★再会のコロちゃんとクワキンタ
「コロちゃん……! クワキンタ!」
それは、コロちゃんとクワキンタだった。忘れるはずのない、半昆虫人の仲間であり、思い出深い盟友たちとの再会だ。
『コロ、コロ!』(※お久しぶりです、賢者様!)
『クワ、クワ!』(※久しぶりじゃん、賢者様!)
「久しぶりだな! 元気そうで何よりだ!」
俺はハンモックから飛び降りると、二人と固く握手を交わし、ハグをした。硬い外骨格をもつ異種族とはいえ、生きている体温が確かに伝わってくる。
『ココロ、ロ?』(※賢者様も、サナギになるんですね?)
コロちゃんが目をキラキラと輝かせる。どうやらハンモックで昼寝をしていた姿が、彼らのサナギ体に見えたらしい。
「いや、あれはハンモックといって、その……お昼寝用だよ」
『コロ?』(※へー?)
コロちゃんことダンゴムシ族は、二本の後ろ足で直立して歩き、背中には何枚かの湾曲したパーツで構成された甲羅を背負っていている。危険になると、ダンゴムシらしく「くるん」と丸くなるのが特徴だ。
少し臆病な性格だが、コロちゃんは飛び抜けて勇敢だと思う。
なぜなら、かつての島の危機に、一人で立ち上がったのだ。敵の船で密航し、更に荷馬車に紛れてフィノボッチ村へ……。苦難の果てに、およそ四百キロメルテにも及ぶ旅をしてきたのだから。
それにコロちゃんは、この楽園島で暮らす半昆虫人たちを束ねる、王様である『ゴロリアーヌ大王』の息子でもある。巨大鉄球のような王様の子供だとは俄には信じがたいが……。
「ぐぅ兄ぃさま、言葉がわかるんですか?」
リオラが後ろから恐る恐る尋ねてきた。
「ん? まぁなんとなくだけどな」
「すごい……」
「魔法の力さ。翻訳魔法で、何度か原始的な言語の変換を行って、やっと理解できているだけさ。プラムが居れば雰囲気で話しちゃうんだけどな」
「プラムちゃんなら、たしかに納得ですけど……わ? ありがとう!」
『コガ……』
『バッタン……!』
他の半昆虫人たちが近づいてきた。そして綺麗な花束と果物を俺とリオラに差し出した。プレゼントということらしい。
「おぉ、ありがとう……!」
『ガッタタン』(※失礼のないよーにな)
『コロ、コロロ、コロ』(※この島は、あれからずっと平和です)
『ク、クワワ!』(※ま、オレらが守ってたからな!)
謙虚な様子で喋るコロちゃんと、頭の上の大きな角(大顎)をカチカチと誇らしげに打ち鳴らすクワキンタ。
「よかった。安心したよ……」
この島に流れ着く人間も居るだろうし心配していたが、彼らはうまくやっているようだ。
半昆虫人は、マリノセレーゼの森や、北のキョディッティル大森林で暮らす異種族……つまりは亜人類だ。見た目がヤバいのも確かに存在するが、本来は大人しくて平和的な種族なのだ。
かつては魔王の魔力波動を浴びて一部が魔物化したせいで、未だに誤解と迫害を受けている。だが、超竜ドラシリア戦役以後、誤解も確実に解けつつあるようだ。
俺はそんな彼らの平和的な本当の姿を、世界の国や世間に知らせる役目を担えるのではなかろうか。それなりに知名度もあり、発言できる立場にもいる。
『ラーナコロ、プラコロ、ヘムコロ?』(あの、ラーナ姫は? プラムさんやヘムペロさんは?)
コロちゃんがキョロキョロとあたりを見回す。肩にはピンク色の小さなスライムの幼生、何世代目かは分からないが、「ラーナ」と同種のスライムがちょこんと腰掛けていた。
「ヘムペローザとラーナは海でナマコ観察……ほら、あそこだ」
30メルテほど離れた波打ち際で、ラーナとヘムペローザが遊んでいる。
ヘムペローザが持つ、水晶のペンダントに魔力の波動をちょっと送り込んでみると、ハッとした様子で振り返った。黒髪が潮風に揺れる様子はとても絵になる。
水着姿に麦わら帽子を被った弟子は、こちらに気がつくと笑顔で手を振った。ラーナもこちらに気がついたようで、駆け出してくる。
「ヘムペローザとラーナが来る。それにプラムは森に行っているが、じきに戻ってくるさ」
『コロロ!』(※うれしいな!)
「ん? それはそうと……」
驚くべきは、二人の体つきが大人っぽくなり、背が伸びていたことだ。手脚が伸びて、背などはプラムたちと同じぐらいだ。
「なんだか……でかくなったか?」
『ロンロン、コロン』(※二回、脱皮しましたからね)
『ガッタン!』(※俺は一回だけどな!)
照れくさそうに頭をかくコロちゃん。そして自信満々のクワキンタ。確かに金色の自慢のボディの艶が良い。
「ほぉ……脱皮!? いや、まて。クワキンタも脱皮するのか……?」
『クワ!』(※ったりめーだろ)
「うーむ? 実に興味深い」
コロちゃんは「ダンゴムシ族」。つまり落ち葉の裏にいる「普通のダンゴムシ」が脱皮する事を考えると、なんとなく同種系統なので納得できる。
だが、「クワガタ族」のクワキンタが脱皮というのは解せない。
クワガタは脱皮するのは羽化したときだけだ。
元々『半昆虫人』は、千年帝国時代の魔法生物の生き残りだという説が有力だ。そこで仮説をたてるとすれば、身体の基本機能は大体同じで、そこに各種の「昆虫要素」が混じっている……みたいなことなのだろうか?
いろいろと研究論文や文献も調べなおす必要がありそうだ。
「コロちゃーん!」
「にょほほ……! また凄いのが集まっておるにょー」
砂浜の向こうからラーナとヘムペローザが戻ってきた。
『ラーナコロ! ヘムコロー!』(※ラーナ姫、それにヘムペローザさん!)
「ルゥさんとスッピさんにも知らせてきますね!」
「でも、無理に起こさなくてもいいぞ」
「はいっ」
リオラが館の中へと掛けていった。ルゥローニィはスピアルノの子ども達と一緒にお昼寝の最中かも知れないが。
すると、リオラと入れ替わりで館の玄関ドアからは、『館スライム』たちがぞろぞろと這い出てきた。
他の半昆虫人たちも珍しいスライムに興味が向いたようで、近づいて触覚で何か会話(?)を交わし、肩に乗せているスライムの幼生と鼻先を合わせたりしている。
彼らなりのコミュニケーションのようなものをしているのだろう。
『ヤー』
『ガッタン!』(※都会育ちのスライムか……、いい艶してやがんな)
『キュッ!』
クワキンタと館スライム軍団が対峙して何故か睨み合っている。
「仲良くやってくれよ……」
さぁ、楽園島の休暇も賑やかになってきた。今夜はバーベキューだが、そこで見える星空は美しいだろうか?
――マニュフェルノは喜ぶかな……。
マニュフェルノに告白をしたこの島で、また共に同じ星空を見上げることを、俺は密かに楽しみにしていた。
――ここに簡単に入れてくださらなかったのが理由ですし
「あ……そうか」
メティウスの言っていた意味に、俺はようやく気がついた。
俺の胸中にある彼女の存在。それはとても大きくて、今もどんどんと占める割合を増しているのだ。
確かにメティウスもリオラも可愛いし、大好きだ。レントミアだってかけがえのない存在には違いない。プラムもヘムペローザもラーナも可愛くて愛おしい。
少しだけ、それぞれの「好き」の質が違うのだ。いままで考えた事も無かったが………。
マニュフェルノはきっと、口には出せないが、その……愛している、というやつなのか。……いや、恥ずかしいな、これはやっぱり。
「ぐーぐ! コロちゃんとクワキンタが大きくなったのデース!?」
「ははは、たしかに驚くよなぁ」
俺はラーナの声に応えながら、皆の輪の中へと入ってゆく。
休みはじきに終わる。
面倒なことに巻き込まれたり、危険な冒険がまた始まるかもしれない。
けれど今はまだ、全力で楽しんでおこう。
楽園島の空と海と、この世界の美しさを全身で味わいながら。
<◆29章 南国マリノセレーゼの誘惑編 了>
【作者よりのお知らせ】
長いリゾートへの旅も、ここでおしまいです★
水着や成長したコロちゃんたちのイラストは
後追いで描かせていただきますね!
(年末年始はとても忙しく、途切れ途切れの更新で申しわけありませんでした)
明日は休載してイラストを描きたいです♪
あとは並行連載で止まっている「イオラ君の冒険」wと
新連載「菜食ヴァンパイア」もちょこちょこ更新していきますので宜しくです!
休載:1月27日(金)
再開:1月28日(土)
次回は(たぶん)幕間を一話、お届けします。
では、ありがとうございましたっ!




