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ななじゅう。

 




恥かしながらヴェルノさんと想いが通じ合って一週間、相変らず船は穏やかな航海を続けております。


そうして私もヌイグルミの時とほぼ変わらない生活をしているのです。


…ヴェルノさんは以前にも増してスキンシップが激しいですが。でも嫌ではないのでお断り出来ないのが、何となく悔しいのですね。


体が人間に戻ったのは嬉しいのです。しかしヌイグルミに慣れてしまっていたからか、この一週間はとても大変でした。


段差では(つまず)き、船が傾けば壁に激突し。


どうやら私の体は入院していたあの‘私’そのもののようで足が弱くなっておりました。


今は歩くくらいなら問題ありませんが、走ろうとすると絶対に転んでしまいます。


どこへ行くにもヴェルノさんは私を抱えようとするので余計に治りが遅くなってしまうのですね。


ポカポカとお日様が暖かい甲板でひなたぼっこをしながら目を開ければ、目の前には何故か外でゲームを楽しんでいる幹部の方々。ゲームはあのジャグラーです。




「真白、お前もやるか?」




私を抱きかかえてそれを眺めていたヴェルノさんの声が上から降ってきました。




「賭けるものがないのですよー?」




お金も何も私は持っておりませんから。ヴェルノさんは「確かになぁ」と笑います。


だけどジャグラーをやってみたい気持ちもあるのです。


以前教えていただいたので内容は分かっていますし、何よりあんなに楽しそうに遊んでいるのを見てしまったら好奇心が…!


私にも何か賭けに出せるものがあれば良いのですが。


考えていた私の頭にふっと良い案が浮かびました。そうです、ないのなら作ればいいのです!


立ち上がろうと足に力を入れたらヴェルノさんがガシッと腰を掴んで離してくださらないのです。




「どこ行くんだ。」


「賭けになりそうなものを作るのですよ!」


「あ?作る…?」




不思議そうに黄金色の瞳を瞬かせるヴェルノさんの腕から何とか抜け出し、近くにいらっしゃった船員の方から必要な物をお借りします。


インクとペン、それから使わない洋紙を一枚。…海図の製作中にお邪魔して申し訳ないのです。


横からヴェルノさんが覗き込んでくる中で私はインクにペンを浸し、洋紙の左上に‘真白’と自分の名前を書き、真ん中にあのヌイグルミをイメージしたウサギさんの顔を描きました。


そうして一番下に‘なんでもお任せあれ!’と書いて完成なのですよ。




「何だこれ?」




なかなかの出来栄えに満足していた私の手からヴェルノさんが洋紙を取り上げます。


私がこの世界の文字を読めないように、日本語もやはり読めないようで、マジマジと洋紙を眺めていらっしゃいました。




「私のお願い券なのです。これを持っている方は私に一つ、お願いが出来るのです!お掃除でもお話相手でも何でもござれなのですよ!」


「あら、それじゃあ可愛いお洋服を着て見せてってお願いも出来るのかしら?」


「もちろんです!」




アイヴィーさんの言葉に強く頷くと「それは素敵な券ねぇ」と笑顔で頭を撫でられました。


色んなお洋服が着れるなら楽しいので券は必要ないのですよ。むしろ私も可愛いお洋服は大好きなのです。


ヴェルノさんの手から券を取り返して私は幹部の方々のところへ行きます。


話を聞いていたのかユージンさんが座る場所を開けてくださいました。




「なら俺もやるか。」


「ダメなのです!ヴェルノさんは不参加なのです!」




立ち上がろうとするヴェルノさんを手で止めると不機嫌そうな顔をされてしまいます。


でも、ダメなのです。ヴェルノさんはジャグラーが滅法強いのだと幹部の方々に聞いておりますので、結果が決まってしまってつまらないのですね。


結局ヴェルノさんの胡座の上に座ってジャグラーをやる、という形で不参加になってもらえました。


皆さんがお金を置く場所に私はお願い券を置きます。




「それじゃあやるっスよ!」




大きな木製のサイコロを渡されました。最初は私ですか。ぽいと投げれば髑髏が四つ。


ユージンさんは一、セシルくんは六、レイナーさんは三、アイヴィーさんは二が出てきました。


同じ数字が出てしまった場合は再度サイコロを振り直すのだそうです。


皆さんがナイフを持ったので私もナイフを持ちます。これを自分の数字の場所に刺すんですね。


一斉にナイフを下ろして木の板に刺そうとしたのですが……




「さ、刺さらないのですよ…!」




何回ナイフを下ろしても板にちょっと傷が付くだけで壊れません。


幹部の方々だけでなくヴェルノさんやアイヴィーさんまで笑い出しますが、これじゃあ中身が分からないではありませんか!


意地になってガツガツやっているとヴェルノさんが別のナイフで板を壊してくださいました。


ユージンさんは金貨二枚、セシルくんは銅貨七枚、レイナーさんは銀貨四枚、アイヴィーさんは金貨一枚。私は銅貨三枚。




「このままだと負けだな。」




至極楽しそうに笑うヴェルノさんのお腹を軽くですが思わず叩いてしまいました。


まだです、三回勝負なので後二回あるのです!


渡されたサイコロに良い目が出ますようにとお願いをかけて、さっきより勢いよく投げるのです。


出た数字は三で、他の皆さんも数字を出していきます。


ユージンさんが五、セシルくんが二、レイナーさんが一、アイヴィーさんが四。


ナイフを取ろうとしたらヴェルノさんに先に取られてしまいました。




「お前じゃ壊れねェだろ?やってやるよ。」




笑い混じりの言葉に今度は足を叩いておきます。絶対それは優しさではなく、私をからかうために言ったのでしょう。


バキッと音がして出てきた硬貨は銅貨が五枚だけ。


ユージンさんは銀貨一枚、セシルくんとアイヴィーさんは銀貨三枚、レイナーさんは銅貨六枚。


今のところ一位は金貨二枚と銀貨一枚のユージンさん。二位は金貨一枚と銀貨三枚のアイヴィーさん。


ビリは言わずもがな私なのです。




「負けません!まだ後一戦残っているのですよ!!」




でもとっても悔しいのです!じたばたする私を抑え込むようにヴェルノさんが抱き締めますが、クツクツ笑っている声が丸聞こえなのですよ。


無視してサイコロを振ります。そう、これが最後なのです。


サイコロさん、頑張ってください!


投げたサイコロの目は一。ユージンさんは五、セシルくんは四、レイナーさんは六、アイヴィーさんは二。


皆さんがナイフを持つとドキドキしてきてしまいました。


私のお願い券は一体誰の手に渡るのでしょう?



 

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