。この国で暮らす以上、協力しあわねばならんのだが」


「そう言って頂けると助かります」


 これで、中堅どころの魔法使い、声の大きかった者たちとも和解できたようだ。今後は互いに切磋琢磨することを誓い合う。


「……なんだい、外でドンパチやり合ってから和解してもいいじゃないか。つまらない男になったねぇ」

 俺にだけ聞こえるような小声で、対面に座るダークエルフが囁いた。

 机に頬杖をつきながら、ため息をつく魔女アルベリーナ。何を期待していたのかと呆れるばかりだが、「一致団結」を訴えた一人である以上は、協力してもらうことにする。


「ほっとけ。お望みなら上の闘技場(コロッセオ)で相手をしてやるよ。だが、これから暫くは、お前が先頭に立って研究を続けてくれるんだろう?」


「ふん。別にググレカスに言われなくても、最初からそのつもりさぁね。魔法の真理と、可能性を追い求めているアタシの求める道と、この国の進んでいる方向が同じだってことだからね」

「そうか」

「なんだい、疑うのかい?」


「魔法の探求なら、西国(ストラリア)でもお盛んのようだが?」


 俺はすこしばかり探りを入れてみる。300年近い時間を生きてきた魔女アルベリーナならば、西国ストラリア諸侯国に行った経験もあるはずだ。


「あそこはどうも水が合わなくてねぇ。古臭いのさ。真理は千年前の過去にあるんじゃぁない。ここよりずっと……未来(さき)にある気がしてね」


 どうやら、同じ魔法を追求する立場にある魔法の『談話室(サロン)』でも、方向性の違いは明白のようだ。


 何よりも、アルベリーナが俺に向けた瞳は、野心めいた鋭い光を宿しつつも、どこか無邪気さを感じさせるものだった。


「なるほど。過去を探るよりも、未来か……。悪くない言葉だ」


「珍しく気があうじゃないか? 同志(・・)ググレカス。どうだい? 一杯」

「遠慮しておく、仕事があるのでね」

「つれない男だねぇ」


 ――ま、ここで大人しくしていれば、世界樹も種もいじらせて貰えるからねぇ。


 最後にポツリとアルベリーナは呟いたが、聞き流す。


 百年以上世界を渡り歩き、気の向くまま、魔法や、宝具を追い求めていた魔女。楽しいと思うこと、興味のあることを探求してきた魔女にとって、この場所も腰掛け気分なのかもしれない。

 だが、膨大な魔法の知恵と経験値を持つ以上、敵にするのは得策ではない。


 その後は、『三日月の談話室(サロン)』に集まっていた面子による、役割分担が話し合われた。

 何班かに別れて研究を続け、定期的な情報交換を行いながら形にしていくことで合意した。その内容は貴重な種子についての研究と応用への道筋だ。それは「魔導の探求をしつつ、国益と実益の追求も行う」という現実路線とも言える。


「――問題は、永続的に種子が採れるのか。そして王国を支える産業にまで発展できるのかですが……。それは今後の少なくとも1年以上の継続的な観測が必要でしょう」


 王国の魔法協会の知恵を結集し、魔法という側面からみた研究と分析、そして実用化への魔法技術的な道筋は付けておく。俺たち魔法使いの出番はそこまでだろう。この先、もし産業化という話になるのなら王政府や軍など、多くの組織が関わり手続きや承認など、かなりの時間を要する国家的なプロジェクトとなるだろう。


 ――まぁ当面は、研究で楽しめそうだな。


 やがて『三日月の談話室(サロン)』での会合は終わりを告げた。


「気がつけばもうお昼ですわね。私……眠くなってまいりましたわ」

 妖精メティウスは遊び疲れたのか、午前の部は終了のようだ。ふぁ、とあくびをすると本の隙間へと入り、午後まではお昼寝の時間とするらしい。


 魔法協会長やアルベリーナが去り、閑散とし始めた談話室(サロン)から俺とレントミアも外へと出る。


「ねぇググレ! お昼食べに行こうよ」

「おぉ、そうだな」

 ちょうど昼時だし、どうしようかと思っていた。ボッチ飯もわるくないが、ここは友とランチと洒落込もうか。


「でも、何処で食べるんだ? 屋台か、城の横の公営食堂か?」

「んー、新しいサンドイッチ屋さんが出来たんだって、行ってみない?」

 レントミアが俺の腕を引く。

 サンドイッチ屋さんなんて、まるで女学生みたいで照れくさい。路地裏の定食屋が好きなのだがなぁ……。などと言おうと思ったが、レントミアが楽しそうなので、曖昧に笑いながら頷いておく。


「よし、いこうか」

「うんっ!」


 と、俺とレントミアの行く手を阻むように、黒い影が立ちはだかった。というか、廊下で待ち伏せしていたようだ。


「あら、奇遇だねぇ、アタイもちょうどお昼に行くところなんだけどねぇ?」


「あ、アルベリーナ先生! 一緒に行こうよ?」

「おやまぁ、いいのかい? レン坊」

「いいよね、ググレ」


「……お、おぅ?」


 ――この3人(メンツ)で……ランチ、だと?


<つづく>


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ