少年-11.映画鑑賞
バイトを終えて店を出ると苅谷さんが日陰に佇んでいた。声を掛け、俺の家に一緒に向かう。
家の中に入ると、母親が少し茶化してきた。軽くあしらい、自分の部屋へ案内する。
彼女を部屋に入れる直前で部屋を片付けていないことを思い出した。部屋の前で待たせて、急いで掃除をする。待たせすぎるのも悪いので酷過ぎると思われるところだけだ。
数分して、彼女を部屋に招き入れた。
ポータルDVDプレイヤーにバイト先から借りた映画を入れる。もちろん恋愛映画だ。借りる映画を選ぶのは彼女に任せていた。題名は「受験戦争」である。
画面が小さいのである程度近寄って見始める。普段同世代の女子とここまで接近することはないので緊張するが、悟られないように平静を装った。
「この再生しているのは、相沢くんの?」
「そう。居間だと自由に観られないからね」
プレイヤーはまだ映画の予告編やレンタルの宣伝映像を流していて、本編はまだ始まらない。
「今はこれで我慢してるけど、一人暮らしを始めたら部屋を映画部屋にしたいって考えてる」
「はー、すごいね」
ついでの映像が終わり、ようやく本編が再生され始める。
あらすじとしては次のような感じだった。
少子化対策が進み、今度は子供の人口が増えすぎてしまった日本が舞台。政府により優秀な子供だけを生かす法律が制定された。高校三年生は二ヶ月に一度ある試験で評価され、学校内の下位一割は強制退学になって逮捕される。優秀な成績を残せる可能性がなければ、最悪処刑される。主人公の女の子は人生に嫌気が差し、最初の試験で退学するつもりでいた。しかし、三年生時の担任教師に恋をし、必死に勉強を始める。彼女は生き残り、教師と結ばれるのか。概ねそんな内容だ。
結論としては、教師は主人公を庇って逮捕される。彼女は有名大学への進学が決まっていたのを蹴って、教師と一緒にいることを選んだ。そこで話は終わった。
俺としてはその先の結論をしっかりと見せて喜劇か悲劇かはっきりして欲しいが、あとは各自のご想像にお任せしますといったところだろう。
エンドロールが流れ、息をついた。
「終わったー。どうだった? 苅谷さん」
彼女の方に顔向けて、ギョッとした。彼女の頬に液体が流れていた。
俺の視線に気づき、彼女は慌てた様子で両手で涙をぬぐった。俺も直視しないように目を逸らす。
「いい映画だったね。感動しちゃった」
「そうだね」
泣く場所がよく分かっていないのが恋愛映画が分からないことに通じているのだろう。
彼女の泣き顔を見て、少し悔しくなった。




