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ろくじゅう ぷらす に。

 



お城は石造りで見た目はずっとずっと古いものですが、中はとても綺麗でした。


埃やカビの臭さとは裏腹に埃もカビも見られません。


むしろ壁にかけられた燭台には蝋燭が灯り、温かな室内はどちらかというと人が生活していても可笑しくないくらい整えられております。


御伽噺の通り、本当に時が止まっているのでしょうか?


天井の高い玄関ホールには建物の中なのに噴水らしきものがあって、左右から二階へ上がれる階段があります。階段の下には奥へ行くための扉が見受けられました。




「どこから行こうかしら?こう広いと迷っちゃうわねぇ。」




楽しそうに笑うアイヴィーさんにヴェルノさんが頷きます。




「面倒臭ェが、端から回って行きゃいいだろ。」


「そうねぇ。…高そうな物だけ持って行くのよ?持ち過ぎると重いもの。」




後半は後ろにいらっしゃる船員の方々へ言います。アイヴィーさんの言葉に元気よく船員の皆さんは返事を返しました。


ついでに私も一緒になって返事をしましたらヴェルノさんが「お前はいいんだよ」と上から頭を小突かれてしまいました。残念なのです。


一階の捜索は船員の方々で行うそうです。ヴェルノさんは階段に腰掛けて動く気はなさそうでした。


一言断って他の方々と部屋を回っていたのですが、数が多過ぎて途中からどこがどの部屋なのかこんがらがってしまいました。


このお城は外見と中身の広さが比例していないのです。


ヴェルノさんの下へ戻って報告しましたら「だから俺は行かなかったんだ」とおっしゃいます。なるほど、これだけ広いと一部屋一部屋回るのは大変なのですね。


何となくぼんやりとヴェルノさんを眺めてみました。他の方々よりも不思議とこのお城の雰囲気にヴェルノさんがよく似合っているように思えるのは気のせいでしょうか?


だいぶ時間が経過した頃、ようやく船員の方々が戻っていらっしゃいました。


でもあまり疲れた雰囲気はなくて、むしろ生き生きした様子で装飾品などを身につけてお互いに笑い合っています。海賊というのは体力も必要なのでしょう。


全員が戻って来たことを確認してからヴェルノさんは立ち上がり二階へ向かいます。




「突き当たりの両開きの扉は開けんなよ。」




そう釘を刺すと壁に寄りかかってしまいました。一階でもう諦めてしまった私は素直にヴェルノさんの隣りへ座ります。


船員の方々はまた楽しげに部屋を見に行ってしまったようでした。




「もう良いのか?」




分かっていてそう聞いてくるヴェルノさんの足をちょっとだけ私は叩いて抗議します。




「見て回るのは大変だと私は学習したのですよ…。まさかあんなに広いとは思いませんでした。」


「神が造ったっつーなら可笑しい話じゃねェ。人間二人が住むには随分ご大層な家だがな。」


「こんなに広いお家に二人だなんて寂しくなかったのでしょうか?」


「……さあな。」




お前の気にすることじゃねェよ。そう言ってヴェルノさんは私の頭を撫でます。


このお城の中はとても優しい雰囲気がするのです。きっと神様は本当に女の人を大切にしていたのでしょう。


でも、やっぱりこんな広いところで過ごすなんて寂しいのですよ。


私なら嫌だなぁ。なんて思っておりますと幹部の方々が戻ってこられました。


一階に比べて二階の方が部屋数は少ないようであまり時間もかからずに船員の方々もホールに来るのです。


そしてヴェルノさんが開けるなと言った扉の前に来ます。


その扉だけは他と違って装飾がなく、シンプルなものでした。


ヴェルノさんがそっと扉を押し開けます。私は思わず声を上げてしまったのです。




「廊下?!」




一体どうなっているのか、上へ続いているようで廊下は斜めになっているものの、とても長いのです。ゆっくりと螺旋を描いているみたいなのですが、やっぱり可笑しな造りなのですよ。




「声がデケェ。アイツらも来てんだ気を付けろ。」


「あ…!はいなのです。」




注意されてしまいました。


が、ヴェルノさんは廊下をしげしげと見るばかりで入ろうとはしません。


石造りで先ほどのホールや部屋と違いカーペットはありません。壁にかけられた燭台には火が灯っておりますが、何となく空気が冷たいのです。


試しに私が一歩入ってみます。……何も起こりません。




「どうかしたのですか?」




見上げてみればヴェルノさんはハァ…と溜め息を零しました。


「人形の重さじゃ動かねェか」と納得したような顔で呟きます。


何でもこの廊下には色々な仕掛けがしてあるそうなのです。見た目には普通ですが、矢が出たり槍が落ちて来たり穴が開いたり……まさしくトラップ地獄なのですね。


ヴェルノさんとアイヴィーさんは少し話し合うと船員の方々をホールに残し、幹部の方々と私の計七人で奥へ進むことに決めました。


人数が多ければ多いほどトラップを踏む確率も高まりますので出来る限り人数を減らしたいのだとおっしゃっておりました。わたしは軽いので問題ないそうです。


希望通り私は皆さんの先頭に立って廊下を進めそうなのでちょっと嬉しいのですよ。


ヴェルノさんには下手にそこら辺の物を触るなよ、と言われたのでそれは守ることにします。トラップを動かしてご迷惑をかけたくはありませんから。


七人で廊下に入ると何かの仕掛けに触れたのか突然後ろの扉が閉まってしまいました。


こちら側からは開けられないのか何と扉にドアノブがありません。ノブのない扉なんて初めて見ました。


カツン、コツンと足音が少し反響する廊下を慎重に歩きます。口数が自然と少なくなってしまうのは無理もないでしょう。私としては歌を歌いたいところですが怒られてしまいそうなので止めておきます。


と、後ろからカチッという音がしました。


振り返ると左右の壁が開き、その上からだいぶ古そうな大剣が両脇から降ってきます。片方はアイヴィーさんが、もう片方はヴェルノさんが難なく受け止めました。




「ちょっとぉ、早過ぎない?まだ扉から大して離れてないわよ?」


「それだけ人間を近付けたくないってことだろ。」


「ぁあっ、すんませんっス…!」




トラップを踏んだのはセシル君のようなのです。彼の足元の石が少しだけ沈んでいたのですよ。


そこの石はさっき私も踏んだのに…。ヌイグルミは軽いので対象外なのでしょうね。


トラップが動き出しても逃げられないので、ある意味助かっていると言えるのかもしれませんが。



 

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