少女-8.相対性理論
一分は長いけれど、一日は短い。変な感覚だけれど、そう感じるのだから仕方が無い。これが相対性理論だろうかなんて考えてみる。
今日もあっという間に放課後が来た。
親友と談笑した後、音楽室へと向かう。迫る文化祭に向けて練習だ。
「六、七、八、九、十で五か」
歩きながら、右手の指を折り曲げて数を数える。
「おやおや、それは何の数かな」
横を向くと女の子が上目遣いでこちらを見つめていた。同じ管弦楽部員のクラスメートの女の子だ。後ろで手を組み、上目遣いと相まって可愛らしさが増大している。
「ちょっとね。ある期限が五ヶ月だから、何月までかな、と」
話題をぼやかしつつ、話す。話をぼやかすのは得意だ。親友のようにきつく問い詰められたらすぐに白状してしまうけれど。
「五月も終わりだし、六、七、八、九、十、でそうだね、オクトーバーで五ヶ月くらいだね」
そう言って頷いた。納得したような顔つきだったが、すぐに真顔に戻る。
「で、それ何の期限? 文化祭は六が……ジュ、ジューン? ジュライ?」
「ジューンだよ。ジューンブライドって聞かない?」
「ジューンブライドって六月だったんだ。へぇ」
彼女の答えに少し不安になる。もしかして間違っているのはわたしなんじゃないだろうか。
角を曲がり、階段を上る。わたしの教室は二階で、音楽室は三階にある。
「ん? あれ、何の話をしてたんだっけ」
「何だったかな」
お互いに顔を見合わせ、笑いあう。
心の中では、秘密の話だよ、と呟いた。
わたしと彼の秘密の関係、ただし五ヶ月間の期限付きだ。
一ヶ月は長いと感じるのに、この五ヶ月は短い。短すぎる。だからと言って、卒業まで時間を与えられても短いと感じるに違いなかった。
金の切れ目は縁の切れ目らしい。現在の状況は本当の使われ方とは違うだろうけど、わたしにとってそれはどうでもいいことだった。貸し借りする関係が終わったら、ただの友達になってしまう。彼にとっては今とさほど変わらない状態かもしれないけれど。
頑張ろう。
この五ヶ月で全く進展しなかったら、わたしはその先関係を深められる気がしない。
「はやっ」急に視界が回り、次に上半身に衝撃がきた。世界が横になっている。「ふあ」ほっぺから伝わる冷たさで自分が倒れていると理解する。
「ちょ、大丈夫?」
「うん、大丈夫。てて、ぼーっとしてたよ」
手を差し伸べてくれたので、その手を掴み立ち上がる。
「進むにしても、足元を確認しなきゃだね」
「そうだよー。すっごいクリビツしたんだから」
親友に言ったら、確認するより走れ、なんて言いそうだな。そんなことを考えながら音楽室の扉を開ける。既に五人程中で準備を始めていた。
挨拶をして、教室の中に入る。
今日も部活頑張ろうっと。




