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短編

コミュ力のある俺!

作者: 魔桜

 学級にはだいたい二つのグループに区分けすることができる。

 簡単にいうと、イケてるグループとそうでないグループだ。だが、そのグループから弾き出されるというパターンも少なからずある。その内の一人が俺なのだが、別に必然的にボッチということではない。敢えて一人でいるというだけだ。

 勉強もスポーツも適度にこなせる俺は、性格も明快であるとは思っている。堅物過ぎず、笑いながら冗談を振りまくぐらいのコミュ力は持っている。そうありながら俺がどちらのグループにも混ざらないのは、なんとなくどっちにも居づらいからだ。

 どっち側かにいろという視線は感じるのだが、どっちも一長一短。ずっと同じ場所にいると、しがらみみたいなものがあって面倒くさい時というものがある。だから、日々誰とでも話すようにしている。島を点々と移動するようなイメージで、俺はクラスの全員と絆を深めている。

 そして今日話しかけようと思っているのは、グループからあぶれた奴だ。いつも教室の隅で肩身が狭そうに縮こまっている奴。別にコミュニティから隔離されていうというわけじゃないけれど、ちょっと陰気なところがあるからだろうか。それとも、ただ不運で最初の学級始めに仲良くなるきっかけを掴めなかった憐れなやつなのだろうか。

 まあ、どちらでも俺には関係ないのだが、こちらから話しかけてやった。そうしなければ、そいつはずっと独りだったからだ。だが何故か拒絶された。俺がわざわざ声をかけてやったというのに、そんなに独りでいるのが楽しいのだろうか。そう思っていると、そいつにこう言われた。

 君も独りだと。

 そいつが何を言っているのか分からずに、俺はムキになって反駁した。何を言っているんだと。俺はどのグループにも属してはいないが、その代わりにどんなやつとでも談笑できている。いわばクラスでは人気者の位置にいる。お前みたいな毎日独りで昼飯を食べているような人間と、同じ括りをされても迷惑なだけだと。

 だがそいつは、普段他者と会話という会話を日常的にやっていないためか、上擦りながら早口でまくし立てた。


 僕は誰とも一緒にいないし、友達もいない。他人から関心も抱かれずにまるで空気のような存在であるから、結構僕の耳には入ってくるんだよ。内緒話にすらなっていない、その場にいない人間の陰口ってやつがね。クラスの連中って本当に馬鹿だよね。話題に上った人間がそこにいないってだけで、簡単に悪口を言うなんてさ。壁に耳あり障子に目ありっていうのに、やっぱり誰かとつるむ奴ってどこか頭が悪いんだよね。独りの時は小心者の癖に、誰かが傍にいると急に態度がでかくなるんだからさ。お笑い種だよ。

 ああそうそう、でも本当におかしいのはさ、彼らの話に出てくる人間だよね。色々な人間の罵詈雑言をたくさん耳にしていたけれど、統計をとって一番多いのは君だったよ。なに、どうしたの? 信じられないって顔しているね。でもこれは紛れもない真実だよ。みんなこぞって楽しそうに君をあげつらっているからね。

 君、ナルシストでしょ? そういうのって普段の態度ですぐにわかるもんだよ。忠告しておくけどそうやって普段から他人を見下してたりしたら、いつかは絶対に独りになるよ。ああでももう君は元々独りなのか。なんだか色々出来て得意気になっているみたいだけど、みんな本当は君のこと嫌いだってさ。君は自分が一番好きで気がついていないみたいだけど、あんな上から目線な話し方じゃあ、当たり前だね。

 そんなこともできないのかって馬鹿にしたように訊くのが多いよね、本当に。他人を否定して自分を優位に立たせたいのか知らないけど、まずは自分を否定してみたら? そうしたらまだ今よりはましになるんじゃないのかな。


 なんだこいつ、ほんとに気持ち悪い。胡乱な目つきをしている奴が独白をしているさまは、本当に見ていて気分がいいものじゃない。なにより話の内容があまりに信憑性がなさすぎではあるが、ここまで並び立てられると苛立ってしまう。

 何が独りだ。あんなに普段仲睦まじく歓談しているのに、みんなが俺の悪口なんていうわけがない。ナルシストって、仮にナルシストであっても何が悪いんだ。勉強やスポーツができているのは元からの才能だってあるし、少なからず俺だって色々努力してこうなっているわけだ。それを他人がどういようが、所詮は僻みにしか思えない。そうだ。あの男が俺に僻んであることないこと出鱈目を吐いただけだ。

 気にかかっていたやつの答えがでて、少しはスッキリした。もうあんなやつに話かけてやることはないだろう。精々独りでなにかしておけ。俺は世渡り上手で空気を読める奴だから、今日もどこかのグループにいってやる。

 だけど、今日はどこに行こうかな。いつもはランダムで行ってはいるのだけど、なんだか最近どこかおかしい気がして足が竦む。なんというか、俺が行くとちょっとみんなが話を止めるような気がするんだ。誰かが確実に間違っていることを話していたから、それは違うんじゃないかと断言しただけなのに。それだけなのに、何故か空気が凍ってしまった時があった。

 うん、やっぱり今日はあそこのグループには行かなくていいだろうな。少し頭の冷却時間をおいてやったほうが、どちらが正しいかは徐々に浸透していくだろう。あそこのグループにいるやつらっては、考えが凝り固まっているのがいけない。全部自分が正しいと思っていて、傷の舐め合いみたいなことを永遠と続けている。それは悪くないよ、なんてことをずっと話しているのが面倒くさい。

 それじゃあ、今日はどこに行こうか。でもそっちのグループもまたひと悶着があったし、そこのグループでも……。はあ、どうしてどいつもこいつも俺の言うことを聞かないんだろうか。どうせ俺がなんでもできるから嫉妬しているんだろうけど、いいかげんにして欲しい。

 そうだ、今日は久しぶりに独りでいようかな。いつも俺が自発的にどこかのグループに突っ込んでいるだけだから、たまには待ってみるのもいいかもしれない。独りでいたら、いつか誰かは話しかけてくるだろう。だって、あんなに俺が毎日みんなに話かけているんだから。

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