少女-13.焦る心
告白しよう。
文化祭が終わったら告白しよう。そう心に決めた。
かしかりの関係が終わったら、繋ぎとめるものはないのだから急ぐしかない。
知り合って急激に進展をして、これ以上進展することは多分ないはずだ。そう考えると、自分の一番の見せ場は文化祭での演奏しかない。文化祭のオープニングに演奏するから、基本全員観るはずだ。
だからと言って部活ばかりに力を入れるわけにもいかない。クラスの展示物もしっかり作らないと。わたしのクラスは世界遺産がテーマだった。
クラスのガムテープが足りなくなったので自ら進んで買いに行く。不器用なのでこちらのほうがクラスの役に立つはずだ。
「雨かあ」
傘を差し、校舎を出る。買う場所はこの辺りの学生御用達近くのスーパーだ。
「あれ、苅谷さん」
声を掛けられて、振り向く。傘を持った相沢くんが立っていた。
「へあ、相沢くん」
「買出し?」
「うん」
それから自然と二人並んで歩き始めた。だけど会話が無い。何か話題を。
「どんな話になったの? えと、書いたんだよね? 脚本」
「書いたよ。そうだね、苅谷さんは手伝ってくれたし、言ってもいいか」
くだらない話なんだけど、と切り出して話してくれた。
主人公はレンタルビデオ店でバイトをしている女の子。彼女はとある客に恋をしていた。その客は二十代後半のサラリーマンで、毎週金曜同じ時間に同じ映画を借りて土曜日に返却するという変わった客だった。
ある日彼女は思い切って彼に理由を訊ねてみると彼の返答は意味不明なものだった。毎週訊ねると毎回違った答えだった。しかしそこにはある共通点があり、彼の奇妙な行動の理由を知ることになる。
「で、結局サラリーマンは死んだ元カノとの思い出に浸るために借りていました、っていう展開」
「はあ、すごいね。ミステリー?」
「まあ、そのつもりで書いた。これなら恋愛モノに見えなくないかなって」
「二人は最後どうなるの? 付き合うの?」
「いや、そこは部長に任せた。ミステリー的にはここまで充分だったし、どんな結末がいいのかわからないしね。あとは当日をお楽しみに、ってところかな」
「そうだね。でも本当に凄いね。一日でそこまで書けるなんて」
わたしの言葉に彼は言いにくそうに答えた。
「一緒に見た映画を参考にしたし、これは半分実話なんだよ。実話。サラリーマンが同じ映画を借りていくんだよ、俺のバイト先で。買ったほうが安いってくらいに」
「じゃあその人の借りている理由がそうだったの?」
それは凄い驚きだ。現実にそんなことがあるんだ。
「違う違う。その人が借りているのが事実なだけで、理由は知らない。あとはフィクションだよ」
そうなんだ。少しガッカリした。でも映画そのものじゃなく、思い出に浸っているサラリーマンの後姿を脳に描き、胸がキュンとした。
あっという間にスーパーに着いてしまった。もっと彼と話していたいのに。
傘を閉じ、振って水滴を落とす。
「あ、お金返しておくね」
他に人がいない時でないと返せないので、今みたいな状況でないと渡せない。二千円準備しておいて良かった。
財布の中から千円札二枚を取り出して、彼に手渡す。
「ありがとう。じゃ」
「うん」
彼はお金を受け取ると、軽く手を振って店内に入っていった。
返せば彼との関係が終わりに近づいていくけれど、返さなかったらすぐに終わってしまう。それも最悪な形で。
残り金額は、八千円。
わたしと彼を繋ぐ、みんなには内緒のお金だ。




