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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 世界樹の種子と、魔法使いたちの宴


 魔法協会に所属する魔法使いたちの集会場(・・・)のひとつ、『三日月の談話室(サロン)』は熱気に包まれていた。


 壁面書架に囲まれた部屋の広さは15メルテ四方ほど。木製の長方形のテーブルが6つ並んでいて、それぞれに5、6人の魔法使いたちが座っている。


 中央のテーブルには、魔法協会会長アプラース・ア・ジィル卿の姿がある。その横には、漆黒の魔女、アルベリーナの姿もある。彼女の横にはレントミアもいる。


「ググレカス殿、みんな首を長くして待っておりましたぞ。さぁ、あちらの中央の席へどうぞ」

「あ、はい。では……失礼致します」


 ベテランの風格が漂う魔法使い、ビリルーデッセンに案内されながら、並べられたテーブルと椅子の間を進む。

 部屋には岩から削り出したらしい四本の柱があり、それぞれ床から伸びて天井を支えている。魔法のランプはその柱に取り付けられていて、周囲を照らしている。


 大勢の魔法使いたちの視線が、俺に向いている。


 何本もの魔力糸(マギワイヤー)が床を這い、天井で奇妙な図形を描いている。ここは多くの魔法使いが集まり「楽しい議論」をする場だが、中にはへそ曲がりも居るようだ。


「ググレカスか、あの若さで賢者と称されるとはな……」

「貴殿! 実力が全てであろう。年齢など意味はない」

「ワシは地道に40年この道で魔導を探求してきたのだ。それなのに……、王国からは仕立てのいい『中級』マントをもらっただけ……。

言いたくもなる」

「見苦しいぞ貴殿」

 通り過ぎたテーブルで二人の魔法使いが睨み合っていたが、ビリルーデッセンが鼻息を荒くすると、二人は愛想笑いを浮かべて見せた。


「しかし、寸分の隙きもない結界を纏っている」

「……姫の懐刀(ふところがたな)に収まったと聞くが」

「今や世界樹の秘密を知る者、という二つ名も付けねばなるまいて」


 やっかみめいた声も聞こえてくるが、まぁこんなものだろう。あからさまに嫉妬と警戒の視線を向けてくる者も居るが、あまり気にしない事にする。


 魔法使いというのは本来は魔導の探求者。研究者気質で孤独。時に哲学者を気取り、自分なりの考えや理論を持ち、偏屈な人間も少なくないのだから。


「……賢者ググレカス、私たち注目されておりますの?」

「メティが珍しいからさ。ここは愛想を振りまいておいても良いよ」

「精一杯がんばりますわ」


 賢者のマントの襟首の横で、妖精メティウスが周囲に笑顔で手を振る。珍しい妖精の「使い魔」だと思われているようで、その可憐な姿に「おぉ!」「実体を持つ妖精か」と、興味と羨望が向けられる。


 すると柱の陰や机の横から光る球のようなものが現れた。フワフワと燐光を放ちながら移動し、こちらに近づいてくる。

 どうやら、燐光魔法(ウィル・オ・ウィスプ)被覆(コート)された精霊の一種らしい。光球の内側には、うっすらと妖精に似た姿が見える。精霊を「使い魔」として使役している魔法使いが居るのだろう。


『……コンニチハ』

『チワース』

「まぁ! お話を?」


「少し、遊んで来るといい」

「はい!」


 妖精メティウスがひらひらと空を舞い、部屋の中を追いかけっこし始めた。


 俺は中央の席へとやってきた。机の上には何枚ものメモ書きとペン、そして『世界樹の種子』のサンプルが一掴み程、銀の皿に載せられている。

 ナイフで切ったり、すりつぶしたり、いろいろと試し調べていたようだ。


「よくぞ参られたのぅ、賢者ググレカス殿。ここ数日は、実に楽しい議論が続いておったのじゃがの……流石に、賢者殿の意見も聞きたいところじゃったのじゃ」


 白髪に白いあごひげを撫でながら、顔に深い皺の刻まれた老人が柔和な笑みを浮かべる。

 ゆったりとした白いローブは最上位の魔法使いであることを示し、白地に青の刺繍と銀糸による装飾が施されている。 


「謹んでで参加させて頂きます。アプラース・ア・ジィル卿」


 魔法協会会長に深々と礼をして、斜め前方の席へ腰を下ろした。


「堅苦しくならぬでもよいぞな。ここに居る皆も、同じ魔法を探求する者として『世界樹』からの恵みと、これからについて色々と知恵を出し合い、忌憚のない意見を述べあっておったのじゃからの」


 アプラース・ア・ジィル卿がゆっくりと部屋全体を見回すと、魔法使いたちから拍手が沸き起こった。やはり尊敬を集めている人物は違う。


「……ここでは知恵の出し惜しみをするんじゃぁないよ、ググレカス。洗いざらい、魔法の知恵をさらけ出して、手持ちの情報も開示することだね。皆のために尽くしてこその賢者様じゃぁないかい?」


 手に乗せた『世界樹の種子』を俺に向け、紅をさした唇の端をもちあげる。

 ダークエルフの魔女は、待ってましたとばかりに眼をギラつかせている。魔法への探究心は相変わらずのようだ。


「アルベリーナ、がっつくな。何も隠したりはしない」

「自分だけのものにしようなんて、許さないからね」

「おまえこそだ」


 対面はアルベリーナと、そしてレントミアだ。


「ググレ、朝から何処に行ってたの?」


 レントミアのいつもの声と調子にホッとする。


「内務省のオフィスで挨拶をな。それで書類を読んだりサインをしたり、王政府の役人みたいな事もしなきゃダメなんだよ」

「ふぅん? 大変だね」


 魔法協会会長が、書類を手に立ち上がった。


「さて、ではこの、『世界樹の種子についての報告』を書いてくれたググレカス殿が来てくだされた」


 拍手が沸き起こる。


「無限の可能性を秘めた『世界樹の種子』について、応用方法や活用法については議論が深まリつつあるようじゃ。素晴らしい可能性を秘めておる。この世界の魔法技術をより高度に、人々の暮らしを便利に変えるやもしれぬ」


 魔法協会会長の背後には、『幻灯投影魔法具(マギナプロジェクタ)』があり白い天幕に映像を映し出してゆく。魔法の『魔力蓄積機構(キャパシスタ)』として使った場合の魔力保持量の遷移。魔法の薬への応用の可能性、そして種子を発芽させる方法などなど――だ。


「凄い、すでにこんなに話し合って考えていたのですね!」

「ググレとボクで書いた研究分析の論文がね、基礎になってて。だからみんなスムーズに議論とか検証ができたんだって」


 レントミアが誇らしげに胸を張り、エルフ耳を立てる。

「そうか、良かった」


 バカンスをしていた間、皆は働いていたのかと思うと少し申し訳ないが。


「じゃが、新たなる課題……悩みも加わったように思うのじゃ」

 

 アプラース・ア・ジィル卿がやや声のトーンを落とす。


「新たな悩み、とは?」

「……ワシが心配しておるのは、この種子を巡って……争いが起きる可能性じゃ」


 ざわ、と小さな困惑が広がる。


「単にこれを資源として、便利な道具としてだけ考えれば、落とし穴がありそうじゃ。商売に軍事……。欲しがるものも多かろう。争いが起こる可能性があるのではないか、と儂は懸念しておる」


「世界樹を巡っての争い……!」


 それは十分に考えられるシナリオだ。


「だから皆の意見を聞きたいのじゃ。無論、ここでの議論は我ら魔法使いの狭い知見からの、参考意見に過ぎぬじゃろう。王政府や姫殿下、それに王陛下へと奏上(そうじょう)されれば、更なる大局的な見地からの判断もあろうがの。じゃが、せめてここでは争いを起こさぬ知恵を……考えてみたいのじゃ」


 ――争いを起こさぬ、知恵。


<つづく>


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