ワイン樽ゴーレム対『タランティア・タイプエックス』
【さくしゃより】
あけましておめでとうございます!
本年もよろしくお願いいたします。
ちょっと短めですが、連載再開です。
鉄の足を踏み鳴らしながら、白い砂浜の上を二体のゴーレムが進み出た。
片方は俺の相棒にして最強のワイン樽ゴーレム、『フルフル』と『ブルブル』だ。
対するはマリノセレーゼ王国の誇る、多用途ゴーレム。その技術実証用として試作された機体が『タランティア・タイプエックス』だ。マリノセレーゼの輸出品として有名なゴーレム、タランティアシリーズ。その量産型の基になった専用品の機体らしい。
その機体は赤く塗られ、量産型とは明らかにフォルムが異なっている。
稼働部位が多く、なめらかな動きを見せる関節。肩や腕の先には、人間と同じ「五本の指」をもつ「手」が取り付けられている。量産型はハサミのような三本指の簡易なものだが、赤い機体は外観から細部に至るまでかなり違う。
脚の動きも明らかに精密な動きをしている。さらには、機体の各所に取り付けられた魔法装甲の形状も異なっている。
「賢者ググレカス、あの蜘蛛型ゴーレムさんは、メタノシュタットの王国軍で使っているものとは、ずいぶん雰囲気が違いますわね」
「あぁ、製造コスト度外視、かなりの高性能機ということらしいな」
賢者のマントの肩に座った妖精メティウスと会話を交わす。
「まぁ!? 自分たちだけが良いものを?」
「仕方ないさ、そこが開発して販売する側の強みだからな」
「なんだが、ショーウィンドゥのお洋服を買ってみたら、ボタンの数が少ないとか、飾りが少ないとか、そんな感じですわね……」
「ははは」
軍用のゴーレムである以上、輸出用の量産型はコスト優先であり、自国軍用の機体よりは簡略化されていると考えるのが普通だろう。
つまりメタノシュタット王国軍で使用している機体は『廉価版』。製造過程で省略、簡素化された部分もある。だが目の前に現れた赤い機体は、機能を制限していない「本来の姿」ということなのだろう。
約15メルテ向こう側に、ポレリッサと赤い蜘蛛型のゴーレムがガショガショと並び立った。白い波が打ち寄せる海岸線に沿って、俺達と対峙するような位置だ。
お互いの家族達は、少し離れた場所にある東屋や、ココミノヤシの林に置いてあるベンチに腰掛けて声援を送っている。
足場は湿った砂浜で、四足のゴーレムよりも、向こうの六脚型のほうが有利だろう。
まぁ、こちらには『飛行機動』という奥の手があるのだが。
「どちらが優れたゴーレムマスターか、勝負ですよググレカス君」
「あぁ! 行くぞポレリッサ。ゴーレムマスターに俺はなる!」
互いのゴーレムは砂浜で対峙した。それぞれの「マスター」もヒートアップしてきた。いよいよ、激しい戦いの火蓋が切られた。
「ゴホン、ではまずルールを説明いたします」
審判員役の料理長、ヒローブン・セガーレが王様から何やら耳打ちをされると、今回の御前試合に関するルール説明を始めた。
「まず、単純な戦闘形式での対決は行いません」
「な、なにぃ?」
「なんですと?」
俺とポレリッサは同時に声を上げた。ゴーレムの体格差はどうあれ、魔法力と飛行能力では圧倒的にこっちが有利だ。ボコボコにしてやるつもりだったのだが。
「両者の準備したゴーレムの大きさ、目的にはかなりの差があります。そこで勝負の方法を、『砂の像』制作に限定します。作って頂くのは……国王陛下の顔を模した『砂の彫刻』とします」
「砂の像制作……!」
「賢者ググレカス、手がある方が有利ではなくて?」
「う、うむむ」
単純な戦闘ならば負けないが、上手くルールを変えてきたようだ。こっちのゴーレムには腕はあれど、単純な鉄の棒。指などはないのだ。
なにか手を考えねばなるまいが……。
「あのねぇ! 僕は、国王陛下の目の前で、あの忌々しいワイン樽を叩き潰してご覧にいれたいのよ?」
ポレリッサは抗議する。だが審判員役の料理長は、国王陛下が決めたルールであるとでけんもほろろに突っぱね、「勝てばよかろう」と言うだけだった。
「ゴーレム同士の殴り合いは、メタノシュタットで見世物としてやればよい。我が国はより高度な使い方を模索しておる。期待しているぞ、ポレリッサ」
「……御意」
四角いメガネはやれやれと小さく首を振ると、俺のほうに向き直った。
「では、はじめ!」
<つづく>




