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よんじゅう ぷらす ご。

 





翌朝、やはり雨が降りしきる中を船は出港しました。


靄のように煙る視界の中を船は順調に進んでいるようでしたが、長く続く雨のせいか船員の方々の活気もあまりないように思えるのです。


変わらないのは幹部の方々とヴェルノさん、アイヴィーさんくらいのものでしょうか。忙しそうに海図を見たり、騒いだりと鬱屈としてしまいそうな外を全く気にしておりません。


…次の島は晴れていると良いのですが。


テーブルの隅っこに座りながら窓の外を眺めていたせいか、ヴェルノさんがポンポンと頭を撫でてくださいます。




「安心しろ、次の島は晴れる。」


「…どうして分かったのですか?」


「お前程分かりやすい奴ぁそういねェだろ。」




何となくヴェルノさんの方へ座った状態のままズリズリと寄っていきますと、可笑しそうに笑われてしまいました。


いつも思うのですが、ヴェルノさんは常に皆さんから一歩離れているような気がするのです。


どれだけ騒いでいても、どんな時でもヴェルノさんの傍だけは必ず静かで人が少ないのですよ。


それって何だか寂しいのです。ヴェルノさんは船長なので敬わなければいけないのかもしれませんが、時には皆さんと一緒に騒いだって良いと思うのです。


ヴェルノさんの服を軽く引っ張れば黄金色の瞳が問いかけるように私を見下ろしました。




「ヴェルノさんは皆さんと一緒に騒いだりしないのですか?」


「「「「「ぶっっ…!!」」」」」




私の言葉に何故かヴェルノさん以外の方々が飲み物を噴いたり、食べ物を噴いたり、思わずといった様子で咳き込んだり、転んだり。しかしヴェルノさんだけは相変らず愉しそうな笑みを浮べているのです。


そうしてテーブルの上にあったクッキーをいただいているとアイヴィーさんがヴェルノさんの隣りに腰を下ろしました。


「真白ちゃんってたまに、怖い事言うわねぇ~。」なんて呆れと感心が半々に入り混じっている声で呟いて、私を見ます。


そうなのでしょうか?ヴェルノさんに視線を移してもニヤニヤと笑ったまま、私の食べかけのクッキーを取っていってしまうのです。しかも抗議をする前にクッキーは食べられてしまいました。


仕方が無く新しいクッキーを食べ始めると、またヴェルノさんはクッキーを私から奪ってしまうのです。




「クッキーならそこにあるのですよ!」


「面倒臭ェ。」


「………手を伸ばすのが、ですか?」


「分かってんじゃねェか。」




まるで小さな子供を褒めるように、目を細めてグシグシと頭を撫でられるのです。


手を伸ばすよりも私のクッキーを取る方が面倒なのではないでしょうか。


頭からヴェルノさんの手が離れていくのと同時にアイヴィーさんが溜め息を吐かれます。




「話がズレてるわよぉ?」


「へ?……ぉお、本当ですね。」




いつの間に。もしかして私は場の空気に流されやすいのでしょうか?


まだもらっていない質問の答えを聞くためにヴェルノさんへ向き直ると、長い指が額を軽く数回突付いてきます。気をつけないと後ろへ転がってしまいそうなのですよ。


ジーッと黄金色の瞳を見つめていましたら、諦めたように一度瞬きをして、ヴェルノさんは私の口にクッキーを一枚押し込んでくるのです。




「別に騒がしいのは嫌いじゃねェよ。ただ煩わしいのが面倒なだけだ。」


「?」




どう違うのか私にはよく分からないのです。


騒がしいのは良いけれど、煩わしいのはダメ…?




「要は酔っ払いがいるのはいいけど、絡まれたら苛立っちゃうってコトよ~。」


「……あ、それは確かに嫌なのですね。」




なるほど、なるほど。だから騒いでいても怒らないのに、周りに船員の方々が近付かない訳なのですね。


お酒を飲んでいるのですから酔うのは構いません。でも絡まれるのはやはり迷惑ですし、嫌です。


口の中いっぱいにあったクッキーをやっと食べ終わると二枚目が目の前に差し出されたので、とりあえずヴェルノさんの手に私自身の手を添えて食べることにします。


「それに騒いで一気に飲んだら味が楽しめねェ」そう言ったヴェルノさんにアイヴィーさんは微妙に同意しているような、そうでもないような曖昧な返事を返してクッキーを食べている私の頬っぺたを突付きました。


疑問が解けてスッキリしたのです。


口の中のクッキーを飲み込んで、アイヴィーさんの手元にあります海図を覗いてみました。


海図というのは結構大雑把で海と島が描かれている…言うなれば地球儀を広げたあの世界地図とよく似ています。もちろんそれ一枚ということではなく、更に海域を絞った海図もあるようなのです。


残念なことに私には海と陸地の違いしか分からないので、いつも通り島の輪郭線をもふもふの手でなぞって遊ぶだけですが。


そうしてヴェルノさんに汚れるからと海図から引き離されてしまうのも恒例となりつつあります。




「海図に触んな。布に付いたインクは落ち(にく)いぞ。」




人と違ってヌイグルミの私の体ではあまり汚れてしまうと落ちずに残ってしまうでしょう。


とても白いので汚れがとっても目立つのです。どうして黒ではなく白なのでしょうか?




「汚れてしまったら黒く染め直せばいいのですよ。」


「ぇえ?!駄目よ真白ちゃん!それは絶対嫌だわ!!」




ヴェルノさんより早く、アイヴィーさんが叫びました。駄目駄目と何度も言って首を振るアイヴィーさんに、ヴェルノさんも頷きます。


だって薄汚れた灰色のヌイグルミなんて嫌なのです。いっそのこと汚れたら黒くしてしまえば、もう汚れも目立ちませんし。


とても良い案だと思ったのですがヴェルノさんが黄金色の瞳を細めて私を見るのです。




「止めろ。もし黒くしたら染めた所全部剥ぐぞ。」


「は、剥ぐ…!名案だと思ったのですが…、」


「良くねェよ。汚れたら洗え。」


「そうよぉ!黒い真白ちゃんも可愛いかもしれないけど、今の白い方が断然可愛いもの!!」




ヌイグルミなので痛みは感じないとは思いますが、剥ぐという単語に思わずマジマジとヴェルノさんの顔を凝視してしまいました。口元は笑っておりますが目は笑っていないように見えます。


アイヴィーさんも力説していらっしゃいます。


お二人がとても真剣だったので私は頷くしかありませんでした。


これからは汚してしまわないようにもっと気をつけねばなりませんね。海上では水というものは貴重なのですから、例え海水をろ過して真水を作れたとしても節水しませんと。


そんな私の考えとは反対にヴェルノさんは毎日必ず風呂に入れと、その後私が折れるまで言い続けました。




 

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