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賢者ググレカスの優雅な日常 ~素敵な『賢者の館』ライフはじめました!~  作者: たまり
◆30章 ググレカスの一人ギルド繁盛記 編
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 賢者様へ……子供たちからの手紙

 王政府内務省、特務部局のオフィスで俺は書類に目を通していた。

 大きめの紙袋の表には、『賢者ググレカス様へ、嘆願』というタイトルが書かれていた。中を開けると手紙や封書が何枚も入っていた。


「賢者ググレカスへのお手紙ですわ。お悩みと困り事相談かしら?」

 妖精メティウスが机の上で笑顔を見せる。

「手紙か、結構多いなぁ。……国中の子ども達から来ているのかな」

 どんな内容だろうかと、ちょっとワクワクする。

 軍部の諜報員から回ってきた報告書や、内務省の内偵関係の報告書も数多く積まれているが、こちらのほうが楽しそうだ。


「大人気ですわね、賢者ググレカス」

「俺は『子供なんでも相談室』担当か? ははは……」

 少しテンションも上がってきたので、早速手紙を読んでゆく。


 手紙の差出人は、住所と名前、そして年齢が書かれている。拙い字の手紙もあれば、真剣に書かれたと分かるものもある。どれも一生懸命、何かを訴えようとしているようだ。


広報業者(マスコミー)さまが、賢者ググレカスの活躍を紹介しておりますし、去年はファトシュガー村で盗賊退治の一件がありましたものね」

「そうだなぁ」


 今や街角だけでなく、少し裕福な家では『幻灯投影魔法具(マギナプロジェクタ)』を設置するのが流行しているという。情報が即座に伝わるので便利だし、様々な番組を娯楽として楽しんでいる庶民も多いようだ。


 思い起こせば一年半ほど前、孤児院「七色プリズナー更正学園」からの手紙が始まりだった。半獣人の女の子ヒカリアが、呪詛による窮状を必死の想いで書いた手紙がきっかけだった。「一通の手紙」は奇跡的に俺の手元へ届き、事件が発覚。園長先生をはじめ、カミラとカルバ姉弟を救うことが出来たのだ。

 広報業者(マスコミー)は、王政府の手紙配達人による善意と、魔法に長けた賢者が起こした「奇跡の救出劇」という美談として、宣伝に活用しているようだ。

 今度は、それを知った国中の子供達が、俺あての手紙を書いては、王政府の郵便担当者に手渡しする様になったのだという。


「盗賊団の襲撃事件なんてこともあったしな、真剣に読まないと」


 内容を見ると、幸い、切迫したものではないようだ。


 ――近所の廃屋に幽霊が棲み付きました。調べてください。


 ――お父さんが狼男かもしれません。夜になると部屋から変な声がします。


 ――空を飛ぶイカを見ました。誰も信じてくれません。


「あらまぁ、可愛いお手紙ですわね」


「うむむ? まぁ、生死に関わる内容は無さそうだが……」

 答えにちょっと困るものもある。

「せめてお返事を書かれては如何です?」

「書いてもいいが、20通近くあるぞ……」


 流石に面倒くさいが。

「別に機密情報でないのでしたら、お屋敷に持ち帰って代筆させてはいかがですか?」


「……メティ、ナイスアイデアだ」


 一通、銅貨一枚で返事を書くバイトを館の中で募集したら、プラムとかヘムペローザが手を挙げそうだ。


「でも、お手紙を差出人まで運んでくださるかしら?」

「ま、それは俺の経費で落とそう」


 王政府による郵便の仕組みは、基本的には貴族や役人同士の連絡手段であり、民間の手紙運搬などは請け負わない。

 一応、民間の有料手紙運搬業者は存在するが、手紙を他の街に届けるのに銀貨一枚(・・・・)という高額で、子供の小遣いで送れるものではない。


 だが、例外的に手紙運搬人の「善意」により、子供が訴えを書いた手紙は、王政府宛に届ける手紙に紛れ込ませて、運んでも良い事になっていた。

 勿論、大人による真剣な陳情は今までどおり王政府の地方機関の窓口で行えばいい。


 実は、内務省が内々にではあるが「情報収集」と称し、一種の「密告源」として活用することを考え、許可しているのだとか。

 特に子供が書いた「賢者さまへの手紙」ならば、受け取る方も運ぶ方も、大義名分もあるということらしい。

 実際、半年ほど前には、ファトシュガー村に住む少年トゥアが送ってきた手紙により、「盗賊による村の襲撃計画」を阻止した実績があるのだ。つまり、実績ができた以上は蔑ろには出来ない。

 子供達の目による発見や相談は、事件が発覚するきっかけになるかもしれないのだ。


「子供達のお手紙は、相談ばかりではなくて応援もありますわね」

 俺は「賢者さまへ」と書かれた手紙の束を手に取りながら、一通一通に眼を通していく。

 

 ――賢者様は最強の魔法使いなのですよね? 攻撃魔法が使えないのに最強なのですか? 一番強いのは魔法協会会長さんではないのですか? それとも六英雄のレントミアさんですか? 学舎で口論になりました。教えてください。


「フハハ、魔法使い年鑑や、魔法使い紳士録なんてのを発売したら売れそうだな」

「誰が強いとか、決めなくてはなりませんわね」

「それは読者にまかせるのさ。『魔法力:980』『体力:70』『必殺魔法:○○』みたいにスペックを数値化してだな……」


 俺が熱く語り始めたところで、妖精メティウスが別の手紙の差出人に気がついた。


「あら、こちらはフィノボッチ村からですわ」

「おや、なんだろう」

 最近足を運んでいないので、何かあったのだろうか。差出人には見覚えがあった。


 ――ステンホルン・セシリー


「…………!? セシリーさんからだ」


(つづく)

【作者よりのお詫び】

 前回、「春先の空」という描写が二箇所ありましたが、今は「夏」でした。

 初夏にマリノセレーゼに行った感じですね。

 謹んで訂正いたします。


 あすは休載となります

 休載:2月2日

 再開:2月3日

 また読みに来て頂けたら幸いです!


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