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かしかり  作者: 湯城木肌
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少女-9.恋


 彼との何の進展も無く週末を迎えた。

 毎週毎週イベントが起こることもないので当然だけれど、クラスが違うとこんなにも接点がないのだろう。ただ別クラスだったから秘密の関係になりえたことを思うと、同じクラスが良かったのか、別クラスが良かったのかがよく分からなくなる。

 今週の土曜日は午前中に部活で、十二時まできっちり絞られた。

 部活が終わり、校舎を出る。今日のお昼ご飯何かな、と校門まで自転車を押しながら考えた。

 学校を出ると、校門の前にもたれかかっている親友がいた。彼女のすらっとした美脚が目に入る。私服のために当然制服以上に露出度が高い。あんな脚が欲しい。


「よっ」

「どうしたの?」

 ちょっとね、と笑いながら彼女は隣に停めていた自転車のハンドルを掴み、スタンドをあげる。

「部活、部活、部活ってさー、あんたは本当に部活系女子だね」

「部活系って……。初めて聞いたよ」 

 熱中できるほどのめり込んでいるわけじゃないしね。

「でさ、今日これから時間ある?」

「まあ、あるよ」

「ちょっち付き合ってくれる?」

「うん」

「じゃあ行くよ」

 彼女は自転車に跨り、ペダルをこぎ始める。わたしは慌てて飛び乗り、彼女を追った。


 道幅が狭いので、前後になったまま走り続ける。彼女は目的地も教えてくれないので、ひたすら着いていくしかなかった。

 五分程走った後、コンビニに自転車を停めた。わたしもそれに倣う。

「コンビニに用があったの?」

 彼女は頬をゆるませ、首を振った。コンビニの入り口に向かわず、別の方向へ歩いていく。どこにいくのだろう。

「あんたさ、アイツのどこが好きなの?」

 彼女が押しボタン式信号機を押し、こちらを見る。

「いやあの、どこが好きというか」

 好きなものは好きなのだ。そう思って顔が熱くなる。

 信号が青に変わったのを見て、歩き始める。

「あんたの恋は応援したいと思ってるよ。出来る限りね。でも思ったの、あんた本当に彼が好き?」

「う、うん。す、す」

 言おうとした言葉の後半を口の中でもごもごさせる。これでは告白なんて夢のまた夢だ。

 横断歩道を渡り、左に曲がる。この先に何があるのだろう。


「アイツとの出会いの話は聞いたけど、だから余計に思うのよね」

「うん?」

 彼女は何が言いたいのだろう。

「あんたは恋に恋しているだけなんじゃないか、って」

「へ?」

「だから、恋愛を中心に生きてるってこと。彼が好きなんじゃなく、恋が好き。もしかしたらそういう状態に陥ってるだけかな、って」


 違うよ。わたしは彼が好きなの。

 心の中では言えても、口には出来ない。

 それは単にわたしの性格だからだろうか。それとも。


「少女マンガとか恋愛映画とかそうだけどさ、何かアレじゃない? アレ」

「あれ……?」

「付き合うエンドは分かってるけど、それまでの過程が楽しいじゃん。言いたいのは、そういうこと」

「うん。そうだね」

 彼女の言葉はどう受け取ればいいだろう。よくわらからない。

 このまま進展せずに、彼のことを想い続けるだけの状況が続くことを望んでいるのだろうか、わたしは。


「はい、というわけでですね!」

 彼女が張り上げた声に驚いて、反射的に退いた。

「な、なに」

「その問題を解決すべくここにやってきたわけです」

 腕で右側にある店を指す。看板は新しいけれど、店の概観自体は薄汚れていた。自動車が四台程止まる駐車場があるが、店より駐車場のほうがきれいに見える。

「ここはね、映画とかレンタルしたりするところ。あんたはここで恋愛映画借りて、ちょっと恋愛について勉強してきなさい」

「そのために、ここへ?」

「そうよ」

「えっとじゃあ、もっと別のところでも良かったよね?」

 有名なチェーン店の名前を出して訊ねると、彼女はほくそ笑んだ。


「いやあ、だってね? あんた恥ずかしがりやだからね。同級生の客と出会う可能性を少しでも減らそうと思って」

「うん?」その言葉に若干違和感を覚える。「うん」けど何も分からない。

「アタシはここで待ってるから。選んできてね。なっがーい時間になっても待つから」

 彼女は日陰に入り、ニヤニヤと笑うままだ。

「うん。分かった」

 何故一緒に行かないのだろうと疑問を抱きつつも、私は店の扉を開けた。

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