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始まりの終わり  作者: 蘇芳
本編
3/13

卒島水門の場合2

いつ誰が命を落とすのか、地獄でも完璧に把握できているわけではない。人の運命は移ろいやすく、判然としない。いつ、どこで、誰かが命を落とすことが決まっていても、それが『誰』なのかは直前までわからないことも多い。交通網の発達により、人の行き来が盛んになったことが大きな原因のひとつである。そしてその乗り物によって起きる事故は、把握することが難しい。

 そして、その『誰か』が命を落とさずに済むケースも出てきた。これはひとえに医療技術の進歩によるものだから、むしろ喜ぶべき誤算なのだろう。

 事前に誰が死ぬかわかっていたら何ができるというわけでもないが、自分が今日迎えに行く人物が誰であるのか直前までわからないのはなんとなく落ち着かない。



 今日迎えに行くのも誰だかわかっていない。今日朝8時ごろ駅前の交差点で事故が起きる(予定)。交通事故に巻き込まれて命を落とすケースは、本当に直前にしかどうなるのかわからない。今日も現場付近に向かう途中で連絡を受け取った。


『オウミアキ 女 16才』


というのが、今日俺が迎えに行く相手らしい。顔はわからないが、それっぽいやつを探さなければならない。そもそも宙に浮いているやつを見つけられればたいていの場合アタリだからそうそう支障はない。

 宙に浮いているやつを探しながら飛んでいると、前方に他の人より上半身が飛び出たやつがいた。声をかけようとしたそのとき、気づいてしまった。彼女「オウミアキ」が、あの文化祭で出会った少女だということに。



 ああそうか、彼女は死んでしまったのか。なんとなく残念に思ってしまっている自分がいた。まああんな歌声の持ち主が死んでしまうのは世の中の損失だと思う。ほんのすこしだけ彼女の存在が特別なものであったようだ。

 のんびり考えている暇はない。仕事中だ。俺は気持ちを切り替え、「オウミアキ」に声をかけた。

「おい!そこのお前!」

 ざわざわしている周りに負けないような声で呼びかける。「オウミアキ」は自分と同じく宙に浮いている俺の存在に気づいた。そして口を開いたが、彼女がしゃべる暇は与えず、俺は次の言葉を発した。

「あんた、死んでるから。」

「…あんた、今、なんて、言った?」

 彼女は今自分が置かれている状況を認識できていないのだろうか?ならばしっかり説明を行わねば。

「あんた、死んでるからって言った。あんた、今自分が幽体になってるの理解してる?49日の法要が終わるまでは、そのまま好き勝手にうろうろしててかまわないけど、終わったら閻羅さまのところで審判を受けてもらうからそのつもりで。」

 今自分がどのような状況におかれているのかわからないと不安だろう。聞きたいこともあるだろうし、「他に質問は?」と続けようとして言葉を失った。


 なんと彼女はばたばたと涙をこぼしている。自分が死んでしまってショックなのはわかる。だが俺の前で大泣きしないでくれ!

「あー…。」

 俺が対応に困っている間も、彼女は涙を流し続けている。自分が死んだと知って、パニックになったり、声を上げてわんわん泣き出したり、ぽかんと呆けたり(このパターンが一番多い気がする。)、いろいろな反応をするやつがいたが、声も出さずに大泣きするやつは初めて見た。とにかく彼女を会話可能な精神状態へ持っていかなければ。

 だがどうすればいいのかまったくわからない。何をすればいいんだ!?俺も泣きたい気分になってしまいそうだ。


 ぽん。


 俺は悩んだ挙句、頭をなでてやることにした。大泣きしている子どもをあやす時ってたいてい頭をなでてやっているよな。と思い出したからだ。なんだか彼女の涙の量が増えたような気もするが、気のせいだということにしよう。

「あー、泣きたいだけ泣け。」

泣くだけ泣いたらそのうち止まるだろう。死した人々に対するケアも俺の仕事のひとつである。人の頭をなでる経験値が0に等しい俺は恐る恐る不器用な手つきで彼女の頭をなで続けた。



ラブコメはどこ行ったって感じですみません。そのうちラブコメ要素も入ってきます。(多分)

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