少女-11.昔の話
涙もろいのは自覚していた。だから泣くまいと心に決めていたけれど、気づいたら泣いていた。恥ずかしい。
「いい映画だったね。感動しちゃった」
「そうだね」
誤魔化そうとして話を振るが、続かなかった。会話の代わりに沈黙が続く。
エンドロールが終わって、彼がため息をついた。
「エンドロールの後には何もなしか」
「え?」
「ん、いやエンドロールに結末があることを期待してたんだけど。最後曖昧で終わったからさ」
プレイヤーの画面がタイトルに戻る。主人公達の静止画が浮かび、最後のシーンを思い出した。最後良かったなあ。
「ハッピーエンドじゃなかったの? 二人が最後一緒になれて良かったーって思ってたんだけど」
「そう思うんだ?」
「うん」
彼は顎に手をやり、唸った。眉間に皺をよせている。
「まあいいか。本題に入ろう」
「本題?」
口に出して、ここに来た本当の目的を思い出した。彼に恋愛映画の面白さを教えることが本来やるべきことだ。自宅で映画鑑賞会をすることじゃない。
「主人公の優子の気持ちに共感は出来た?」
「うん。こう、もやもやってしてるのが、分かったよ。わたしじゃあそこまで積極的に行動できないけど」
「じゃあ恋愛映画としてどうだった? 面白かった?」
恋愛映画として、と言われ首を傾げた。単純に面白かったし、恋愛映画としての視点から観るというのは線引きがよくわからない。
「面白かったよ、普通に」
「そうかー」
「じゃあ相沢くんは、恋愛映画として、どうだったの?」
「んー。面白かったけど、恋愛映画としての良さはよくわらないんだよな」
「それなら、どういう視点で見てたの?」
「シリアスなコメディかな。俺さ、いわゆる恋愛モノってコメディにしか見えないんだよね」
さも当然のように出た彼の言葉に唖然とした。恋愛モノがコメディってどういうこと。
「ツッコミどころが満載だと思わない? 矛盾点やらご都合主義やらがありありと見えるんだよ」
「それって、どんな物語にもあるものじゃないかな。恋愛モノに限らないと思うよ?」
「それはそうなんだけど、恋愛映画は良く見えるんだよね。何故か」
何故か、って。その原因はものすごく単純な理由だと思う。
「興味が無いんだよ、きっと。だからそんな部分が良く見えるの」
「あーそうかも」
「相沢くんは、好きな人とかいないの?」
恋愛映画が楽しめないのは恋愛をしたことがないからだと思う。
ん。ちょっと待ってわたし。今ものすごくナチュラルにレベルマックス最難関ミッションをやりませんでしたかわたし。
「好きな人は、いないね。ああ、だから恋愛モノの良さが分からなかったのか、納得」
片手で膝を叩く。特に詮索せず落着してくれて良かった。
そして好きな人がいない発言に対して、彼の目の前で行動に出すわけにはいかない。だから脳内の小さなわたしが代わりにガッツポーズをして飛び跳ねた。良かった。
「あ、いや好きな人出来たことある」
「へやっ」
驚きに変な声が出てしまい、慌てて口を押さえる。出来たことあるだから、今はいないってことで変わらないんだよね、と脳内で再確認して頷いた。
彼は気にしない様子で続ける。
「確か小三、いや四年だったかな? まあとにかく小学生の頃の話なんだけど」
「うん」
「一年間無理矢理変なクラブにいれられたんだよ。地元愛を強めようみたいな活動で、ゴミ拾ったり苗植えたりするそんな活動を一ヶ月に一回するクラブ。名前は、忘れたな」
「うん」
相槌を打ち、彼の話を促す。もしかして、と自分の記憶がフラッシュバックする。
「そこで出会った女の子に一目惚れしたんだ、確か。自己紹介した気がするけど、覚えてないな」
「そうなんだ」
ばれないように、自然を装って返事をする。
ああ。こんなことってあるんだろうか。
わたしと彼はやっぱり出会っている。思い違いではなかった。
その相手がわたしだという保障はないけれど。
これを運命と思わずにはいられなかった。
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