少年-8.それでも男か
目の前で同級生がサッカーに興じていた。これだと参加していないように聞こえるが、一応参加はしている。ただ自分のチームの攻撃に参加していないだけだ。
自陣のゴール前で攻めているチームを傍観する。隣では悪友がしゃがんで砂をいじっていた。
「ひっまっだっぜー」
「全然そうは見えないけどな」
「そうか? 充分暇だぜ」
親指の爪程度の石を拾い上げ、軽く振りかぶって投げる。それでも立ち上がろうとはしない。
「お前も攻めれば? サッカー部の力を見せ付ける時だぜ」
「いーよ。女の子が見てくれなきゃ、やる気でない」
軽く辺りを見回すと、男しか見当たらない。丁度コートの外で遊んでいた同級生のボールが転がってきたので、足の内側で蹴って返す。だが、コントロールが悪かったので相手を多少走らせる結果になってしまった。
「単純だな」
「複雑なより単純なほうがいいだろー」
「かもな」
雑談を続けていても、こちら側にボールが来る気配はない。今日は相手チームのサッカー部員が休みだとかで、こちらのチームが優勢だった。いつもは押され気味なので少し気分がいい。
「そういや知ってる? 何で体育の授業で、女の子がこの時期体育館なのか」
「さあ? どうでもよくないか」
「よくない!」
悪友は地面を踏みしめて、勢いよく立ち上がった。握りこぶしを胸に当て、俺に体ごと向く。
「もうすぐ梅雨じゃんか。それで雨が降って、体操着が濡れて下着が透けることを避けるためだってよ。許せねえよな」
「いや良い事だろ」
「馬鹿野郎! お前それでも男か!」
悪友が力をみなぎらせ、言葉に熱がこもっているように感じた。拳を胸辺りまで持ってきて震えさせ、わざとらしく目を見開いている。
「正真正銘の男だよ」
悪友から視線を外し、ボールを取り合っている遠くを見やる。いつまでやっているんだ。超ロングシュートとかでも決めてコイツを焦らせてくれないかな、などと考える。
「ああ、そうじゃねぇ。俺が考えるべきなのは、そうことじゃなくて」
頭を掻き毟る。今朝頼まれた脚本の案を考えないといけないのだ。恋愛モノはまともに見たことが無い。映画でストーリーの補助的要素としての恋愛なら多く見てきたが、恋愛をメインに据えた話はタイトルすら覚えていない。
「何悩んでんの?」
「ああ? ああ、部長に頼まれた脚本どうしようかなって」
「恋愛モノだっけ?」
「そう」
「それなら、俺に良い案がある」
胸を張って、ドヤ顔を見せられる。一応コイツには彼女がいるから、俺よりは良い考えがあるのかもしれない。
「露出を多めにすればあっ! 間違いなあいっ!」
「は?」
返ってきた答えはくだらないものだった。
「おっぱい! 男も女も大好きおっぱい! 画面いっぱいにおっぱいがある話作れば皆にウけること間違いなし!」
一瞬でもコイツに期待した自分が馬鹿だった。十秒前の自分を殴ってやりたいと後悔する。黙れ阿呆と言う気すら起きなかった。
コイツの顔にロングシュートをぶち込んでくれないかなと願うと、足元にボールが転がってきた。先程転がってきたボールと同じだ。転がってきた方角を見るとクラスメートが手を振っている。
脚を振り上げ、ボールを思い切り蹴る。
コントロールが悪いのは自覚していたが、今回は狙い通り悪友の脛に命中してくれた。




