表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1013/1480

 ポレリッサの人心掌握術

 ◇


「ポレリッサ、その……俺達はお忍びの観光旅行(・・・・)のつもりだったのだが」


「あのねぇミスターググレカス。立場を考えてくださいよぉ?」


 口元に薄く笑みを浮かべ、馴れ馴れしい様子で樽のような身体と顔を寄せてくる。横に長い四角いフレームのメガネをかけた新しい友人(・・)こと、ポレリッサ・ヘパイストだ。

 ゴーレムバトルトーナメントの頃は、「賢者様とやら」呼ばわりだったのに比べれば、随分とマシになったものだ。


「立場も何も、メタノシュタットの王政府から事前通告が有ったはずだろう? 久しぶりの休暇で、家族での旅行なんだよ」

「ノンノン! アナタは有名人、魔法界では知らぬ者のない存在なのですよ? そこらの旅芸人じゃあるまいし、マリノセレーゼとしても全力で歓迎しろと王様がね、仰せなのですよ」


「だ、だからって家族全員で、大通りを進むことはないだろう!?」


 俺達は全員、用意された3機の『来客送迎仕様』のゴーレムの背中に分乗していた。しかもマリノセレーゼ一番の目抜通りをパレード状態で進んでいる。

 マリノセレーゼご自慢の新鋭ゴーレム『タランティア・タイプセブン』の背中に設けられた、人員輸送用の「開放デッキ」。ここから見下ろすマリノセレーゼの街並みは、夕方という時刻とも相まって、大勢の人々でごった返していた。

 日焼けした肌のマリノセレーゼ人に混じり、メタノシュタットや北方のルーデンスから来たと思われる白い肌の人々や、イスラヴィアの行商人、ストラリアの貴族など、様々な人々が俺を物珍しそうに眺めては歓声を上げている。

 街を歩いている種族も人間だけではなく、ハーフエルフやドワーフ族、半獣人族もいる。その比率は、王都メタノシュタットならば1割程度だが、ここでは2割よりも高いぐらいだ。海路での交易により発展した都なので、異国との交流も盛んなのだろう。


 先頭のゴーレムには俺とメティウス(といっても懐に隠れてしまったが)、それにポレリッサとその手下である少女二人組が乗っている。


 後方のゴーレムには、レントミアとマニュフェルノ、プラムにヘムペローザ。それにチュウタとラーナが乗っている。三番目のゴーレムにはルゥローニィとスピアルノと可愛い四つ子達。リオラもそれに同乗している。


 兎に角、俺達は全員でマリノセレーゼの王宮へと進んでいた。王様(・・)がどうしても俺たちに会いたいとおっしゃっているらしい。


「我らが王のご意向でして、僕も逆らえないんですよ」

 小声で、さも困ったという顔をして見せる。


「王様はいい人なんだけど、ちょっとわがままだよねー」

 ポレリッサの手下1号こと、ゴーレム操術師のハーネリアが小声で言う。


 ヘムペローザのような褐色の肌に濃い茶色のショートヘア、瞳の色はグリーン。近くで見ると利発そうな顔立ちをしている。

 上下が繋がった操術用の服装を身に付けている。歳や背格好はリオラと同じぐらいだろうか。身体のラインは全体的に凹凸感がない。


「今の王様への侮辱発言で、ハーネリアは縛り首だね!」

 ポレリッサの手下2号こと、リヒラロッタがニヤリと笑う。

 こちらはあまり表情を変えないが、実は口が悪く激情を秘めているタイプらしい。

 白い肌にグレーの長い髪。赤銅色の瞳が印象的な異国人の娘さんは、人種と名前の雰囲気からしてストラリア諸侯国の出身だろう。


「やーん!? もう、ロッタの意地悪」

「心配しないでハーネリア。監督不行き届きで師匠も一緒に火炙りだし」


「あー、君らねぇ、お客様の前で不謹慎な冗談はおよしなさいね。……あとでお仕置きしちゃうからね?」


 四角いメガネを光らせてポレリッサが注意する。


「お仕置きはやめて!」

「ごめんなさい!」

 おてんば娘二人は、顔色を変えて同時に首を横に振った。


「素直で宜しい」


 一体どれほど恐ろしい「お仕置き」をされているのだろうか? お尻を叩かれたり、ムチで打たれたり、スライムを背中に入れられたり……。いやいや、もしかしてここでは言えないような酷い目に……?


「お仕置きって……大丈夫なのかい?」


 ちょっと心配になって思わず小声でハーネリアに尋ねてみると、息せき切ったように早口でまくし立てはじめた。


「聞いてくださいよ丸メガネの賢者様! 先日のお仕置きなんて酷かったんですよ! 『君たち二人の歯ブラシ、僕がどちらか一本を使っちゃたから』ってニタァって笑うんです! 嫌ぁあああ!? キモイ、怖いでしょう!?」


「あ、あぁ……? それは……嫌すぎるな」


 思わず顔が引きつる。


「それだけじゃねーぞ! この前はあたしのお気に入りのシャツを着やがって! 伸びて着れなくなったじゃねーかこのデブ!」

 物静かに見えるリヒラロッタが激情もあらわに、拳を握りしめて訴える。


「フン。何事も教育ですよミスターググレカス。僕の人心掌握術は基本、アメとムチですからね」


「アメみたいに歯ブラシ口に入れないでよ!」

「ムチムチのくせにアタシの服を着るな!」


「……ははは、まぁ家によって違いはあるよ」


 ちなみにウチは悪いことをしたら、スライム風呂と決まっている。


 ゴーレムの上はギャンギャンと騒がしいが、そうこうしているうちにマリノセレーゼを治める王様の住まう王宮へと辿りついた。


<つづく>


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ