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ななじゅう ぷらす ろく。

 





王城に忍び込むと話し合ってから二日目の夜、私はこの世界にきて初めてズボンを穿きました。


ズボンといっても七分丈のもので、若草色のワンピースの下に黒いそれを穿いて、更に上から膝まである黒いマントを着ています。


ヴェルノさんは普段とあまり変わりませんが、暗めの色合いの服です。


装飾で音が鳴ってしまうからいつも頭に巻いている布はなしなのですね。


…そういえば、最近ターバンを巻いているヴェルノさんを見ていません。


ベッドの端に座りながらテーブルに広げた設計図を見つめているヴェルノさんを眺めてみました。


やっぱりターバンが足りませんね。見慣れたものが変わると物足りないです。




「仕度出来たか?」




ふと顔を上げたヴェルノさんが気付いて洋紙を丸めました。


頷いてベッドからひょいと立ち上がり私はその隣りまで行きます。




「準備万端なのですよ。」


「…転けんなよ。」


「もちろんです!」




私の頭を一撫でしてからヴェルノさんは部屋を出ます。その後を追って私も廊下へ出て、きちんとお部屋に鍵をかけておきました。


向かうのはアイヴィーさんのお部屋です。


同じ階の一番角の扉をヴェルノさんがノックし、扉を開けたアイヴィーさんがサッと体を脇に退けました。


襟首を掴まれたと思う間もなく私は引きずられるようにヴェルノさんの手によってお部屋へ入れられたのです。


そして中には既に幹部の方々と数人の見覚えがある船員の方々がいらっしゃいました。




「待たせたな。」


「…これは酷いのですよー…。」




まさか人間の姿に戻った後にヌイグルミのような扱いを受けるとは思いませんでした。


苦しくはないのですが足が微妙に床から浮いているので離していただきたいものですが。


「もう!ヴェルノったら、真白ちゃんをそんな風に扱っちゃ駄目よぉ!」と怒ってくださるのはアイヴィーさんだけです。


当のヴェルノさんは悪びれた様子もなく私を床に下ろして軽く襟首を整えてくださり、頭を撫でてきます。


そんなことで誤魔化されませんよ!


ジトーッと睨む私を見た挙げ句「短気な女はモテねェぞ。」と言ったので無言でヴェルノさんの脇腹辺りを殴ってしまいました。


……い、痛い…。


逆に私の手の方が痛かったのです。惨敗なのです。




「船長、お楽しみのところ申し訳ありませんが時間が押してますよ。」




レイナーさんの言葉にヴェルノさんはくつくつ笑いを引っ込めて頷きました。


開け放たれた窓には太いロープが一本垂れています。


そこをスルスル下りていく船員の方々と幹部の方々、アイヴィーさん。


一人だけ残った船員さんはアイヴィーさん用のこの部屋で待機だそうです。


おもむろに振り返ったヴェルノさんが私を抱え、窓に近付いて行くのですが――…まさか、ですよね?




「叫んだらキスするから気を付けろよ。」


「なっ…?!」




文句を返す前にヴェルノさんは何かを掴むと窓の外に体を出してしまいました。


微かなシャーッという音と共に視界が一気に上へ流れていき、浮遊感が体を襲います。


悲鳴を上げそうになったのですが、ヴェルノさんの言葉が頭を過ぎったのでしがみ付いて耐えるしかありません。


すぐに浮遊感がなくなって下ろされた瞬間、私はパッと離れます。




「…今、生まれて初めて地面のありがたみを知りました…。」


「何だそりゃ。悲鳴上げればキス出来たのに残念だなぁ?」


「残念じゃありません…!」




見上げたロープには小さな取っ手の付いた滑車がついていて、ヴェルノさんが手を離すと微かな音を立てて上へ戻って行きました。


そしてロープが回収されてしまいます。


振り返り、私は先を行くヴェルノさんに手を引かれながら小走りに街中を抜けて行きます。


皆さんは早足で歩いています。コンパスの差なので、こればかりはどうしようもないのですね。


私は頑張って後を追い掛けるのです。


お城に到着した頃には息も絶え絶えな状態で、皆さんは仕方ないなぁといった風に苦笑し、近くの物陰で暫し休憩させていただけました。


休んでいる間にヴェルノさん以外はお城に入った後の話をしておりましたが、アイヴィーさんが飴をくださったので舐めつつ足をマッサージして疲れを溜めないようにします。




「何してんだ?」


「何って、マッサージなのですよ?運動した後にきちんと筋肉を労ると疲れが溜まらないそうです。…私は正しいマッサージを知らないので、かなり適当ですが。」


「へぇ。」




隣りに座っていたヴェルノさんは飽きずに私を見ていました。


それから私の気力が戻ってきた頃合いを見て、全員で移動します。


ずっと前に川から水を引き上げていた水路はもう使われておらず、警備の方がいる場所からかなり離れていたので簡単に入口へ行けました。


設計図があるとお城も形無しなのですよ。


人が一人やっと通れるくらいの水路にヴェルノさん、私、アイヴィーさん、幹部の方々、船員の方々の順に入ります。




「チッ、蜘蛛の巣か。」




鬱陶しそうに呟いてヴェルノさんが腕で払いながら進み、後ろのアイヴィーさんも嫌そうな声を上げました。


ちなみに私は背が低いお陰かヴェルノさんやアイヴィーさんが引っかかる蜘蛛の巣の被害を全く受けません。


ある程度中へ進んでから船員の方の一人が小さな松明をいくつか燃やし、内一つをヴェルノさんが持って、私達はまた歩き出しました。


水路はそんなに長くなかったようで、やや迷路みたいに曲がりくねった道を恐らく十分から二十分程度歩いた先に、唐突に壁が立ちはだかりました。




「おい、明かり消せ。」




ヴェルノさんの一声で、他の皆さんが持っていた松明を消します。


少し目の前の壁を照らした後、表面を触り、松明をアイヴィーさんに手渡して私は手を掴まれたのです。




「後に続けよ?」




小声で、でも全員に聞こえるように言って壁を押しながらヴェルノさんは私を引っ張ります。


すると音もなく壁が動き、回転ドアのようにクルリと回り出しました。


そのままヴェルノさんと二人で出たのは赤い絨毯が敷かれた暗い廊下です。


隠し通路ですか!


皆さんもクルクル壁を回して水路から出て来ました。


全員が出たのを確認し、私とヴェルノさんはアイヴィーさん達と別行動になります。


そして戻るのも別々で合流地点は宿。


ここから帰りまでは私がヴェルノさんを手助けするのです!


意気込む私に気付いたのか頭を数回、落ち着かせるように叩かれてしまいました。



 

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