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世界は俺の隣を中心に回っていた  作者: 白白明け
黒髪赤眼ツインテヒステリー女
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第七話

目を覆っていたバイザーを外せばそこに広がっていたのは見慣れない光景だった。

しばらく放心していた俺だったが、聞きなれた女性教師の声で現実に引き戻される。


『これでMMOカリキュラムの講習を終ります。みなさん、お疲れさまでした。15分後にホームルームがありますので各自慌てずに教室に戻ってください』


ああ、そうだったな。

ここは学園のゲーム室だ、俺は此処から『ユメワタリ』の世界へと飛び込んでいたんだ。

三時間前のことも忘れていた自分に呆れるが、体感時間では三日も前のこと。

それにその三日間で流れた時間は濃すぎた、少しボケてしまうのも仕方がないことだろう。

そんな言い訳をしながら立ち上り、両手を天へと伸ばして大きく伸びをする。

ゴキゴキと嫌な感じに背骨が鳴いた。

映画館で映画を観終わった後によくある、だらけて居たいような、動き回りたいような、そんな感覚が身体を包む。

――悪くない。

ゲーム室を出て教室に向かう途中、渡り廊下に備え付けられた大きな鏡を見ればそこには10年ぶりにやったゲームに魅せられた俺の姿が映っていた。


未だ心地の良い倦怠感が抜けないなか、俺は教室の席に着く。

すると待っていましたとばかりに駆け寄ってきた早乙女は鼻息を荒くしながら話しかけてくる。


「いにゃー、流石は政府公認MMOはすごかった。三日間があっというまでおどろいたにゃー。お前もたのしかったにゃん?」


「ああ、思ってたよりかなり楽しかったってのが正直な感想だな。だから、早乙女。俺もMMOの授業を取ることにしたよ。バイトを入れられなくなるのは辛いけど、それでも続ける価値があるな。ゲームってやつは」


「おおっ、遂にゲームの魅力に目覚めたんにゃなー。これで時代遅れにゃったお前も晴れて現代人のなかまいり。おめでとうといっておこうかにゃー」


「ありがとうといっておく。それでさ、俺、『ユメワタリ』をやり続けるのに決めたことは良いけどやっぱり素人だから詳しいことはしらないんだよ。教えてもらえるか?」


そう頼むと早乙女は何時ものように童話に出てくるペルシャ猫のような笑みを浮かべ、任せろと胸を叩く。


「そうだにゃん。知っておいた方がいいことは、色々あるんにゃけどまずは学園にある有名ギルドについては知っておいた方が無難だろうにゃ。トラブルとかあったら怖いし。お前も知っていると思うけど今日の講習中に『ユメワタリ』のにゃかにいたのは一年生だけだったにゃん。けど、授業が始まれば上級生と一緒にやることににゃる」


説明を続ける早乙女の声を聞きながら思い出す。

MMOカリキュラムは全学年同時に行われる合同授業だ。

それは冊子に書いてあったこと。

授業が始まれば1年だけではなく、2年、3年の先輩たちも『ユメワタリ』の中にいるということだ。

それは、ただ単純に人数が二倍三倍になるということではないだろう。

部活や委員会の年功序列というものだけではなく一年あるいは二年長くゲームをやっているというアドバンテージも出てくる。

普通の学校生活とはまた違う、上下関係という物があるのはある意味当然のこと。

もしかしたらそれを笠に来て馬鹿をやる上級生がいるかもしれないと、早乙女は言う。


「まあ、そう言うのは運営、学校側で取り締まっているし、現生徒会長が作ったギルド『虹色のきずにゃ』が抑止力ににゃっているからそこまで心配しなくても良いにゃ」


『虹色のきずにゃ』いや、『虹色の絆』か。

生徒会長が作ったギルドってことは弟が誘われているギルドだな。


「なあ、早乙女。ギルドっていうのは友達同士で作る仲良しグループみたいなもんじゃないのか?抑止力って、そんな警察みたいな真似をするのもギルドの役割なのか?」


「いにゃ、普段は仲間同士で作るグループって考えでいいんにゃけど、何かトラブルがあった時は現実でもゲームでもにゃっぱり物を言わせるのは数の暴力。大きなギルドに入るってことはその大きさに見合った庇護を受けるってことににゃるんだ。それを目当てに有名なギルドに入る1年生も毎年多いにゃん」


有名なギルド。

早乙女の話によれば学園で大きな力を持っているギルドは三つ。

現生徒会長が作ったギルド『虹色の絆』

運動部と文化部の一部が協力して作られたギルド『文武連』

そして、王さまと呼ばれる謎のプレイヤーの作ったギルド『王国』

この三つのバランスが学園で『ユメワタリ』の秩序を守っている、らしい。


らしい、というのはあくまでも早乙女一人の意見でありそもそもその早乙女の言うことは事実が誇張されていることが多い、というかほぼ絶対な為、話し半分で聞いておかなければならないからだ。


「まあ、ともかくギルドっていうのはただの仲良しの集まりってだけじゃないっていうのはわかったよ」


ギルドか・・・入るにしろ、作るにしろ、取りあえずあの糞ガキの意見もきかなきゃならないよな。

そんなことを考え、取りあえず納得した俺は早乙女に礼を言う。

そして額に手を当て大きく息を吐く・・・そろそろ我慢の限界だ。

説明してくれているのを中断するのもなんだからずっと我慢していたんだが、そろそろいいだろう。

いい加減俺達二人を見る周りの視線も気になってきたところだ、隣に座る女子なんかはまるでゴミでも見るような目で俺を見ている。

誤解だ、俺にそんな趣味はないしあったとしても早乙女なんかに頼むものか。


「ところで、言いたいことがあったんだけど」


「にゃに?」


「何でお前・・ネコ語で喋ってんの?」


朝まで普通に喋ってたじゃん。

いきなりそんなことされたら、まるで俺が無理やりそうさせてるように見えるだろーが。


「・・・・にゃっ!?ゲーム内での癖がつい!?」


顔を赤くして両腕を振り回しながらあわて始めた早乙女を見て、大きくため息をつく俺。

へー、糞ガキ以外にもゲームの中でキャラ被っている奴がいたんだ。

変人どもが。

いや、もしかしてゲームの中ではよくあることなのか?

―――その子のことに気が付いたのは、そんなことを考えていた時だった。


「―――あの、」


何時からそこにいたのかもわからない。

気付けばただ静かに一人の女生徒が立っていた。

早乙女も同じ様で突然傍に現れた女子生徒に驚いて椅子からひっくり返っている。

女生徒はそんな早乙女など見向きもせず、じっと俺を見ていた。

眼鏡の下からのぞくその直向きな目に、もの凄く見覚えがあった。

ああ、俺は彼女を知っている。

週に一度の図書委員としてやっている、図書室での貸出カウンター当番の仕事。

彼女は俺の隣で仕事もせずに何も言わずにもくもくとその直向きな眼で本を読み続けていた。

確か、名前は―――王城真菜(おうじょう まな)

図書委員の業務連絡でも伝えに来てくれたのだろうかと思った俺が言葉を発する前に、彼女は黒髪ツインテールの少女が赤い目で此方を睨みつけている絵が表紙に描かれた本を後生大事そうに両腕で握りしめながら


「私と結婚を前提にお付き合いしてください」


アニメじみたそんなセリフを教室の真ん中で叫んだのだ。




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