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世界は俺の隣を中心に回っていた  作者: 白白明け
黒髪赤眼ツインテヒステリー女
6/24

第五話



MMO講習最終日の昼ごろ、俺は力の限り駆けながら大通りの露店を目指していた。

その理由は今日の朝にまで遡る。


∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇



最終日、俺がこのゲームをやるのが今日で最後ということで異常にテンションの上がった夏木に引き摺られて早朝からモンスター狩りに勤しんでいた。


「うおっ!なんかコボルトが御一行様で湧いてきたっ!キタキタキタキターッ!テンションあがってキタわよっ。私っ!」


「いや、逃げようぜ。流石にこれは無理だろ。俺、もうポーションが切れちゃってるんだけど」


「兄さん。こんなに囲まれていたら流石に逃げきれないよ。無様に逃げ出して殺されるくらいなら、最後まで美しく生き足掻こう」


「・・・俺だけなら称号を『負け犬』に変えれば逃げ切れる気がする」


「・・・流石にそれは情けなさすぎるよ。兄さん」


「マッキ―もアッキ―も喋ってないで戦ってよ!ブルースライムまで群れてきたわよっ!ウヒョーーーーっ!」


奇声を上げながら敵に突っ込む裁縫師である筈の幼馴染。

何だあいつ、頭のネジでも吹っ飛んだのか?

弟の方を見るがこいつは苦笑しながら、しかし楽しそうに夏木の方へとかけていく。

はぁ、もういい。わかったよ。

俺はため息交じりに二人の後に続くしかなかった。

まったくもって、手間のかかる奴らである。


結果、俺達は三人仲良く死に戻りをするはめになった。

後で聞いた話だが、ああいう現象はVRMMOゲームの中ではたまにあることらしい、猛者たちの中には自分からあれに突っ込んでいきレベル上げをするやつもいるそうだ。

信じられん。

そんなことを呟きながら、ちんまいおっさんの住み家である大理石の花園を仰向けになって見上げていた。

両脇には夏木と弟が同じように仰向けになり、青い空を見詰めていた。


「俺、死に戻りは初めてだよ」


「私は2度目」


「俺なんか12回目だぞ」


爽やかな顔でそんなことを呟いていた二人は俺の言葉を聞くと、一瞬目を丸くして、笑いだす。

俺もつられて笑い。

そうして、しばらく笑い続けた後、どちらからともなく喋り出す。


「ねえ、アッキ―。ゲームって楽しいでしょ?・・・今日が終わっても、続ける気ってやっぱりないの?」


「そうだよ、兄さん。・・・俺は、兄さんが嫌だって言っても、居てくれた方がやっぱり、うれしいよ」


夏木のテンションが異様に高かった理由も、弟の苦笑が今日は多かった理由も、やはりそれなのだろう。

俺は今日が終わればこのゲームを止める。

二人は止めないで欲しいという、それは嬉しい。

本心からそう思う。

けれど、駄目なんだ。


「悪い。俺はお前達に引きとめられてもこのゲームを続ける気はない」


二人の瞳がどうしてだと問いかけてくる。


「弟、お前は生徒会長がやってるギルドに誘われているんだろ?何時までも、俺にかまってはいられない。夏木は元々生産職だ。今みたいにモンスター狩りをしているのはおかしい、違うか?俺はお前たちと違って、ゲームが上手いわけでもないからな。もし、お前達に引きとめられてゲームを続けたら、きっと二人に頼り続けることになると思う」


「そんなの別に――」


「言うなよ、それ以上」


『そんなの別に俺は気にしないよ』と言おうとしたんだろう、俺は弟の言葉を遮る。

立ち上がり弟を見下ろすように睨みつけた。

たぶん、その視線には憎しみも少しあったともう。


「俺はお前の兄だぞ?プライドだってある」


少ないけど、な。

あんまり兄さんを苛めないでくれ。

現実の世界だけじゃなく、ゲームの世界ですら弟に頭が上がらなくなるなんて流石に俺だって辛い。

だから、もし俺がゲームを続けるのならその理由はこの二人以外の何かじゃなくちゃならない。


「頑固だよね。昔からマッキ―は」


夏木がそう言う。

自分でもそう思う。

けど、これがなけなしのプライドなんだから仕方がない。

俺は弟に手を貸す、弟は苦笑しながらその手を取って立ち上がった。


「じゃ、気を取り直して今日を楽しむことにしない?三人とも結構レベルも上がってきたし、次は『夜の森』にいってみようよ」


夏木はもう切り変えたのか、楽しそうに笑う。

それについては俺も異論はないんだが、ふと疑問に思うことがある。


「なあ、さっきも言ったけど夏木は生産職だろ?昨日も今日も戦ってばかりだけど、いいのか?」


「うっ、」


・・・・なんだその反応は。

聞きだせば、今日、実は生産職の友達グループから誘われていたのだという。

俺はため息をつきながら夏木にそちらへ行くように言う。

俺と遊ぶより明らかにそちらの方が大事だろう。


「・・・でも」


「VRMMOはコミュニケーションが大事なんだろ?遅れてでも行った方がいい。自分だってわかってるだろ。俺と遊ぶのは、何もゲームでじゃなくてもいい。さっさと行って来い」


「・・・うん」


渋々という風に歩いていった夏木を見送っていると、弟が感心したように言う。

ただでさえ美形の顔を、苦笑ではなく微笑みに変えて。


「ほんと、兄さんはすごいや。俺がいくら言っても夏木は聞いてくれなかったのに」


「当事者か、当事者じゃないかの違いだろ」


「そうかな」と首を傾げる弟、二人きりになった訳だが「これからどうする」と聞けば、「兄さんは一人の方がいいんでしょ?」と言われた。

苦笑するしかない。

気にするわけでもなく、笑いながら弟は去っていく。

最後に、


「ああ、そう言えば兄さん。格闘家でも『剣術』のスキルを付ければ刃物が扱えるようになるから、スライムも倒せると思うよ」


とアドバイスをしながら。

・・・・だから、格闘家の時といい、そう言うことはもっと早く教えてほしかったよ、お兄ちゃんは。




∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇ ∇




――――てなわけで、今は最終日の昼ごろ。

大通りをウロウロしていた俺は遂にその店を見つけ出した。

露店ではなくしっかりとした店舗を構えた、カードの看板を掲げた店だ。

なるほど、露店巡りばかりしていた俺の目には入らないわけだ、意気揚々を入って行く。

店番をしていたのは残念ながらおっさんではなく、黒いローブをはおったおばあちゃんだったが、まあいい。

俺はその店、スキルショップで『剣術』のスキルカードを買い求めた。


『剣術』『愴術』『弓道』『魔術』『短剣術』のスキルは特殊なんだそうだ。

そういえば、ちんまいおっさんが魔法使い以外でも『魔術』のスキルを付ければ魔法が使えると言っていたような気がする。

つまりは、『剣術』のスキルがあれば剣が、『魔術』のスキルがあれば魔法が、どんな職業の人間でも使えるようになるのだろう。


今、思えば裁縫師である夏木がナイフを振るっていたのも変だった。

普通なら戦闘職でない職業の者は武器が持てない筈。

たぶん、あいつは『短剣術』のスキルを付けていて、だからあの魔法のナイフを扱うことが出来たのだろう。


そんな結論に辿り着いた後、俺は『朝の草原』に立っていた。

無論、目的は天敵であるスライムにリベンジすることだ。

今日でこのゲームを止める俺、負けっぱなしは趣味じゃない。

俺を11回も殺したスライムに眼に物を見せてやり、気持ちよくこのゲームを終えてやろう。

既に右手には武器屋で買った銅の剣、左手には『剣術』のスキルカードが握られている。

準備は万端だ、俺はスキルカードを使いスキル『剣術』を覚えた。

そして『剣術』のスキルをセット。

これで銅の剣が装備可能になった筈だ。


『銅の剣は装備出来ません』


高揚する気分に水を差す文が目の前に浮かびあがってくる。

どういうことだろうか?俺は確認のため、パラメータ―を見て首を傾げる。



プレイアーネーム  『マッキー』

レベル       『12』

職業        『格闘家』

スキル       『拳法 カウンター ラッシュ がまん 剣術』

セットスキル    『拳法 カウンター ラッシュ がまん 剣術』空きスロット1

発動スキル     『拳術 カウンター ラッシュ がまん』

称号        『初心者』

所持金       570G

装備        頭 無し

腕 アイアンアーム

          胴 麻の服

          腰 麻の腰巻

          足 麻のズボン



どういうことだろうか、『剣術』のスキルが発動していない。

バグかと思ったが、『拳法』のスキルが『拳術』に変わっていることに気づく。

これは、たぶんちんまいおっさんが言っていた合成スキルというものだろう。

『拳法』+『剣術』=『拳術』だろう、たぶん。

何の意味があるんだと首を傾げていた俺、そしてまさかと思いこのままスライムに挑んでみることにした。


敵はスライム。

格闘家の打撃では幾らやっても勝てなかった俺の天敵。

油断はできない、俺は攻撃を避けながら天高く腕を振りあげて、スライムに手刀を繰り出した。

すると、スライムは斬れた。

一撃で真っ二つになり溶けていくスライム。


俺は予想があたり、愕然とした。

この『拳術』というスキルは、格闘家に打撃だけではなく斬撃もできるようにするスキルだ。

何という無駄っ!

そんなことをするくらいなら、素直に剣を持たせてくれればいいのに。

格闘家は『拳法』のスキルをセットしていないと攻撃が出来ない、そして『剣術』のスキルをセットしても発動スキルは『拳術』なので剣を装備することができない。

どうやらこのゲームはどうやっても格闘家が武器を装備することが出来ないようになっているらしかった。


呆れ半分、驚き半分でしばらく固まってしまっていた俺だが、そんなことをしている間にスライムに囲まれてしまった。

少し前なら逃げ出すしかなかったこの状況、だが今は違う。

イレギュラーはあったものの、俺は戦えるんだ。

手刀を構え、スライムに突っ込む。

相手のレベルは1、俺のレベルは11、スライム達は一撃で瞬く間に倒れていく。

今まで勝つことができなかった敵を蹂躙する爽快感は素晴らしい。

このあと俺は「見ろっ!スライムなんて雑魚じゃないかっ!」と叫んでいたところを他のプレイヤーに「当然だろ」みたいな目で見られるまで、スライム狩りを続けたのだった。



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