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 霧と幽霊船のガイコツ軍団


 深海の魔物――海魔・ブラウブローブ・ラウは爆沈した。


「にょはー!? なんか飛び散ったにょー」

「食べられる魚じゃなさそうでしたねー」

「食べられはせんにょ! だって腕が生えておったにょ! 『イルカモドキ』みたいなヤツじゃ」

「イルカさんは可愛いのですけどねー」

「か、可愛いかにょ?」

「可愛いですけどー」

 庭先で感性の違いについてあれこれ会話し始めるヘムペローザとプラム。ちなみに『イルカモドキ』とは、楽園島の近海に棲む、イルカに人間のような腕が生えた生き物だ。


「ま、それはそれとして、一丁上がりだな」


 内部からの爆発でバラバラに飛び散ったのは、巨大なエイのような体に人間そっくりな肌色の腕が生えた不気味な怪物だった。頭と体の前半分を失い、炎に包まれたまま海中に没してゆく。その体に、索敵結界(サーティクル)を集中的に向けて確認してみると、生体反応は完全に失われていた。

 検索魔法(グゴール)で見つけたマリノセレーゼ海軍との『交戦記録』によれば、魔王大戦の頃より、メタノシュタットやマリノセレーゼの沿岸を荒らし回っていたらしい。

 そのヌメヌメとした粘液に覆われた外皮は硬く、大型の(もり)による攻撃や、火炎魔法による熱攻撃は、殆ど効果が無かったという。


 だが、レントミアの放った強力な『火槍魔法(ファランシア)』は、貫通能力に優れた「高硬度(・・・)目標破壊用」の火炎魔法だ。

 『耐火』能力を持つ外皮を一点突破で貫通し体内に侵入、内部で火炎が炸裂し膨大な熱を一瞬で生じさせる。それが水中に再び潜った直後に、大規模な爆発が発生した理由だ。


「凄い、一撃で倒したでござる……!」

「ググレが精密誘導してくれたおかげだよ。僕は適当に(ほう)っただけだし」

阿吽(あうん)の呼吸というやつだな」

「えへへ」


「相変わらず息がぴったりで、嫉妬しますわ」

 妖精メティウスが冗談めかして言うが、友情(ゆーじょー)に裏打ちされた俺とレントミアの魔法コンビは相当なものだと思う。もし、全世界魔法使いタッグトーナメントなんて大会があったなら、ブッちぎりで優勝を狙えそうだ。


「はは……次は、メインイベント、あの幽霊船との海戦だ」

 当のレントミアは、既に二発目の魔法の励起に入っている。狙うのは当然「幽霊船」だ。


「幽霊船との距離、40メルテですわ。突っ込むつもりなのでしょうか」

「このまま海上でやり合うのは得策ではないな。先程の海中からの奇襲の件もある」

「では、空中への浮上を優先に?」


「万が一ということもある。ここは距離を取りつつ上空へ逃れる」


 そして、空中対海上という、圧倒的優位に賢者の館を置いた上で、一方的に「タコ殴り」にするのだ。


 闇と濃霧の向こうから、紫色の不気味な光に包まれた、ボロボロの帆船が迫って来ていた。


 魔力糸(マギワイヤー)により、『海亀号(マリノタートル)』の四つの「ヒレ」を動かし、90度回頭。幽霊船の進路からズレるように全力で回避運動を開始する。

 通常の船は素早く方向転換などはできないが、半球形の地面に「亀のような手脚」が付いた館の機動力は、それを凌駕して余りある筈だ。


「……ググレ殿、幽霊船の上で、ガイコツどもが整列しているでござるよ?」

 目のいいルゥローニィが、接近してくる幽霊船をじっと眺めながら戸惑い気味に言う。


「賢者にょ! 何か指示を出しているヤツもおるにょ!」

 近距離に迫った幽霊船を指差しヘムペローザも声を上げた。

「ぬ……?」

 見ると、確かにボロボロの法衣のような衣を纏い、手に禍々しい蛇の杖を持った魔法使いがいた。身体こそ見えないが、その顔は髑髏そのもので真っ白だ。魔法使いの成れの果てか、明らかに幽霊船を操り仕切っている。そして、白骨の戦士たちを指差して、甲板上に並べた『樽』に入るよう指示を出している。


「あいつが親玉か……!」

「この距離から、あいつを狙い撃っちゃう?」


「それもアリだが、並んだガイコツ戦士たちは一体何を……お?」


 と、その時。

 ボシュッ! ボシュボシュッ! という白煙を樽が吹き上げると、樽に入っていたガイコツ戦士達が、次々に空中へと打ち上げられた。


「垂直発射だと!?」

「飛んだでござるう!?」

「にょわあああ!?」

「降ってくるのですー!」


 白骨の体の上にボロボロの皮の鎧、そして錆びた剣を持ったガイコツ戦士たちが、大きな放物線を描きながら、こっちに向かってくる。


「賢者ググレカス! 空中目標、5ですわ!」

「対空戦闘! 賢者の結界・対物理障壁……超駆動(アクセル)ッ!」


 俺は全力で『賢者の結界』を展開した。落下軌道に向けて、薄いガラス板のような円形の魔法円の壁を幾重にも張り巡らせる。それは、白く輝く傘のように重なり合う。


「賢者殿の結界でござるか……!」

 俺たちの立っている地面から15メルテほどの空中に、波紋を広げたように防御用の魔法シールドを重ねて展開する。


 ――質量と衝撃に耐えられるか……!


 ヒュルルル……! と急降下強襲部隊と化したガイコツ戦士が、赤い光を眼窩の奥で揺らしたまま急降下してくる。


『ヒョヒョー!』

 と、一体目のガイコツ戦士が『賢者の結界』に衝突する。青白い光と稲妻のようなスパークがほとばしり、ガイコツ戦士がバラバラになり、海や、館の庭先にも降り注いだ。


 二体目、三体目とぶつかっては砕け、そして骨の一部や、頭蓋骨を撒き散らす。バリバリと粉々になって一部は海に落下、そして庭へと落ちてくる。


「さすがググレの結界だね……硬いや」


「いや……。高速度の質量物の突入は防げたが、低質量(・・・)化し、低速となった破片までの侵入は防げない……!」


「え?」

「ググレ殿ッ!」


 切れ長の目をハッと大きくするレントミアをかばうように、ルゥローニィが抜刀し身構えた。


 庭先では落下したばかりの白い骨が動き、一箇所に集まりつつあった。


「にょわわ!? こやつら生きておるにょ!」

「ググレさまー! 死んだ骨が動いてるですー!」


 一目散にヘムペローザとプラムは逃げ出して、俺の背後へと滑り込んだ。


「うーむ。面倒なことになったな」


<つづく>


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