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始まりの終わり  作者: 蘇芳
本編
6/13

卒島水門の場合5

 こんな調子でほぼ毎日といっていいほど青海紀に質問攻めにされた。ちなみに彼女は一つの質問でできるだけ多くのことを知ることができるように試行錯誤していた。そして「私と地獄の役人さんが飛んでいける範囲(縦方向横方向両方)はどこからどこまでか。なお二人の間にその差があるようであれば、それも説明すること。」というテスト問題かと思うような質問を編み出した。

 約2ヶ月という時間はけして短くはなかったはずだ。だがこの二ヶ月弱、今までの生活がウソのように密度の濃い時間だったように思う。



 そして、青海紀を黄泉に送る日が来た。



 49日の法要が終わってすぐ黄泉に送るのではなく、基本的に49日の法要がある日の午後5時に送ることになっている。そしてこのことは、送る幽体にもあらかじめ伝えることになっている。心の準備をするためだ。昨日、青海に伝えた。4時50分。俺は時刻を確認すると、青海のところに向かった。

「青海。」

 後ろから呼びかけると、青海は飛び上がらんばかりに驚いた。

「う、あ、なに!?」

 青海は相当驚いたらしい。かなりうろたえた様子で振り返った。そわそわしているし、視線はうろちょろしている。

「…大丈夫か?」

「へあ?何が?」

「う…。気のせい!気のせい!」

 気のせいなんかではなく、明らかに挙動不審だ。だが本人がそういうなら大丈夫なのだろう。俺はそう考え、青海を黄泉に送る準備をはじめる。

「何?このど●で●ドアみたいなの。」

「このドアの向こうは黄泉だ。」

 青海が目を見開く。まさか今日が黄泉に向かう日だってこと忘れてるんじゃないだろうな。

「ちょ…ちょっと待って。」

 ちらりと時計を見ると5時少し前だ。10分以内は誤差とみなされるから、少しくらいは大丈夫だろう。

「何?」

「いや、その…、えっと、あの…」

 青海はそう言ったきり黙りこんでしまった。…5時を回ってしまった。急がないと。

「こそあど言葉が言いたかったのか?もう時間だ。」

「うっ…。だって。」

「だって何?」

「うう…。あの!」

 急に大きな声を出すからびっくりした。青海は口を真っ赤にさせて口をぱくぱくさせている。…お前は金魚か。

 俺は再度時計を確認する。5時5分。そろそろ限界だ。

「…もう時間ぎりぎりだ。言いたいことがあるなら早く言え。」

 そして再び辺りは静まり返る。…5時8分。もう本当に時間がない。

「青海、何か言いたいことがあるなら閻羅さまに言え。もう本当に時間がないんだ。今5時8分だ。10分までは誤差と認められるが、それ以上は罰くらっちまうぞ。」

「…あんたが?」

「まあ俺にもあるが、お前のほうが重い罰だ。だから…」

「うん。ありがとう。」

 何がありがとうなんだ?それより時間が本当にやばい。5時、9分。

「ね、罰があるということは、49日の法要のあとも現世にいられる方法があるの?」

「あるが、罰が重い。やめろ。」

 

 後、30秒。


 俺は早口に答える。


「ふふ。ありがとう。」


 だから何がありがとうなんだ!?


 後、15秒。


「早く黄泉にいけって!」


 俺は乱暴にドアを開ける。


 後、10秒。


 青海がこっちをじっと見て笑う。


   9


 耐え切れなくなった俺は青海を抱える。


   8


「ちょ!?何!」


   7


「だから時間がねえって!」


   6


「わかってるって!」


   5


 俺は大きく振りかぶる。


   4


「まさか!」


   3


 そして、投げた。


   2


「ウソでしょー!!」


   1


「戻ってきて殴ってやるー!!」


   0



 キィ…バタン。


 

 ドアがひとりでに、閉まった。

卒島のターン長いですよね。あと2話くらいで一区切りつく予定です。

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