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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 世界と、争いと、賢者の提案


 


 ――世界樹や種子を巡っての争い……!

 

「優れた可能性を秘めた世界樹の種を、今後どう活かしてゆくかは、ここ数日で大いに議論されてきたようじゃ。お陰で応用への道筋も見えてきたの」


 魔法協会会長、アプラース・ア・ジィル卿の背後で、『幻灯投影魔法具(マギナプロジェクタ)』の映像が切り替わる。

 

 ――魔法力を蓄積し、最適な放出を行う特性を活かした新型『魔力蓄積機構(キャパシスタ)』への応用。


 ――ゴーレムや、乗用魔法装置への『魔力蓄積機構(キャパシスタ)』の利用。


 ――世界樹の種を原料とした、「食べる」魔法力活性化薬剤。


 ――世界樹の種を発芽させ、ミニ世界樹を生成。種子を再生産する可能性。


 様々なアイデアが提案され、議論されていたようだ。いくつかは実用可能であると結論付けられている。


 俺は世界樹に飛び、最初に種を手に入れて基礎的な分析をした。だが、その後の応用に至るアイデアや理論は、ここに居る大勢の魔法使いたちの手柄となったようだ。

 皆で平等に研究に携わり、知恵を寄せ合い何かを作り上げたほうが成功する確率は高いだろうし、何よりも丸く収まる。


「……確かに、素晴らしい未来が訪れるやも知れぬ。だからこそ、争いの種になってはならぬのじゃ」


 そして今、『三日月の談話室(サロン)』の熱気に一石が投じられた。


 魔法協会長の言葉に、集まっていた魔法使いたちが顔を見合わせ、ざわめきが波紋のように広がってゆく。


「魔法協会長殿は、世界樹や種を巡って争いが起こると、ご心配されておられるのですね?」


 俺は小さな世界樹の種を手にとって眺めた。

 風に運ばれるように尾ひれがついたオタマジャクシのような形にも見える。魔法力をまるで滋養のように蓄える性質を持つという。

 ヘムペローザの魔法が起源(オリジン)になっているとは言え、大勢の魔法使いたちが集まり、白熱した討論と議論を重ねている。これほどの大事になるとは思わなかった。驚きつつも嬉しさと困惑が入り交じった、複雑な気持ちになる。


「この老いぼれ、実はちぃとばかり心配症でのう」


 齢を重ねた(しわ)をより深くしながら、魔法協会会長アプラース・ア・ジィル卿が白い眉を持ち上げておどけてみせる。白くゆったりとしたローブの袖を動かすと、銀糸による刺繍が部屋の明かりで鈍い光を帯びた。


「争いをせぬように、上手く調整するのが王政府の役目なのでは……?」


 俺の言葉に老魔法使いはフムと頷いた。

 いつの間にか「自分の立ち位置」が、少しだけ変わっていたことに気付かされる。


「一理あるの。じゃが、魔法の真理から程遠い場所で生きる者たちでは、物事を貨幣の価値でしか推し量らぬであろうぞな」


「確かに……」


「賢者ググレカス殿は若い。じゃが、ここに居る誰よりも苛烈な冒険に身を投じ、生死を分かつ限界ギリギリの戦いをいくつも経験してきた猛者(もさ)じゃ。それは誰もが認めるところじゃ。そこでの、意見をお聞かせ願いたいのじゃ」


 どうやら、魔法協会の会長も、なかなかヘソ曲がりのようだ。


「私の意見など……あまりお役には立てないかと」


「良きものを手に入れて、浮かれてばかりいるとのぅ、転んだり、無くしたりするやもしれぬ。だから一歩立ち止まってあたりを見まわして考えてみたくなるんじゃよ。ホレ、甘い砂糖菓子を手に入れた時の、子供の時の気持ちじゃ」

「なるほど……」


「昔からのクセでの。ワシはそれで……この歳まで運良く生き永らえてきたようなものじゃて、ホホホ」


 と、談話室(サロン)の中の魔法使いの何人かが、立ち上がる。


「俺は! この種で優れた魔法道具を作り、独占的に販売し、富を得るべきだと思う」


 おぉ……! という喝采と、唸り声のような、熱と欲に駆られた声が響いた。


 すると、女性の魔法使いが立ちあがり、杖で床を打ち鳴らしながら胸を張った。


「――道具などで一般に魔法を広める必要などない! 魔法の力は我らのもの! 栄光と誉れは、私達魔法使いが享受すべき! 世界樹の実でより強力な魔法を生み出し、私達がより必要とされる世界に!」


 純粋な、魔法を拠り所とした思想に酔ったような拍手が満ちる。アルベリーナが理解を示しニヤリとする。


「あーあ、これじゃ争いがおこるよね。ここでさえこれなんだから」


 話を聞いていたレントミアは、頭の後ろで腕を組み椅子の背もたれにのけぞった。


「どうじゃの? なかなかの難事であろう。争いなく、この種の可能性を活せる事が出来ればよいのじゃが……。世界が争いでバラバラになっては意味が無いのじゃ」


 熱い議論を交わし、声を荒げる者も出る。喧騒につつまれた談話室(サロン)を見回して、魔法協会会長アプラース・ア・ジィル卿は深い溜め息をついた。


「なるほど……困りました」

「うむ、争いは絶えぬものじゃ」


 だが、俺はこの場を見て、聞いて、ある一つの思いに至っていた。

 それは、俺がアプラース・ア・ジィル卿よりもずっと、ヘソ曲がりだからだ。


 ゆっくりと椅子から立ち上がる。賢者のマントが衣擦れの音を立てて、背後の『幻灯投影魔法具(マギナプロジェクタ)』の光を遮る。


「……そうですね。争いを無くすなど、無理です」


 大勢の魔法使いたちを見回しながら、俺は静かに言葉を発した。あるのもは興味で、またあるものは猜疑で、はたまたあるものは期待で、耳を傾けている。


 静まり返った談話室(サロン)にむけて俺は言い放つ。


「ならば、争いましょう! 世界樹を巡って」


「な――!?」

「何を……!?」

「……ふむ?」


 誰もが息を呑むのがわかった。俺はメガネを指先で持ち上げつつ、ニヤリとしながら白い歯を見せる。


「共通の敵を創るのです。さすれば、世界は一つになりましょう」


<つづく>


【作者よりのお詫び】

 ご心配をおかけいたしました。

 数日間休載していましたが、少しずつ復活です。

 感想返信など滞っておりますが、随時させていただきますね!


とりあえず明日は休ませてくださいw マジで寝てないんです。。。

 休載:2月11日(土)

 再開:2月12日(日)


 また読みに来てくださいね!

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