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かしかり  作者: 湯城木肌
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少年-12.別の視点

 初恋のことを思い出したところで、恋愛のことは分からない。一目惚れだったし、その後何の進展も無かった。さらに言えば恋だったのではと思うだけで、実際に恋だったかは定かではない。


「わっかんねーな恋って」

 まだ魚の鯉が理解しやすそうな気がしてくる。鯉の話では駄目かな。それはそれで難しそうだが。

「苅谷さん?」

 彼女があらぬ方向を見ているので名前を呼んでみた。だが反応が無い。

 視線の先を追ってみるが、そこに何かあるわけでもなかった。顔を戻し、もう一度呼んでみる。


「苅谷さん?」

「へやっ。はい何でしょう!」

「疲れてる? 部活がきつかったの?」

「え、どうして」

「ぼーっとしてたからさ、疲れて眠いのかなって」

「そんなことないよ。ぼーっとするのはその、くせ、そう癖みたいなものだから、気にしないで」

 彼女は自分の発言を肯定するように何度も顔を縦に振った。特に気になりはしないのでその話は流す。

 それから恋愛モノの面白さを語ってもらったが理解出来なかった。いっそ脚本案をもらおうと彼女に頼ったが、文章を出すのは得意ではないからと断られてしまった。

 映画を見返したり話し込んだりしているうちに時間は過ぎ、気付いた頃には十八時を過ぎていた。帰宅する彼女を玄関先で見送る。


「本当に送っていかなくっていい? この辺りの道わかる?」

「うん。この辺りは何回も来てるし」

「そっか。アイツの家があるからな」

「うん。バイバイ」

 自転車を押す彼女の後ろ姿を見ながら、変な感情がこみ上げる。いや、こみ上げるというより何かが消えていく感覚だ。その消えた部分を埋めたい衝動に駆られる。

「そうだ」

 ピタッと止まり彼女が振り返る。何か妙なものを期待している自分がいることに気付くが、何を期待しているのかは分からない。


「忘れ物でもした?」

「そうじゃないんだけど。えっとね、相沢くんは恋愛モノが恋愛モノに見えないんだよね?」

「うん。俺にはコメディに見える」

「だからさ、もう恋愛モノを書こうとしなければいいんじゃないかな」

 首を傾げる。恋愛モノを書こうとしているのに、恋愛モノを書かないってどういうことだ。

「恋愛に関する要素を一つか二つ入れてて、別ジャンルを書くの。それなら書きやすいと思うんだ」

「まあそうだろうけど、恋愛モノにならなくないか?」

「大丈夫。相沢くんが恋愛モノをコメディに見てしまうように、逆もあるんだって」

 それは流石に無理があるような気がする。だがそれなら何とか書けそうだ。

「そうだね。そうするよ。ありがとう」

「うん。じゃあまたね!」

 彼女が自転車に乗って角を曲がって見えなくなるまで手を振って見送った。

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