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ごじゅう ぷらす きゅう。

 





湯船から上がり、二人揃って体を拭く。


大きな布に包まり自分で拭こうと躍起になっている真白を見下ろし、肌着とズボンを履き終えていたヴェルノが屈んで手を伸ばした。


布の上からワシャワシャと拭いてやれば中から言葉にならない声が聞こえて来る。


大体拭き終えて布を取りアイヴィーが用意していただろう服を着せてやる。ヌイグルミの下着姿は色気がなさ過ぎて流石のヴェルノも手を出す気は起きなかった。


真っ白な体に淡い青色のワンピース姿になった真白を抱えて浴室を出る。面倒臭くなって上着を着ないでいれば腕の中から抗議の声が聞こえたけれど、素知らぬフリでヴェルノは抗議の声を聞き流した。


部屋にアイヴィーの姿はなく、代わりに少し冷めてしまった夕食がテーブルの上に置かれており、真白を膝に乗せて椅子に腰掛ける。




「久しぶりのご飯…!」




感動したように呟いて落ち着かない様子でテーブルの上に視線を向けるヌイグルミにヴェルノは噴出した。


二週間近く食事をしていなかったらしい真白はかなり空腹を感じているのか、早く食べたいと言わんばかりに見上げてくる。


それに急かされて皿の上に並べられていたサンドウィッチの一つを手渡してやれば「いただきます!」と嬉しそうに言ってかぶりつく。ヴェルノもそれに倣ってサンドウィッチを手に取った。


膝の上で食事を腹に収めるのに必死になっている真白の頭を撫でる。


久しぶりにゆっくりと食事を摂る事が出来る。一応食べてはいたが、あまり手が伸びなかった。


そのせいか一口食べ始めると途端に空腹感が出て来てヴェルノも無言で食事を食べていく。


三つ目に手を伸ばすヴェルノの膝では、真白がスープを食べ始める。


椅子の肘掛に頬杖を付きながらその小さな肩をトントンと突付く。するとスプーンを(くわ)えたまま真白が見上げてきた。




「一口くれ。両手が塞がってて、食べれねェ。」




片手は頬杖をして、もう片手にはサンドウィッチを持つヴェルノの言葉に真白は一度小首を傾げ、それでも素直にスプーンでスープを掬うと慎重にヴェルノの口元へ寄せた。


オニオンスープの香りと味が口の中に広がる。




「ん、まぁまぁだな。」


「そうですか?私は十分美味しいと思うのですよー。」




一口、と言ったにも関わらず真白はヴェルノにもう一度スプーンを向ける。


真白が二口飲んで、ヴェルノが二口飲む。という状態に何故かなったけれど、どちらも特に気にした風もなくそのままスープは両方の胃袋へと消えていった。


サラダもあったが真白はほんの数口食べただけで満腹になってしまったのか、それ以上は口にせず、ヴェルノの腹部に寄りかかるように膝の上で力を抜いている。


その後頭部を撫でつつ残りをヴェルノが食べ切った。


満腹で眠いのか真白は動かない。声をかければ一応返事をするものの、普段でさえどこか間延びした口調が殊更ゆっくりとしており夢現のようだ。


抱え上げてヴェルノは真白と共にベッドへ寝転がる。


まだ湿り気の残る髪が少し冷たいが気にせず真白を抱き込みシーツを引き上げた。


素肌に感じるヌイグルミの柔らかさを堪能し、その長い耳にキスをする。もう半ば眠っているだろう真白の耳や顔に何度も唇を寄せ、ふと自分が言い出したこと思い出した。



――…街中捜し尽くせ。見つけ出した奴には金貨二十枚出す。



真白を見つけ出すために付けた褒美の条件。


言い出したのはヴェルノだったが、見付けたのもヴェルノである。


この場合は俺が金貨二十枚を得る事になるのか?と考え、思わずクッと笑ってしまう。


結局自分の金なのだから得るも何も無いのだけれど何となく奇妙な状態になったそれを思うと可笑しくて仕方が無い。


金貨二十枚。それで真白が欲しい物でも買い与えてみるか。


そんなことを頭の片隅に押しやって、ヴェルノは抱き締め直すと目を閉じた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝、目が覚めるとヴェルノさんに抱き締められておりました。


それは今までもそうだったので構わないのですが、問題はそこではないのですよ。


ヴェルノさんが上着を着ていなかったので起きたら目の前に胸板がありまして、これには思わず叩き起こしてしまいました。


ちょっと不機嫌そうに眉を顰められてしまいました。でも今回は私は悪くないと思うのです。


結局そのまま起きた私とヴェルノさんはお部屋で軽く朝食を食べて造船所へ向かったのです。


早朝でほとんど人がいなかったので、バッグの中から出していただいて、久しぶりに昼間の外を抱き上げてもらいながらお散歩しました。


造船所には早朝なのにもう大工さんと船員の方々が数人居て、私を見ると少し驚いた顔をし、それから皆さん笑顔で「見つかって良かった。」と言ってくださいます。嬉しさと申し訳なさに謝れば一人ずつポンと頭を叩かれて、もう勝手にどこかに行くなよ、次からは一人で動くなよと怒られてしまいました。




「ウルフ一家総出で捜索したんだからなぁ。」


「見付からなくて冷や汗止まらなかったぜ?」


「もう誘拐されんなよー?」




そんな言葉に返事をしていれば、ヴェルノさんに顎をがっちり掴まれてしまいます。


振り返ることも出来ないので少しだけ首を傾げてみると耳元で声がしました。




「次に無断で居なくなったら、そん時は泣こうが喚こうが首輪付けるからな。」


「首輪ですか?」


「あぁ、お前に似合うモンを特注してやる。…嫌ならフラフラするんじゃねェ。」


「はいなのです。」




でも、首輪ってチョーカーなのですよね?


それはそれでとっても気になるので、ちょっと欲しい気もするのです。


目の前にいる船員の方々は何故か少し青い顔で頬を引き()らせると、用事があるからとどこかへ行ってしまいました。


ヴェルノさんは私を抱えたまま大工さんと一緒に修理中の船へ入ります。外観は足場でほとんど見えませんが中は随分綺麗になっておりました。


船員の方々が大工さんの邪魔にならないように気を付けながら掃除もしているのだそうです。


私もお手伝いがしたいのです。そう言おうと顔を上げましたが、ヴェルノさんに「お前は俺と居ろ。」と先に釘を刺されてしまったので言えませんでした。


大工さんとヴェルノさんのお話は船のどの部分をどんな風に修理するかという内容と、現段階でどのくらい費用がかかっているかということなのです。


金額に関しましては口にするのも恐ろしいような額だったのですよ。


そんな金額を払えるのか不安になりましたが、ヴェルノさん(いわ)く‘その程度大した額じゃねェ’だそうで。私を買ってくださった時のことを考えてみれば納得してしまうのです。


…と言いますか私は船よりも高額だったのですね。




「此処はもう少し削って曲線を滑らかにした方が水の抵抗が減らせると思うのですが…」


「そうだな、金がかかる分には構わねェし船の速度が上がるってんなら削っといてくれ。」


「分かりました。それから此方の彫刻なのですが――…」




私は分からないので黙って聞いております。


時々ヴェルノさんが頭を撫でてくださったり、頬を引っ張ったりするので退屈ではありません。後、削り途中の部分には触らせてもらえませんでした。


木の棘や屑で汚れるから、だそうなのです。…もしかしてヴェルノさん、過保護になりましたか?


話を聞く分にはどうやら予定よりも早く船の修繕は終わるそうです。


私がいなくなっている間にヴェルノさんが大工さんをせっついたらしく一週間から二週間近く早く終わるかもしれないと言っておりました。とっても申し訳ないのです。


好奇心に負けて勝手に出歩いてしまった私が悪いので反省していましたら、アイヴィーさんがいらっしゃいました。




「真白ちゃん、無事で良かったわぁ。お帰りなさい。」




ニッコリ笑うアイヴィーさんに「ただいまなのです」と返事をすると目の前に手を出されました。


そこには見覚えのある小さなお花のブローチ……先視師(さきみし)のおばあさんからいただいた可愛いあのブローチなのです。色々あり過ぎて記憶から飛びかけていたのですよ!




「ブローチ!ありがとうございます!!」


「どう致しまして。船長室にずっと置きっ放しだったから、気を付けてねぇ?」


「はいなのです!」




さっそくワンピースの胸元にブローチをくっつけます。


これには、おばあさんが‘早く人間の体に戻る方法が見付かりますように’というおまじないをかけてくださっているので、これからは出来る限りつけていませんといけませんね。


失くしたらおばあさんに申し訳ないですし。


ブローチをそっと撫でていましたらヴェルノさんが「良かったな。」と頭を撫でてくださいます。


ヌイグルミなので表情は見えないのでしょうけれど、私は私に出来る精一杯の笑顔で返事を返しました。






 

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