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ななじゅう ぷらす はち。

 


目的地に着いてまず思ったのは扉がとても豪華だなぁということなのです。


それから、他の扉と違って壁や床に使われている石と同じくらい白い綺麗な扉なのですよ。


ヴェルノさんが一度扉に耳を寄せて、その後にゆっくりと扉を押し開けます。


少しだけ開いた隙間に身を滑り込ませるように入って行く後を追って、私も部屋へ足を踏み入れました。




「ふわぁ~…!」




真っ白な部屋の中は月明かりが反射して淡く光っているように見えるのです。


どことなく教会のような雰囲気があって、広いお部屋の奥には祭壇のようなものがありました。


引っ張られてその祭壇の前へ行くとヴェルノさんは私から手を離して懐から小さなナイフを取り出します。それで何と指先を切ってしまったのですよ!


声も出せないくらい驚いた私の目の前で切った指を祭壇の上に置かれた鏡のようなものに翳します。


ぽたり。血が鏡の表面に落ちると波のように鏡面が揺れました。


魔法?!ミステリー?!!ちょっと怖いのですよ!!


ヴェルノさんの背に隠れるようにしがみ付きながら鏡を見ていれば、淡く鏡が光り出し、ヴェルノさんはナイフを仕舞って私を軽く押して鏡の前へ立たせるのです。


固まった私を他所に鏡の光りは強さを増し、やがてふわりと蛍が飛ぶように四散しました。




「え、ヴェルノさん…?」




鏡の上に腰から上辺りまで現れた人の姿に思わず名前を呼んでしまったのです。


しかし、本物のヴェルノさんは私の真後ろにいて、私の肩に手を置いております。


ということは、目の前の人はヴェルノさんではないのですね?


よくよく見ると同じ青い髪と黄金色の瞳ですが目の前の人の方が髪色が濃くて、瞳の黄金色もオレンジ色が強いように思えます。ですが顔立ちは全く瓜二つ。双子と言われても納得してしまいそうですよ。




『あぁ、久しいな。()が愛しい子の子孫よ…。』




どこか嬉しそうにそう言ったのは目の前の人。見上げたヴェルノさんは、それはそれは嫌そうな顔で舌打ちを一つ。


私を見下ろして「こいつがお前の会いたがってた男神だ。」と不機嫌そうにおっしゃいます。


え?この人が神様なのですか?


ヴェルノさんにそっくりの顔で、別段神様らしいと言えるところは見当たりません。


しかし神様は私をジッと見て驚いた様子で黄金色の瞳を見開きました。同時に何かを小さく呟きます。言葉が違うのか、何を言ったのかは聞き取れませんでした。


でも言った言葉は分かりました。




「ごめんなさいです。私はあのお姉さんではありません。」




あのお姉さんの名前を神様は呼んだのです。


私はお姉さんの魂の欠片から生まれた存在なのかもしれません。けれども、もう私は私であって神様が大好きだった人ではないのですよ。




『そうか、魂の片鱗が転生(てんしょう)した者か。道理で何時までもあの娘が見つからぬ訳か。…あの娘の生まれ変わりと、吾等(われら)の子孫が共に居るとは運命はかくも面白きものよな。』




しみじみと悲しそうに呟く神様に私も悲しい気持ちになってしまうのです。


ずっと大好きな人を待って、探し続けたのに、もうその人はいません。とても永い間を一人で過ごすのは寂しくて悲しいことだと思います。


だけど、それも今日でもう終わりなのです。




「あの、神様…私、お姉さんから伝言を頼まれたのですよ。」


『伝言?』


「はいです。‘愛してる。でも、もう待たなくていいのよ’…そう、伝えて欲しいとお願いされましたのです。」




お姉さんからの伝言をそのまま伝えれば、神様は目を丸くして、それから黄金色の瞳を閉じました。


何度も何度も「そうか、そうであったか…。」と噛み締めるように口の中で零しているのです。


伝わりましたか?お姉さんの気持ち、きちんと分かりましたか?


ジッと見つめていた私に気付いたのか神様は目を開けると眉を下げてしまいました。




『伝言、確かに受け取った。…世話をかけたな、転生者よ。』


「私もお姉さんにお世話になりました。だから、これはそのお礼なのです。」


『…そうか。』




懐かしそうに私を見る神様には、きっと私の向こうにお姉さんが見えているのでしょう。


呼び出した内容はこれだけだとヴェルノさんが告げると神様は鷹揚に頷き、ゆっくりとその体が薄くなっていくのです。


空気に消えるように薄れていくその姿に思わず私は声をかけてしまいました。




「神様っ、お姉さんは亡くなってしまいましたが、神様とお姉さんの子供の子孫は生きているのです!ヴェルノさんも、私も生きています!きっとその子供も、そのまた子供も生きるのです!神様は独りじゃないのですよ!!」




大好きな人には会えなくても、その人の血が流れる人達は精一杯生きているのです。


だから神様も独りではありません。だって、その人達は神様の子でもあるのですから。


最初から神様は独りではないのですよ。ただ気付かなかっただけで。


そして世界中の人が神様を信じているのなら、それは神様を大切だと思っている証拠なのです。


私の言葉に神様は笑って、だけどその頬には涙が零れ落ちていました。




『真にあの娘のような事を申すな。…ありがとう、転生者よ。その言葉、決して忘れはせぬ。』




最後にふわりと淡く輝いて神様は消えてしまったのです。


まるで、初めからいなかったかのように月明かりに照らされる祭壇に私は泣いてしまいました。


きっとこの涙は私の涙ではなく、お姉さんの涙なのだと思います。


嬉しくて、悲しくて、幸せで、切なくて。色んな感情の中でただただ‘良かった’と言う言葉しか出て来ない私をヴェルノさんが強く抱き締めてくださるのです。


同時に私の中で何かが消えていく感覚がしました。


それは恐らく、私の中に残っていたお姉さんの感情だったのでしょう。


涙が収まった頃には悲しさも切なさもなくなっておりました。




「落ち着いたか?」


「……はいなのです。」




優しく問われて頷きます。大好きな人が傍にいるということは、それだけでとても幸せで、とても素敵なことなのですね。




「私、やっぱりヴェルノさんのことが大好きなのです。ずっと、ずーっと一緒にいたいのです。」


「言っただろ。泣いても(わめ)いても、俺はお前を手放す気はねェって。」


「絶対に離さないで欲しいのです。」


「海賊のクセに随分欲のねェ我が儘だな、真白?」


「いいのです、私は謙虚な海賊を目指すのですよ。」




こつりと額がくっつけられて、触れるだけのキスが降ってきます。


そうして、離れた後はどちらからともなく笑いが零れ落ちました。



 

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