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始まりの終わり  作者: 蘇芳
本編
5/13

卒島水門の場合4

 今日の天気は曇り空だ。昨日まで降り続いた雨は止んだが、いい天気とは程遠い。今日こそは青海紀と関わらな…

「おはよー!」

「…っほんっとうに俺のペースを崩してくれるな!お前は!」

「あー、また『お前』って言った!」

「人の話を聞け!」

 青海紀にそう怒鳴ってからはっとした。駄目だ。このままじゃ相手のペースに乗せられてしまう。

「何熱くなっちゃってるの?ほら落ち着いて深呼吸して。ひっひっふー。って。」

 彼女はあっけらかんとした表情でそうのたまう。いや呼吸って。今お前幽体だから。そもそもそれは深呼吸ではない。そう突っ込みたい気持ちをぐっと我慢して尋ねる。

「何か用か。」

「えっとねー。質問ができました。あのね…」

「1日に3つまでにしてくれないか。」

 怒涛の質問が始まる前に俺はそう提案した。質問をまったく受け付けないというのは職務放棄だが、これくらいなら許されるだろう。そもそも昨日のような勢いで毎日のように質問されたら、それこそ職務の遂行に支障をきたしかねない。

「えー。」

 彼女は不満そうな表情を浮かべながらも、しぶしぶうなずく。

「じゃ、今日一つ目の質問!『地獄のお役人さんは現世の人に見えるの?』」

「見えない。」

 俺は端的に回答する。昨日は少し丁寧に答えすぎたような気がする。目指せビジネスライク。

「えっ、ウソだ!だって…じゃあどうやって現世で生活するの?」

「正確に言えば、このブレスレットをはめれば見えるようにできる。」

「へー。どういう理屈?」

「知らん。」

「じゃあ…」

「終わりだ。」

「え?」

 質問を続けようとする青海をさえぎる。

「もう3つ質問に答えた。」

「え!まだ1つだよ。」

「『地獄のお役人さんは現世の人に見えるの?』『じゃあどうやって現世で生活するの?』『どういう理屈?』…の3つだ。」

「うう。確かに。」

 青海はうなだれる。今日のミッションコンプリート目前だ。

「じゃあな。」

 別れの挨拶を告げ、その場を去ろうとした。


「待って!」


 はっしと腕をつかまれた。何かまだ用があるのか?腕をつかまれているのが正直言って落ち着かない。

「何?」

「あ…。え、と、その、また…明日。」

 そういって青海は微笑む。明日会わないかもしれない。少なくとも俺に会う気はないと言おうかと思ったけど、やめた。青海の微笑みは今日の天気と同じで曇っているように思えた。

「腕、はなして。」

「あっごめん。」

 青海はあわてて手を離した。俺はほっとして、彼女に背を向けてからこう言った。

「またな。」

 それは地獄の役人である俺が言える最大限譲歩した一言だった。これを聞いて彼女がどう思ったかは、後ろを向いてしまった俺には知る由もなかった。



思ったよりも卒島のターンが長くなりそうです。

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