少年-16.恋人以上友達未満
二年の二学期といえば修学旅行しかない。それしかない。
「あづい」
真夏は過ぎたがまだ九月上旬だ。日が照ればじりじりと気温が上がり、汗が肌を伝わり落ちていくのを感じなければならない。
今日は高校の体育祭だった。誰にも被害を与えない威力の台風が通り過ぎて体育祭が延期に延期を繰り返して中止になることを望んでいたが、そんなことにはならなかった。せめて今から雨が降って短縮しないかと願うばかりである。
「まだ始まってすらいないんだ。気を抜くな」
「はーい」
隣に座る部長の声に軽く返事をする。
入場を控えた学生達がわらわらと集まっているのがグラウンドを挟んで良く見えた。俺は放送部の役割のために臨時に建てられた放送席に座って仕事を待つ。
「あとどれくらいで始まるか分かります?」
「まだ十分はあるな」
「そうですか」
何もせず待つという行為が動くより気力を使う。このまま時間が過ぎると十分後には眠りに落ちてしまいそうだ。開式の間日光を延々と浴び続ける同級生達がいる一方で、自分達はテントの影で座っていられるのだから睡魔くらいには耐えないといけない。
ただそれは根性論に過ぎず、実行できるかは別問題だ。開式までの時間意識を保つため部長に話かける。
「部長ー」
「何か用か?」
「あの俺が書いた脚本のやつなんですけど」
「あれか。もう二ヶ月は前の話だぞ」
俺は自分の気になっていたことを訊ねる。実際はどうでもいいと思っていたが、今思いついた話題がそれしかなかった。
「どうしてあの終わりにしたか、か。ふむ。そうか、終わりは私達に任せたのだったな」
「はい。てっきり二人が付き合うエンドで収めるのかなと思ってましたし、そうじゃなかったら男が元カノを忘れられず断って失恋エンドくらいしかないと思ってたので」
「あの終わり方は意外、か」
「はい。思いつきませんでした」
あの映像を見た記憶を頭の中で再生する。
付き合うわけでもなく、断るわけでもなく、変な関係で物語は終わっていた。
「私はただ、友達や恋人の括りにあの二人を入れておきたくなかった。十五分の短い間で、そこまで言及したくなかったんだ。もう少し時間があれば付き合うという形にしたんだろうがな」
そんな考え方もあるのかと妙に納得してしまう。恋愛はそういうものなんだろうか。
「恋人以上友達未満、ってところだよ」
「それ逆じゃないですか?」
「そうか? どちらが上なんて決まっていないだろう」
まあ恋愛をしたことないから私に説得力はないけどな、と苦笑した。
「そろそろだ。準備は大丈夫か?」
「オッケーです」
マイクに視線を下ろし、再度確認を行う。
頑張ろうと思いつつも、雨が降りますようにと祈ることは忘れなかった。




