5/9
◇ 5
真っ黒な彼女のコルセットを、いつもよりきつく締める。鏡に映る私の顔は、どうにも苦しげだった。伸ばしっぱなしの前髪が目に掛かって鬱陶しい。横分けにしてピンで留め、彼女の黒いリボンで髪を結う。真っ白い家具ばかりが並ぶ部屋で、黒いものを身に付けると、彼女になれたような、そんな気がしてくる――私は彼女のお人形なのに。所有物が所有者になるなんて、聞いたことがない。
いつものように玄関扉を開けて外に出る。生ぬるい風が頬を撫ぜる。ふと、今日は公園に行くのではなく、違うところに行こうと思い立つ。彼女と行ったことのあるどこか。足を踏み出せば、黒いハイヒールがカツンと無機質な音を立てた――なんてニヒル。




