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かしかり  作者: 湯城木肌
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少女-10.あと二時間


「ただいまー」

 帰宅すると、昼飯がキッチンカウンターに置いてあるのが目に入った。借りた映画は居間の机に置く。昼食を済ませ、時計へ顔を向けると、まだ一時を指していなかった。

 食器を片付け、水洗いだけをしてシンクに放置した。

 居間にあるふわふわクッションにダイブして、抱きしめる。

「はああ、どうしよう」

 彼の三十分前のことを思い出して、唸る。


 彼の提案とは、利子の代わりに恋愛映画を教えてくれというものだった。文化祭のために恋愛モノの脚本を書かなければならないらしい。彼は恋愛モノの面白さが分からないので、今のままでは無理なのだという。

「わたしも確かに少女漫画は読んでたし、恋愛モノの面白さは分かるけど」

 面白さが分からない人間に、どうやって教えればいいのだろう。彼と話すだけでも緊張するのだから、余計に難しい。

「それに二人きりだ、し」

 二人きり。自分で口にして、改めて自覚する。興奮でごろごろと転がったけど、壁にぶつかって止まった。

 時間の空いている時に一緒に映画を観ようと言われ、咄嗟に今日空いていると答えてしまった。心を落ち着かせるゆとりを持つために明日と答えておけば、と後悔する。

「あと二時間? 移動も考えたらもうちょっと短いけど」

 彼のバイト終わりに彼の家で観る約束だ。午後三時にバイトが終わるらしいので、その時間にレンタル店に行って、彼の家に案内してもらうことになっている。

「彼の家……? 二人きりで彼の家?」

 今更ながらことの重大さに気づき、悶える。進展しないと思っていたのに、急展開すぎだ。明日死ぬわたしに神様がプレゼントでもくれてたのだろうか。


「うわあああああ。どうしよう。どうしよう!」

 彼女に相談しようと携帯電話を取る。電話をかけようとして、手を止めた。

 店を出て彼女に相談しようとした時、「これからは出来るだけ自分で頑張りなさいな」と返されていたのを思い出す。

 今まで彼女に頼りっぱなしで、彼女がいなければ彼と知り合いになることも、一緒に映画を観る約束をすることもなかった。恋愛はそうやって助けてもらうものじゃないはずだ。

 立ち上がって、深呼吸をする。落ち着け、わたし。

「まずは歯を磨こ」

 ふと気になって腕に鼻をよせる。

「臭うかな。着替えたほうがいいかな。着替えたらおかしいって思われるかな」


 ああもう。彼女のような決断力が欲しい。

 この先彼女の助言無しにやれるのか、早くも不安になった。

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