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ななじゅう ぷらす さん。

 



一緒に船内に戻り、船長室へ行って海図も見せていただきました。


最も西にある国は本当に大きくて、下手をしたら他の国の倍以上もあるのです。


これほどに大きい国では攻められることもまずないのでしょう。


ウェルデルシヴァ。ヴェルノさんの生まれ故郷の国。


どんな風に人が暮らして、どんな風に王都が広がって、この国を成しているのでしょうか。


きっとヴェルノさんは戻りたくないのかもしれません。乗り気ではない様子を見れば明らかでしたが、それでも連れて行ってくださると言ってくださった優しさが私はとても嬉しかったのです。




「ありがとうございます、なのです。」




同じソファーに腰掛けるヴェルノさんは私の口から零れ落ちた言葉に意味が分からないといいたげな顔で「何がだ?」と言いました。


曖昧に笑って誤魔化すとちょっとだけ眉を上げて、でもそれ以上は何もおっしゃいません。


それでいいと思ったのです。これは言いたくて言っただけの言葉なのですから。


ギュッと抱き締めてもらう所から広がる温かな体温は私がここにいる証。ここが私の場所なのですと誰かに自慢したい気持ちを飲み込んで頬を擦り合わせます。


潮の香りとちょっと香った汗の匂いに少しだけドキリとしてしまいました。





























































「ぉおー!ここがウェルデルシヴァなのですか!」




降り立った港はとても賑やかで多くの商船が船体を並べ、目が回ってしまいそうなくらい人が行き交っているのです。


さすが王都!海賊達の孤島も多くの人々がおりましたが王都はその比ではないのですよ。


キョロキョロと見回していたからかヴェルノさんが呆れた表情で「迷子になんなよ」とおっしゃいます。


はっ…!もう離れ離れになるのは嫌なのです!


慌ててヴェルノさんの服の裾を掴んだ私を見てアイヴィーさんも幹部の方々もヴェルノさんと一緒に声を上げて笑っておりました。


途中に立ち寄った小さな海岸沿いの街で皆さんは服装を改め、今は他の商船にいらっしゃる商人の方々に混ざっても分からないような格好になっているのです。


そして何より驚いたのはヴェルノさんが少し長めだった青い髪を切ってしまったのです。


短くなった髪を後ろへ撫で付け、服装もワイシャツにベスト、スラックスのようなズボンを綺麗な革のブーツと合わせて履いていて、更にコートを重ねていてまるでどこかの貴族のような服装でした。


アイヴィーさんもいつも編み込んでいた髪を解いて緩く肩へ流しています。格好はヴェルノさんと似たような感じなのですね。


幹部の方々は他の船員の方よりもちょっと上質そうな服ですが、やはり商人や船乗りの格好なのです。


私はと言いますと真っ白なワンピースに淡い青色のポンチョコート、足元は編み込みのブーツでちょっとお洒落なお嬢さんという姿。選んでくださったのはアイヴィーさんです。


シンプルですが可愛らしくて素敵なお洋服なのですね。


ちなみにワンピースの下にはペティコートを履いています。これってスカートやドレスのシルエットを綺麗に見せるためのものだったのですよ。初めて知りました。


笑いを引っ込めたヴェルノさんが白い手袋に包まれた手を差し出してくださいます。




「お手をどうぞ?お嬢さん」




どこかからかうような口調で言われ、とても気恥ずかしくなってしまいました。


恥かしいのですが嫌ではないのです。そっと自分の手を乗せれば少し強引に腕を引かれて反対の手が腰に回されます。


そうしてなんと歩き出したのです!え、このまま行くのですかっ?


背の高いヴェルノさんとアイヴィーさんのお陰で人の多い道も問題なく歩いて行けます。


けれども道の至る所からお二人は女性から熱い視線を受けて、私はちっとも面白くありませんでした。




「鬱陶しいわねぇ~。全く嫌になっちゃうわ。」




貴公子のような格好のまま普段の口調で話すアイヴィーさん。なんだか見た目と中身は前よりもチグハグに見えてしまって思わず噴出してしまいました。


アイヴィーさんは周囲の視線にうんざりしていたので気付いていないようでしたが、ヴェルノさんはしっかり聞いていたようで、チラリと黄金色の瞳が私を見下ろします。


しーっと唇に繋いだままの手で人差し指を当ててニヤリとニヒルに笑いました。




「イライラしたら甘いものが食べたくなっちゃった。どこかで食事でもしていかない?」


「そうだな。真白、何か食いたいもんはあるか?」


「有名なお料理とか、名物とかを食べてみたいですっ」




こんなに大きな運河と繋がる王都ですからさぞかし美味しいものがあるのでしょう。


魚でしょうか、お肉でしょうか。それとも果物や甘いお菓子でしょうか?


返事をしながら想像しておりましたらお腹がきゅるるる~っと鳴ってしまいました。


それを聞いたヴェルノさんとアイヴィーさんは笑って、周囲を見回した後にお洒落で高級そうなお店を指差して「あそこにしよう」と言います。


あんないかにもなレストランに入るのは勇気がいるのですよ。


立ち止まりかけた私を促すようにヴェルノさんが腰と腕を引っ張るので足は自然と動いてしまい、結局お店に入ることになりました。


扉を開けてすぐのところにボーイさんらしき方がいたので更にビックリしてしまいました。


私達を見るとボーイさんはスッと流れるような動作で席に案内してくださいます。


それから渡されたメニュー表を見て愕然としました。


なんと、金額が一つも書かれていないのです!そんな馬鹿な!


ヴェルノさんもアイヴィーさんも涼しい顔でメニューを眺めていますが、可笑しいのは私なのでしょうか?


そういえば今まで何度か船外でお食事をしましたけれど、その時はメニュー表どころかご飯は全てお任せだったのでお値段すら私は確認したことがありません。


誰も何もおっしゃいませんでしたので気にしておりませんでした。


でも本当はかなりの高額だった…なんてことはありませんよね?


正面に座っていらっしゃるアイヴィーさんと、私の隣りに座るヴェルノさんを交互に見ていましたら二人揃って「ん?」と首を傾げられました。




「何か良いものがあったか?」




ごめんなさい。まだメニューを見ておりません。というか読めないのです。


私が言う前に気付いてくださったようで「あぁ」と何やら納得した様子で頷き、ヴェルノさんはボーイさんを呼んでメニューを見ながら何かを頼んでいました。


まるで呪文のようなそれをボーイさんも復唱し、満足そうにヴェルノさんが頷けば足早にボーイさんは去って行ってしまうのです。



 

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