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ろくじゅう ぷらす ご。

 



「王子、様…?」


「驚いたかい?この城に入れるのも神の血を受け継ぐ者だからこそ出来たんだ。」




ヴェルノさんは黙っています。何も言わないということは、ルイスさんの言葉は事実なのでしょう。


だとしても、だからと言ってルイスさんとヴェルノさんが対立する理由にはならないのでは?


やっぱりイマイチ要領を得ない状況に私はどう反応すればいいのか困ってしまうのです。




「カルヴァートは俺の近衛兵で幼馴染だったんだ。カルヴァートと連絡をとって海賊達の孤島を教え、襲わせた。あの島でヴェルノを殺すよう言ってあったんだよ。……まだ分からないのか?例え国に戻ったとしても俺は王になれない。弟で第一王女の唯一の子であるヴェルノが生きている限り一生な!!」


「! そんな…、」




何もかもルイスさんが仕組んだことだったのですか?全部ヴェルノさんを殺すために?


ルイスさんはヴェルノさんに叫びます。


私を生かすか自分が生きるか選べ、と。


考えるまでもありません。生きるべきなのはヴェルノさんなのです。


だって私は元々この世界の人間ではないのです。


死ぬのは怖いですが、きっとヌイグルミだから痛くなんてないのです。それならきっと我慢できるのですよ。




「さぁ、ヴェルノ!どうする?!」




剣がまた、私の首に沈んでいきます。圧迫感はありますが痛みはありません。


ヴェルノさんは私を厳しい顔でジッと見て、顔を伏せたかと思うと、その手から剣が高い音を立てて床へ落ちてしまいました。


なんで…っ、どうして…?!


ルイスさんとカルヴァートの顔に嘲りの笑みが浮かびます。


「ヴェルノ!」「船長!」皆さんに呼ばれてもヴェルノさんは顔を上げません。


でも、不意にふっとその口元が笑いました。




「……目の前でお前を失うくらいなら、俺が死んだ方がマシだ。」




言って、上げられた顔はいつも見せてくれる優しい笑顔なのです。




「イヤ!嫌なのです!!そんなの嬉しくないのですよ…!!」


「うるさいな。」


「ふぐっ?!」




ルイスさんが私の口元辺りを手で覆ってしまいます。


それにヴェルノさんは顔を顰めたものの、ちょっと困ったようにやっぱり私を見ています。


カルヴァートが嫌な笑みのまま剣を握り直すのが見えました。


ダメなのです。ヴェルノさんは死んではいけないのです!アイヴィーさんも、セシル君も、レイナーさんも、ユージンさんも、ディヴィさんも…船員の皆さんにもヴェルノさんは必要なのです!!


気付けば私は何の躊躇いもなくお腹に回っていたルイスさんの腕に短剣を突き刺しておりました。


それはルイスさんからいただいて、いつも身につけていたあの小さな短剣だったのです。


皮肉なことなのです。これでルイスさんを傷付けることになろうとは…。


力がかなり入っていたのか手を離しても短剣は腕から抜けることもなく、私の体が小さくブルリと震えました。


…初めて人に怪我をさせてしまいました。痛そうなこの傷口は私がつくってしまったのです。


予期していなかったのでしょう。ルイスさんが悲鳴を上げます。


それで一瞬気が逸れたのか、動きが鈍くなったカルヴァートの剣をジークさんが直前で受け止めてくださいました。




「ジーク?!」




カルヴァートの瞳が驚愕に見開かれます。


間に立ってヴェルノさんを守ってくださったジークさんは胸元についていた勲章を毟り取り、床へ投げ捨てます。「…俺は戻りますよ、船長。」そう言ったジークさんにヴェルノさんは笑い、カルヴァートが怒りで顔を赤くしました。


ざまぁみろなのですよ、カルヴァート。ヴェルノさんは死なせません。




「っ、この人形が…っ!!」




掴まれていた腕が離れたと思った瞬間、鈍い音がして私の視界がブレます。


体に圧迫感と浮遊感がきたかと思うと片腕から血を流すルイスさんが見え、焦った表情のヴェルノさんが見え、青い光を反射させる壁や床が上下逆さまになったのです。


すぐ蹴られたのだと分かりました。前にも一度、海軍の方に蹴られましたから。


「真白!」とヴェルノさんが呼ぶ声がします。


返事をしたいのに声が出ません。おかしいのですね。


何ででしょう?そう考えて私は視界に入った別のものに納得してしまいました。


宙に舞うヌイグルミの体は、大きな頭と完全に分かれてしまっていたのです。体の方からは真っ白な綿が少しはみ出てしまっているのです。


首の糸が切られておりましたから、蹴った衝撃で頭と体が切り離されてしまったのでしょう。


これでは声を出したくても出せませんね。


手を伸ばしてくださるヴェルノさんは今まで一度も見たことがないくらい必死な顔で。あぁ、私のためにそんな焦ってくれるのですかと嬉しい気持ちになったのですよ。


最後くらい名前を呼びたかったのに。


バシャリと音がして、部屋の奥の方にあったらしい泉の中に私は沈んでいきました。



 


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