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 友だち認定、四角いメガネ

 ◇


 南国マリノセレーゼの王都――港湾都市ヴィトムニア。


 ティティヲ大陸の南端部、切り立った崖が大陸の終わりを告げる海との境界線上にその都はあった。


 太古の噴火、あるいは隕石の落下痕か、崖の一部が内陸部側に凹んで出来た、大きなカルデラのようなヴィトムニア(わん)

 波の高い外洋とは違い、湾内(わんない)は波が穏やかでエメラルドグリーンの海が美しい。

 直径およそ7キロメルテの湾に沿った形で、港湾都市ヴィトムニアは築かれていた。


 空飛ぶ賢者の館『(ニュー)空亀号(スカイタートル)』は、湾内の都市を眺めながら着陸態勢に入っていた。

 ヴィトムニアの郊外、まっすぐに伸びる滑走路は芝生のような緑の草地の中にあった。固く踏み固められた土の道が、およそ長さ500メルテに渡って続いている。

 先に滑走路に着陸したトンボ型の魔法道具『ウィッチ・ニードゥ』が見えるが、着陸したあたりにある大きな館のような建物が、『海竜職人集団(シードゥン・メイカーズ)』の管理施設だという。


「脚部展開、着陸態勢を取りつつ減速……!」

「地表までの相対距離、およそ30メルテですわ」

 俺とメティウスは着陸に向けて館の姿勢制御に忙しいが、館の面々は全員が窓から顔を出したり、庭先に出て景色を楽しんでいる。


「すごく大きな海の街だ! これがマリノセレーゼの王都……!」

「メタノシュタットみたいに大きいのに海と一つなんて!」

 砂漠の国イスラヴィア出身のチュウタに、森に囲まれたティバラギー村出身のリオラが、特に感動が大きいようだ。


「すごくきれいな街ですねー。美味しいものもありそうですねー」

「海のご馳走はラーナも好きなのデース!」

「美味しいと良いがにょー。あとはもう事件とか御免だからにょ……」

 プラムにラーナはグルメ志向。ヘムペローザは心配しすぎだろう。


「国によって雰囲気は違うから、夕飯がてら街を探索しよう!」

「はいっ!」

「わぁい!」


 時刻は午後の4時。街を散策して夕飯を食べるにはちょうどいい時間だろう。

 住民の人口は王都メタノシュタットの半分以下らしいが、船乗りや交易関係者も多いから、商売も盛んで、賑やかな街だと聞く。


「美麗。海の碧さに空の青色、そして白い建物に赤い屋根。それにココミノヤシの街路樹、南国ってとても色彩が豊かねぇ」

「絵描きの目から見れば、題材が多い感じかい?」

「創作。意欲が増しますね」

 マニュフェルノもいつもとは違った風景を見て、大いに刺激を受けているようだ。


 湾内を見回すと、街の中心部に近い海沿いには数多くの船着き場、大型船の停泊する埠頭、物資を集積する倉庫群がある。だが少し離れるとココミノヤシの生い茂る森と、白い砂浜が続いている。それらは海浜公園のように整備され、波打ち際で遊んでいる人々も目につく。

 

 街はと言えば、大陸側に向けて傾斜した土地には、無数の家々が建ち並ぶ。家々は石灰質の石を積み上げて造られていて、表面を更に白い漆喰で塗り固めているようだ。屋根は赤か茶色の焼き瓦が多く、青空に映えて実に美しい。


 なかでもひときわ大きく目を引くのはやはり高い位置に建てられた王宮だろう。

 白い石灰質の石を積んで築かれた王宮は、四角い箱を四つ並べて積み上げたような独特の形状の建物で、風雨に強そうな安定感がある。


 同じ王都でも、古都のような趣のあるメタノシュタットとは違う雰囲気だ。


「賢者ググレカス、着陸します」

「よし、到着!」


 ズシュゥウンと地面の砂を巻き上げながら、二本の脚で『賢者の館』が着地する。

 いつの間にか集まってきていた人々の間から、どよめきと歓声が沸き起こる。


 どうやら、トンボ型の魔法道具『ウィッチ・ニードゥ』を開発した、『海竜職人集団(シードゥン・メイカーズ)』のスタッフ達のようだ。機体に描かれたマークと同じ刺繍入りの作業着を身に着けている。

 

 と、人の輪をかき分けて、手を打ち鳴らしながら一人の男がやって来た。


「いやっはは、これは見事見事! 見たかい君達!? 空飛ぶ家だよ凄いだろう!? 僕が認めた生涯のライバル、ググレカスくんだからね!」


「賢者ググレカス、生涯のライバル認定されておりますわ!?」

「うぬ……?」


 耳障りな甲高い声の主は、四角いメガネをかけた男だった。

 他人(ひと)様の家を指差しながら、周囲のスタッフたちに何故か自慢げに話している。


 歳は二十代後半、スタッフの中では唯一、白衣を着たマリノセレーゼ人の技術者だ。

 背は低く横幅が広いずんぐりとした体形。髪はダークブラウンで、七三分けにして撫で付けている。

 トレードマークとも言える黒縁の四角いメガネを光らせて、俺に向けて手を振っている。


「これはこれは、歓迎いただき感謝します、ポレリッサ・ヘパイスト……さん」


「ググレカスくん! 君と僕の間じゃないか! さん付けはよしてくれよ」

「あ? ……あぁ、はい。そうですね」


 ニヤニヤとした笑みを向けてくるポレリッサ。ああ見えて『海竜職人集団(シードゥン・メイカーズ)』の技術最高顧問にしてゴーレムの開発責任者なのだ。


「賢者ググレカス、良かったですわね! 友達認定されていますわ!」

「い、いや、その……。俺も友達が増えてきたのか?」

「そうですわ!」

 最近だと、作戦参謀長のフィラガリアからも「友人」扱いされたっけな。


「ま、永遠の友情(ゆーじょー)を誓ったのは、ボクだけだけどね!」

「レントミア!?」


 いつの間にか真横にレントミアが立っていた。何故か勝手に友達宣言をした相手に、無駄に対抗心を燃やしているらしい。


「まぁまぁ! 師匠、まずは歓迎して王宮に連れてかないと!」

「また王様に怒られっぞ! オラオラ」

「あーもう、めんどくさいなぁ」

 操術師の少女二人が、ポレリッサに駆け寄ってきた。みるからに元気そうなハーネリアと、一見すると淑やかそうなリヒラロッタだ。

 ハーネリアはポレリッサの肩をバシバシ叩き、リヒラロッタは腹をタプタプと突きまくる。

 四角い眼鏡のポレリッサは、俺たち全員を改めて見回して、大きくお辞儀をした。


「というわけで大歓迎ですよ、ググレカスくんファミリー御一行!」


<つづく>


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