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始まりの終わり  作者: 蘇芳
幕間
10/13

彼女が彼に出逢った理由(ワケ)

前日談になります。アキ視点のお話です。

 今日は文化祭。お祭りムードが漂い、皆思い思いに楽しんでいる。私もそのお祭りムードの中買い食いしたい!なのに!



「みなに神よりの恵みがあらんことを。」



 どうして私がお芝居なんかしなくちゃいけないのー!!




 時はさかのぼること二ヶ月。幼馴染である江原蒼(エハラアオ)の一言が発端だった。

「お願い、アキ!演劇部に力を貸して!」

「また人不足?」

「や、そうなんだけど…今回のお願いはかなり切羽詰ってるの!非常事態!」

 わが校の演劇部はかなり凝った演劇をすることで有名である。完全オリジナルストーリーが売りで脚本・演技・演出すべてにおいて秀でている。あまりにも本格的であるがゆえに、生半可な興味で所属するのは無理なのである。よって演劇部の部員数は十数人と少数精鋭で、慢性的な人不足である。そのこと自体はアキもよく知っているし、何度かその手伝いをしたことがある。今回もその類かと思ったのだが…。

「いつもみたいに衣装作りのお手伝いとか、小道具の準備とかじゃないの?」

「うん…。実はね、引き受けてくれそうな人が他に居なくて…。今回のお芝居、私が初めて書いた脚本なの!」

 蒼は期待に輝く瞳で私を見つめる。普段一生懸命部活に打ち込んでいる彼女を知っているがゆえに力になってあげたい。

「私に、できるかな?」

「大丈夫!アキならきっとできる!」

 若干くい気味に蒼が答える。私はたっぷり十秒考えた後返事をした。

「わかった…。私にできることなら…。」

 そのとき私は忘れていた。この友人が食えないタヌキであることを。




「ちょっと蒼!どういうことよ!なんで私の名前が台本(ココ)に!?」

 私が台本のトアル部分を指差して叫ぶ。指し示す箇所は”キャスト”である。

「なんで私がお芝居に出ることになっているのかな…?」

 地に這うような声で尋ねる私に蒼は飄々と答える。

「いや、だから言ったじゃん。『非常事態』って。」

 …ちなみにこのことが発覚したのは私が協力を了承してからわずか5分後のことである。こいつ、はじめから私に引き受けさせるつもりだったな…!

「劇に出るとか無理!演技とかしたことないし!」

「台詞少ないから頑張ってー!」

「ええー…。」

 ほんの脇役だというのなら仕方がない。ひきうけてやっても…、ぱらぱらと台本をめくっていた手が止まる。

『雨乞いの巫女:歌う』

 私は最初のページに戻る。そこに書かれていたのは、

『雨乞いの巫女:青海紀』

 …落ち着け、アキ。もうすぐ昼休みが終わる。今ココでコイツを問い詰めるのは危険かつ無謀だ。

 私は台本を持つ手をプルプルさせながら、にっこり笑ってステキな友人に言った。

「ちょっと放課後顔貸せ。」

 蒼はうふふと楽しそうに笑った。




 放課後蒼を捕獲し、空き教室へ。

「どういうことか説明してくれるかな…!?」

 のほほんとした顔の蒼が言うには、今回の劇の登場人物が12人と多目らしい。その為劇に出る人が足りなくなった。少数精鋭の演劇部なのだから一人二役でも何でもしてどうにかしろと言いたいが、そういうわけにも行かないらしい。台詞の長短・その役の重要性などを加味した結果、助っ人に頼むのは3人と算出された。まあそこまではよかったらしい。しかし、1人脇役ながらも重要な役どころである人物がそこには含まれていた。それが雨乞いの巫女役だったのだ。雨乞いの巫女は台詞こそほんの二言三言だが、雨乞いのシーンで歌う必要がある。

「いやぁ、巫女ってぐらいだから歌唱力・声量は言わずもがな、見た目もそれなりであってほしくて。あと度胸満天の知り合いがアキしかいなくてさ☆声楽やってたアキならバッチシ!」

「だからって…!私が人前で歌うの苦手なの知ってるでしょ!?」

 私は声楽家の娘で幼いころから母の教育を受けていた。幼いころはなんとも思わなかったのだが、成長するにつれ人前で歌うことが恥ずかしくなった。合唱はまだ何とかなるのだが、テストで歌わされるときははっきり言って苦痛だ。だからカラオケにも行ったことがない。

「そこをなんとか!ほら、ヅラとベールかぶってさ、照明も直接当てないでできるだけ顔がわからないようにするから!それに舞台からは思ってるより観客はみえないよ!」

 長年の付き合いだけあって蒼の提案は的を射ている。私が人前で歌うのが苦手なわけは『私』を注視している観客が目に入るからだ。言ってしまえば、知っている人の前で歌うのが苦手なのである。顔を隠せば『それ』が青海紀だと認識されづらい。

「う…。でも、嫌なもんは…」

「まあ、嫌だって言ってもすでに言質は取ったし。」

「は!?」

「ほら。」

と言って、蒼は携帯を取り出す。

『わかった…。私にできることなら…。』

「アキは嘘なんてつく人じゃ、ないよね?」

 悪魔の笑みを私は見た。




 そしてその後妥協を許さない演劇部の連中に特訓を施され、あれよあれよと言う間に文化祭当日になった。




 ――彼女が彼に出会うまで、あと少し。

卒島君の影も形もありませんね。次も前日談の予定です。

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