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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 ふたたび、『三日月の談話室(サロン)』へ


 ◇


 俺は王城の別エリアにある魔法協会へと向かっていた。数歩先をふわふわと飛ぶ妖精の可愛らしいお尻に導かれるように、王城の中を進んでいる。


 ――世界樹で採集した「実」の解析結果、そしてその応用の考察。

 ――新しい魔法による交通機関の立案、試案の検討。

 ――西国ストラリアによる工作活動への対応会議。


 書類を読んでみて、自分の抱えた宿題の多さに少々辟易していた。

 だが、まずは魔法協会に行けば、ひとつめの問題について議論できる。すなわち世界樹の実についての分析と、その利用方法についてだ。


「忙しいのは賢者ググレカスの魔法の力が、国から期待され、人々から必要とされているからですわ。喜ばしいことではありませんか」

「そう言われると前向きな気持ちにはなるな」

「はい! 自信をお持ちなさいませ」

「うむむ」


 確かに妖精メティウスの言うとおりだ。


 以前のように冒険をして魔王を倒したり、人々を苦しめる魔物を退治するような仕事は減る一方だ。傭兵業や護衛業者はかなり減って来たと言うし、戦闘で重宝された魔法使いでさえお金に困り、転職する時代なのだ。


 時代の変化とともに、自分もいつの間にか変わっている。家族を持ち養わなければならない身としては、冒険よりも安定と平和こそが望むべきものだ。

 ここは上手く立ち回り、期待に応えていかねばならない。

 程々に魔法のスキルを活かしてほどほどに仕事をこなし、優雅な日常を過ごす。そんな日が来ることを願いながら、今は頑張ることにする。


 優雅な日常――か。


 そんなことを考えながら進んでゆく。俺が歩いているのは王城の半地下部分で、岩を削って造られた回廊の一角だ。天井も岩、壁も床も岩。それらは不思議な冷たく青黒い光を放っている。暗いと感じないのは、整然と並ぶ明り取りの隙間(スリット)のお陰だろう。

 幅50センチメルテ、高さ3メルテほどの細長い5角形の穴が、2メルテ置きに口を開けている。魔法で岩に穴を開けたものらしいが、切り口は鋭利な刃物で切り取ったかのように滑らかだ。

 小窓からは、メタノシュタットの王城周辺に建つ優美な貴族の館がいくつも見えた。

 

 このまま岩の回廊をしばらく進むと、やがて王立魔法協会へとたどり着く。


「なんだかジメッとして、暗い場所ですわね」

「城の足元、薄暗さ……。魔法使いにとっては、かえって落ち着くのさ」


 この場所を協会本部に選んだ先輩たちの気持ちは分からないでもない。


 メタノシュタット王立魔法協会の本部は、建物や王政府庁舎のような事務室があるわけではない。

 城の基部を成す巨大な岩盤に存在する半地下式の旧時代の居住区の小部屋を、何箇所か借りて集会場のように使っているのだ。


 王都中枢は、千年以上前この地に降臨したメタノシュタット王家の始祖と、世界の崩壊から聖剣戦艦(・・・・)で生き残った人々――正確には、水晶の結晶体に情報体として転送、肉体を再生された人々の末裔――によって築かれたものだということが判明している。

 居住区は岩を削った回廊で繋がっていて、複雑に入り組んだ迷路を形成している。こうした通路は聖剣戦艦の格納庫や聖堂教会の地下空間、王城地下の秘密図書館、すべて繋がっているようだ。


 やがて、魔法協会の一角、一応の入り口へとやって来た。


「これはこれは賢者ググレカス様、よくぞ魔法協会へ。きょうはどちらへ?」


 赤いローブの魔法使いが、丁寧な口調で礼をする。


「こんにちは。『三日月の談話室(サロン)』へ」

「皆様今朝からお集まりですよ」

「そうですか、ありがたい」


 俺は門番役の魔法使いに礼をして、魔法協会への入口をくぐる。


 対人警戒用の魔法結界、本人確認用の魔法円などが、床には幾重にも塗り込められている。当然、俺は難なく通り抜ける。


 曲りくねった廊下を進む間、いくつかの重厚で年季の入った木のドアがある。それぞれにプレートがかけてあり、部屋の名前が彫り込まれていた。


 そのひとつ、『三日月の談話室(サロン)』ドアを開けて中に入る。


 ドアノブにも魔法の鍵が掛けられている。解錠(アンロック)の術式は協会の人間しか知らないので、部外者は入ることが出来ない仕組みらしい。


「どうも、ググレカスです」


 おぉ! と部屋の中から軽いざわめきが伝わってきた。


 部屋に入りまず目に飛び込んでくるのは、天井まで届くほどの大きな壁面書架だ。壁一面を埋め尽くすような本の数々にはいつもながら興味をそそられる。

 天井まで届くほどの木製の棚には、魔法の古びた背表紙の本が並び、別の棚には小瓶や壷が無造作に置かれている。おそらく貴重な魔法の触媒なのだろう。

 他にも、杖や棒切れを並べた棚など、魔法で使う素材や、道具(アイテム)の試作品が所狭しと並べられている。


 部屋の中には既に30人ほどの大勢の人間がいて、全員が魔法使いのようだ。以前は静かで陰気な感じの部屋だったが、今は熱気と活気に満ちている。


「うわ……? なんだこりゃ」

「すごい熱気ですわね」


 俺をまず出迎えてくれたのは、部屋の入口付近に座っていたグループの面々だ。


 リーダーは、中年で風格のあるベテラン魔法使いビリルーデッセンだ。

 すでに面識のある若い20歳ぐらいの男性の魔法使いが2人、ウェーブした髪が特徴的な女性魔法使い、おかっぱ頭で小太りのずんぐりとした女性魔法使い。


「賢者ググレカス様、お久しぶりです。おぉ! 守護妖精まで……!」

「ビリルーデッセン殿、ごぶさたしておりました」

「こんにちは」

 他の面々も歓迎の意を示してくれた。強面な感じの魔法使いのヨリハーム。もう一人の優男風なのが確か、ハイリフルム。

 ウェーブした髪の女性がリープリア。小太りの女性がポルクル。

 魔法道具開発局の長であるビリルーデッセンも含め、5人と握手を交わす。


「ささ、もう始まっておりますよ、今日の談話は実に興味深い!」


 緑マントの中年魔法使いビリルーデッセンが口元で笑みを作る。

 彼らは王宮には属さない「協会勤め」の魔法使い。階級を示す色分けマントを嫌い、曖昧なグレーや黒、茶色、緑など好き勝手な色合いのローブやコートを纏っている。


「あ! ググレだ! こっちこっち!」


 一番部屋の奥、熱気の中心となる場所から、ぴょん! とハーフエルフの魔法使いが手を上げた。そして俺を招く。

「レントミア、ここにいたのか」


 それだけではない。黒髪のダークエルフの魔法使いに、白髪に白い髭を蓄え、装飾がついた白いローブを身に舞った魔法使いの姿も見えた。


「なんだい、また面倒なのが来たねぇ……」

「ホホ、これで揃い踏みじゃの?」


「アルベリーナ、そして魔法協会会長アプラース・ア・ジィル卿……!」


<つづく>


【作者よりのお知らせ】

 作者仕事の関係で最近出張が多く、執筆と感想返信が遅れ気味です。

 必ず返信しますのでしばしお待ち下さいね!


 さて、明日は連載お休みとなります。

 溜まったアニメを見ないといけませんからね!(キリッ

 

 休載:2月5日(日)

 再開:2月6日(月)


 魔法協会での談話、いろいろな魔法談義となります! 必見ですからお楽しみに♪



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