少年-17.悪友の頼み
日曜日の昼はのんびりしたいのに無理矢理悪友に連れ出され、街を歩いていた。空は翳っていて今にも雨が降りそうだ。まだ九月だがこうも雲が太陽を覆っていては、軽く寒気を感じる。
「で、俺らはどこに向かってんの?」
「悪いな。俺に付き合ってもらって」
「阿呆。お前に振り回されるのは昔からだっつの」
「あれ、そうだっけ?」
「そうだよ」
空を仰ぎ、灰色の絵の具で雑に塗られたような景色にうんざりする。傘を持ってくれば良かったと思うが、今更取りに戻るのも面倒だ。
「で、結局どこだよ。無理矢理連れ出しやがって」
「ああ、映画館の予定」
「予定って。って言うかお前映画好きなんだっけ? そんな覚えないけど」
この街にはボロボロの映画館一つしかない。配給が遅く、全国で放映が終わるくらいの時期に放映されるのが大抵で音質もよくないので俺はまず行かないことにしている。だが場所はしっかりと覚えていた。交差点をあと一回右に曲がって真っ直ぐ進めばたどり着く。
「お前の記憶は正常だ。俺もそんな一面を見せたことないし、まず映画とか観ない。ああ、私のことよく見てくれてるのね!」
「黙れ阿呆。で、何だよ。言いにくいことか?」
「あー、うーん」
珍しく悪友が言い詰まる。真剣な表情に見え、軽い気持ちで訊ねたことを後悔する。
「いや言いにくいなら」
「告白されちゃった! てへっ」
そこまで思い悩むことなのかと心配した直後、あっさりと裏切られた。文字にしたら語尾に星や音符がつきそうな雰囲気だ。
交差点に差し掛かり、横断歩道を渡って右に曲がる。
「告白って、付き合ってくださいとかっていう? 気持ち悪いから死んでくださいとかじゃなくて?」
「どんな告白だ。普通に愛の告白だよ。知らない後輩に告白された。うらやましいだろ?」
「全然。で、何で知らない後輩から告白されたんだ? 誰かと間違えたんじゃないのか?」
「そうじゃねえって。俺が部活してるとこ見て惚れたんだってさ」
「可哀想に。その子は恋愛フィルターがかかってお前の酷さが見えてないんだな」
「そこまで言っちゃう?」
自分の不細工さを加速させたいのか泣き真似をして顔をしかめる。気持ち悪い限りだ。
「で、まさかその子と映画館デートでも行こうっての?」
「うん、そのまさか」
「断れよ。彼女が怒るぞ。チクッてやろうか」
「チクるのはやめて! 一度は断ったよ? でもせめて一回だけデートしてって頼まれてよ。そしたら諦めるからって」
こいつのどこがいいんだかと顔をしかめるほかない。恋愛フィルター恐るべしだ。
「デートのコースとして映画を選んだのはいいとして、どうして俺を呼んだ?」
「ああね。アイツに心配させたくないからこのことは黙っているけどさ、もしばれた時やばいことになりそうだろ?」
「確かに。喧嘩して一ヶ月くらいは話さないだろうな経験上」
「だろ? 一週間でも話せなかったら発狂して死ぬ自信あるよ俺」
「むしろ今死ねよって感じだけどな」
「まあまあ。で、もしバレた時にお前に証明して欲しいんだよ。別に何もなかったって」
映画館の看板が見えた。はっきりと見えるわけではないが、遠くからでも古い印象が伝わってくる。
「わかったよ。時給千円でいいな?」
「五百円!」
「八百円」
「六百……つか友達からお金取るなよ!」
「はいはい。後ろから着いていくから、行ってこい。一緒に行くのも変な感じだろ?」
「そうだな。考えてなかったわ」
この程度のこと考えられず大丈夫かと心配になる。が、するだけ無駄だなと思い至った。
何の映画を観るのかと訊ねると少し前に話題になった恋愛映画だった。
観たくないなと思いつつ、悪友が映画館に着くのを遠目で確認してから歩を進めた。




