少女-2.親友
「長いわ」
親友がわたしの想いを綴った紙を両手で引き裂いた。
「ちょ、ちょっと」
彼女はわたしの言葉なんて気にせず、裂いた紙を重ねてまた裂く。裂く。裂く。
バイバイ、わたしの二時間の結晶。
「あのねぇ、確かに昨日の進展具合を書いてこいとはいったけどさ」小さくなった紙々をわたしの机に降らせる。「もっと簡潔に言いなさいな。後半ポエミーになってるじゃないの!」
彼女はその紙の上に片手を強く叩きつけた。紙がいくつか舞う。
「へふっ」驚いて変な声が出てしまった。「はやっ」そんな言葉を出した自分に驚いてまた声をあげてしまう。
ひらひらと机の外に落ちた紙を慌ててかき集める。椅子に座ったままだけど集めるには支障はない。全部集められたかな。
体勢を戻して、彼女に向き直る。紙は握ったままだ。
「でもどこの部分も削りがたかったから、もう全部書いちゃえってなっちゃって」
「そしたら妄想も止まらなくなったって?」
机に叩き付けた手をそのままに、前のめりになって訊ねてきた。
他人から妄想と呼ばれるのは少し傷つくけれど、事実だから仕方が無い。
「う、うん」
押され気味になんとか答える。すると親友は置いていた手を頭にやり、わざとらしく大きいため息をついた。
「あんたはもう……。何でお金を借りるかね?」
「だって、借りるもの他になくて焦って、思わず」
「思わず、でもあんた以外は言わないでしょーよ。むこうはあんたのこと覚えているわけじゃないんだよね? 他人からいきなり金貸してと言われたら普通嫌悪感しか持たないわよ。ちゃんと分かってる?」
その現実から目を逸らしていたけれど、やはりそうもいかないんだ。
「だ、だよね……。嫌われちゃったかな」
「ああ、大丈夫よ。アイツも変なところで抜けてるし、カレシに出来るだけフォローするように頼んどいたから」
「カレシ? ああカレシって、彼氏か」
ちょっと理解が遅れて、自分の頭の悪さを感じてほんのり自己嫌悪。こんなんだからいつも頼りっぱなしなのだ。
その時、廊下から裏声なのに野太い声が聞こえた。多分隣の教室からだ。少し寒気がした。
彼女は舌を突き出し、眉間に皺をよせた。親指だけが立った握りこぶしを上げて、肩越しに隣の教室を指した。
「彼氏」
眉間に皺を寄せたままだけれど、口元は緩んでいた。
「うらやましいなあ」
彼女に聞こえないように呟く。
そんな日が自分にも来るんだろうか、と妄想を始めた。