卒島水門の場合6
すみません誤変換直しました。
あまりにもマヌケな別れだったように思う。最初から最後までハプニングの連続だった。明日からはもう青海はいない。そう思うと、俺はなんとなくしんみりした気持ちになった。抵抗もむなしく、あいつはやっぱり俺の中で特別になってしまっていた。…まあ、あれだけ人をかき乱すような奴はそうそう居まい。なんとなくもの寂しくなってしまうのはしょうがないだろう。…もの寂しい、というのとも少し違うような気もするが。何だろう。
「何考え込んでるの?」
聞き覚えのある声に、俺はぎょっとして顔を上げる。
「青海!?おまっ、なんでここに!?」
「閻羅さまにお願いして戻ってきちゃった。」
「『戻ってきちゃった』って!まさか俺を殴るために!?」
「んな訳あるか!」
青海の繰り出す右ストレートが俺のボディに炸裂する。地味に痛い。
「いてぇ…。」
「ふん。自業自得でしょ!人のことほり投げたのはいったい誰!?」
駄目だ。話がズレていっている。
「…青海、罰を受けてまで現世に居たいのか?」
「うん…。罰は、ちゃんと受けるよ。」
そういった青海は今まで見たことがないような真面目で静かな表情をしている。…なら俺は何も言うまい。
「じゃあ俺は青海が1秒でも早く黄泉に向かえるようにせっつくことにする。」
「えー。何それー。」
青海は不満そうだが、これも俺の仕事の一つである。そうそう、重要なことを聞くのを忘れていた。
「で、こっちに戻ってきた理由は何だ。」
「んー、ナイショ!」
そういって青海は逃げ出す。
「待て!」
「いやだよー!」
青海はちょろちょろとすばしっこく結局逃げ切られてしまった。…明日、覚悟しとけ!
次の日、朝一番で青海を見つけ突撃した。こうなったらなりふり構っていられない。
「おい青海!」
「あっ、おはよー。」
能天気に挨拶する青海に向かって言い放つ。
「黄泉に向かえよ!」
「理由も聞かずに!?」
昨日逃げ出した自分のことを棚に上げてよく言う…!
「昨日聞いたら『ナイショ!』とかいって逃げたのはどこのどいつだ!」
「朝から熱いねぇ。ほら、落ち着いて。ひっひっ…」
「それはラマーズ法だ!」
俺は真面目に言っているのに、青海はどこ吹く風、あははと笑っている。
「んー、あのね、戻ってきた理由はね。」
理由を話そうとする青海に俺はなんとなく居住まいを正す。
「えっと、その…。」
「…おい。」
「ちょ…ちょっと待ってよ!」
慌てたように青海が言う。…なんだかこのやり取り、前にもしたような。
「青海、お前言う気あるのか?」
「あっ、あるわよ!ただ、その、なんていうか…言いにくいのよ!」
青海は顔を真っ赤にして半ば叫ぶようにして言った。
「なんで?」
「あんたにはデリカシーというもんがないの!?」
「は?」
俺は面食らう。今、デリカシーがどうかという話をしていたか?
「私のは、なんていうか、こう、ぷ、プライベートこの上ない内容なの!言いにくいのよ!察してよ!」
青海はヒートアップしていく。顔の赤さが最高潮に達したかと思われたとき、青海ははっとした表情をした。
「ごめん。」
「は?」
いきなり何謝ってるんだ?やっぱりどこかおかしいんじゃないか?
「私が間違ってた。」
「あ?」
「あんたにデリカシーを求めた私が悪かった。」
「…お前のその発言はデリカシーがあるといえるのか?」
デリカシーがないなんて言われて黙っているつもりはない。だが、また話がズレていっている。これが話の本題ではない。
「とにかく、夕方もう一度来るからそれまでに解決して黄泉に向かうか、最低でも俺に理由を説明できるようにしとけ。」
49日の法要を終えて尚現世に滞在するものが黄泉に向かうのに俺たちの手助けは必要ない。閻羅さまに話した『未練』がなくなれば、自然と黄泉に向かうことができる。
「最大限努力します。」
ぼしょぼしょと返事をした青海を残し、俺はその場を後にした。
それから何度も―それこそ日に何度も青海に会いに行ったが、反応ははかばかしくなかった。こそあど言葉をもごもご言うのを聞くだけの毎日だ。自分で解決に向けて努力しているのかとたずねたら、頑張ってるけどうまくいかないの!とまた真っ赤な顔で叫ばれてしまった。
もうすぐ49日の法要の日から1週間になる。早く青海を黄泉に向かわせなければ。
次話は明日更新は難しいかもですが、明後日には更新したいと思います。