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よんじゅう ぷらす なな。

 






暗いのに、明るい。どこまでも広くて果てがないのではないかと思ってしまうような、そんな場所に私はいました。


自分が上を向いているのか下を向いているのか…立っているのかも分からないのです。


でも不思議と不安はなくて、とても穏やかな気持ちになれる場所。


だけど、どこからか誰かの泣き声が聞こえてくるのです。


悲しくて苦しげな泣き声はふとすれば消えてしまいそうなくらいに微かな声で。それでも無視することなんて出来ないくらい胸を締め付けられる声で。


よくよく聞いていると声は二つあるのです。


一つは子どもみたいな声。もう一つは大人みたいな声。


どちらも声を上げて泣いているのです。


声に引き寄せられるように足を踏み出しますと、足の裏に硬い感触がありました。…地面、なのでしょうか?とりあえず私はしっかり立っているようなのです。


そうと分かればもう迷うことはありません。声のする方へ私は走り出します。


走って、走って、走って―――…突然壁にぶつかってしまいました。痛くはないのですが見えない壁にぶつかって跳ね返ってしまったのです。


何とか起き上がった私からやや離れた場所に二人の人がいました。


一人は私くらいの女の子、一人は私よりもずっと大人の女の人。


二人とも私に背中を向けて泣いています。聞いている私も悲しくなるくらい二人は泣き続けていました。




「どうして泣いているのですか?」




私の問い掛けに女の人が背を向けたまま答えてくださいます。




「とても、哀しいから…。」


「何がそんなに悲しいのですか?」




女の子は私の声が聞こえていないのか泣いたままなのです。


女の人はゆっくりと振り返って、私を見ました。


綺麗な栗色の髪に翡翠色の綺麗な瞳の、可愛いかもしれませんがごく普通の顔立ちの女の人は涙を零しながら言います。




「…大切な人を残して来てしまったの。」


「その人のところには戻れないのですか…?」


「えぇ…もう二度と、私は私として彼に逢う事は出来ないわ。」




そして彼も、彼として私と出逢う事はないの。


ずっとずっと伝えたいことがあったのに。


女の人が言っていることはよく分からないのですが、それが悲しい原因なのだということだけは分かりました。


もう会えないのだとしても、何かしてあげたいのです。泣かなくて済むように、いつまでも悲しまないように。




「その人はどんな人なのですか?」


「え?」


「お姉さんが会えないのでしたら、私がその人を見つけて伝言を伝えるのですよ!」




私の言葉に女の人は少し驚いて、それから微笑みました。


女の人の口は動いたのになぜか声が聞こえません。


聞き返そうと今度は私が口を開こうとした瞬間―――…




「――…ろ、真白!!」


「!」




ガッと揺さぶられた感覚で一気に目が覚めました。


驚いているとヴェルノさんが覗き込んできます。


大丈夫か?と問い掛けられて、よく分からないながらも頷きましたら頭を撫でられました。


どうやら私が魘されていたので起こしてくださったようなのです。


でも、魘されるような嫌な夢ではなかったのですよ。


けれど心臓がとても早くなっているということは何か嫌な夢だったのでしょうか?


ベッドから窓の外を見てみればもう暗くなってしまっておりました。


随分寝てしまっていたようで、起き上がったヴェルノさんは乱れていた髪を手櫛で整え、欠伸を一つ零すと私を抱え上げるのです。




「お出かけですか?」


「あぁ、腹減った。」


「ご飯ですか!」




思ったよりも大きな声が出てしまいましたが、ヴェルノさんは可笑しそうに笑いながら頷きます。


そうして宿を出ますとネオンではないですが昼間の屋台は消え、代わりにそこかしこのお店から楽しげな笑い声が聞こえてきました。


散歩をしているような軽い足取りのヴェルノさんと共に街中を進んでいきます。


途中までは道のりを覚えていたのに、それに気付いたヴェルノさんが右へ左へ路地ばかり入るのでもうこんがらがって分からなくなってしまったのです。


ヴェルノさんの頭に巻いた布の垂れた部分を引っ張って抗議をしてみましたら仕返しとばかりにグニグニと頬を引っ張られてしまいました。頬が伸びた私を見てヴェルノさんは至極楽しげに笑っておりました。


やがて人気のない路地裏にある店の一つに入ります。


開けた扉の先には薄暗くやや狭い階段が一つ、地下へ向かって伸びています。


ヴェルノさんはその階段をスタスタと下りていらっしゃいますが、足元が見えないような暗さなので内心冷や冷やしてしまいました。


少し下りるとすぐに階段は消えて代わりに扉が一つ。


その扉を開けると今度こそ聞き慣れた騒がしさと暗闇に慣れた目を刺激する眩しさが私とヴェルノさんを包みました。




「ヴェルノ、遅かったじゃない。」




アイヴィーさんの声に釣られるようにヴェルノさんが室内へ足を踏み入れます。


お酒やら食べ物やらの匂いが充満した部屋は思っていたより天井は低いですが、船員の方々がいても余裕でまだ人が入れそうなくらいスペースが余っておりました。


床に敷かれた絨毯の上に座るアイヴィーさんの横にヴェルノさんも腰を下ろします。


そこでふとアイヴィーさんや幹部の方々、船員の方々の服装は普段と違うことに気が付いたのです。


何と言いますか今ここにいらっしゃる皆さんはまるで街の人のように、いわゆる一般人の格好をしていました。頭に布を巻いてもいないし、腰布もありません。


首を傾げている間に私はアイヴィーさんのお膝に移され、ヴェルノさんは船員の方々の間を通り抜けて入って来た扉とは別の扉の向こうへ消えてしまいました。




「皆さん、服装が違うのです。」




見たままに言いましたら、傍にいたセシル君とレイナーさんが振り返って教えてくださいます。




「いつもよりこの島には長く居るからっスよ。海賊ってバレると厄介だから服装で誤魔化してるんス。」


「案外、服一つ変えるだけで分からないものだよ。」


「確かに皆さん街の人!って感じがするのです。」




私がうんうんと頷けば二人だけでなく話を聞いていた他の方々も可笑しそうに笑いました。


それが何だか楽しくて思わず私も笑ってしまいます。


食べ物を持っていた船員の方がこちらに来て私に食事を届けてくださいます。お祭りの時にたまに見かけるドネルケバブに似て、ナンで野菜とお肉を包んだようなものとジュースでした。


ただドネルケバブに似たそれはとても大きくてアイヴィーさんが片手に持っても余りあるくらい、とにかく大きかったのです。


そんなに大きなものを私が持って食べれるはずもなく、程なくして戻って来られたヴェルノさんにお願いをしました。




「お洋服とっても似合っていますねヴェルノさん、これを持っていて欲しいのです!」




普通のお洋服に着替えた姿もとてもよく似合っていて、ついでにドネルケバブによく似たそれを食べる間支えて欲しいのとでヴェルノさんの姿を見つけた途端にそう口走ってしまいました。これ、と言いながらドネルケバブに似たそれを持ち上げます。


あ、言いたいことを続けて言ったら可笑しな文章になってしまったのですよ。


全く繋がりのない文章に流石のヴェルノさんもやや呆れ顔で元の場所に座ります。




「これか?…あぁ、持てねェのか。」


「はいです。大きすぎて持つと食べられないので、支えてくださいなのです。」


「ほらよ。」




あっさり私の手からドネルケバブに似たそれを取り、食べやすいように先の方を私の前に下ろしてくださいます。もう片手でヴェルノさんも自分の分を持って食べ始めました。




 

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