◇ 6
足の向くまま歩いて辿り着いたのは、彼女とよく来た洋服屋だった。レースやリボン、フリルのついた服が数多く取り揃えられている。この服屋に来る度に、彼女は黒い服を手に取り、私は白い服を手に取った。彼女はそれを見る度に、不愉快そうに眉を顰めて私を睨んだ。
ふと、モノクロのギンガムチェックのワンピースが目に留まる。今、私が穿いているフレアスカートと同じ模様。このスカートもこの店で買ったものだ。いつも白い服を手に取る私に、ある日彼女が「私との折衷案よ」と言って、押しつけてきた。そのとき以来、私に着られることも、彼女に着られることもなく、クローゼットに仕舞われたままだった。
店内をゆっくりと歩きながら、私は彼女と初めてこの店に来た日を思い出していた。
「このお店じゃないと、嫌なの」
ふふっと嗤いながら、彼女は言った。お洒落でも何でもないジャージを着た私の手を引く彼女は、黒いブラウスと黒いフレアスカートを着ていて、いつものように真っ黒だった。フリルのついた真っ黒いワンピースを私に当て「似合うわ」と嗤う。
「……私、あれが良い」
ふと目についた真っ白なワンピースを指差しながら私はそう言った。白いものが良かった。彼女の部屋に置かれたものは真っ白だったから、私も白くなって、彼女の部屋に置かれたかった。これできっと、私は彼女の物。
「嫌よ。貴女は私のモノになってくれるんでしょう? そんな真っ白な服、ただのお人形になるだけだわ。私の部屋の装飾品にでもなるつもりなの?」
「私、貴女の物だから、白が良い」
「――そう」
彼女は不愉快極まりないという表情で、私を睨んだ。私はただ、彼女を見つめ返した。
白い服が良い。白で着飾って、彼女の部屋に置かれたい。私は無機質な物となって、彼女の部屋の装飾品となって、そのまま果てたい。彼女の所有物として、朽ちていきたい。お人形で良い。お人形が良い。
「そうなのね。分かったわ、そういうことなのね」
彼女は酷く低い声でそう言うと、私が指差した白い服を乱暴に掴み、レジへと持っていった。
結局、私はお人形のような人間だった。人間なのだ、物じゃない。だから私は、今も彼女の物になりたいと願い、堕ちたいと願い、彼女の姿を探す。彼女との日々の痕跡を辿る。
店内をゆっくりと三周して、何も買わずに店を出た。そのまま、いつものように公園へと向かう。彼女に堕ちるとは、なんなのだろう。そう悩みながら、何も得られずに私はまた家に戻るのだろう。




