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よんじゅう ぷらす さん。

 






ガコン、と鈍い音と振動が床板を伝ってテーブルの上で海図を見せてもらっていた私のところまで響きました。


その音と振動にアイヴィーさんが眉を顰めていたのです。きっと今のは船が港にぶつかってしまった音なのでしょう。波のせいとは言え、思い切りぶつかったのでは…?


アイヴィーさんとは対照的にヴェルノさんは気にした風もなく、海図の上に転がった私を見て面白そうに口元に笑みを浮べていらっしゃいます。




「着いたな。」


「えぇ……ぶつかったわね、今のは。」


「まだ気にしてンのか?酷かったら次の島ででも直せば良いだろう?」


「…やっぱりそうなるのよねぇ。」




立ち上がったヴェルノさんが海図をくるくるっと手早く巻いたので、上にいた私はまるで巻き寿司のように海図に包まれてしまいます。顔しか出ていない私を見て今度こそヴェルノさんは声を上げて笑ったのです。


何とか手を出して抗議しながら腕を振れば海図を緩めてくださって引っ張り出してもらえました。


そうして片腕で抱えていただきながら部屋を出ます。向かうのは甲板ですが、雨が降っているので途中で雨合羽(あまがっぱ)を上から着ました。


ちなみに私はヴェルノさんの合羽の中に入れさせてもらっているのです。


フードを被って前を金具で軽く留めると雨の中に出ました。


海上に比べて少しだけ島の方が雨足が弱く、サァサァと降る中をヴェルノさんとアイヴィーさんは早足で通り抜けて行きます。幹部の方々も後ろからついて来ていらっしゃるようなのです。


通りの途中にありました少し大きめのお店の軒先に入り、ようやくヴェルノさんがフードを外しました。


それでも少し濡れてしまったのか前髪が湿って額に張り付いてしまっておりました。


手を伸ばした私に気付かれたようで前髪を適当に手櫛で梳いて額からはがし、ユージンさんに合羽を渡すとお店の中へ入ります。


アイヴィーさんとセシル君、レイナーさんは別行動のようで通りの向こうへ行ってしまったのです。


お店に入りますと大きな樽や乾燥したお肉や箱いっぱいの火薬など、様々なものが所狭しと置いてあり、ヴェルノさんはそれらを見ながら後ろを歩いているユージンさんとディヴィさんに時折振り返って買う物を指示しておりました。


私はヴェルノさんの腕の中から素直に売り物を観察させていただきます。


そこでふと疑問が浮かびました。




「ヴェルノさん、ヴェルノさん。」


「あ?」


「いつもお食事にお野菜や果物がありましたが、一体どうやって船で鮮度を保っているのですか?」




長い船旅の間、生野菜や果物は普通腐ってしまうでしょう。


今更な質問でしたがヴェルノさんはそんな事か、という風に笑って教えてくださいました。


船の底の方にある食糧庫は少し厚めの金属で出来ているのだそうです。冬場の間に作った氷の塊を詰め込み、そこに冷蔵保存が必要な食糧だけを入れているそうです。乾物の肉や、お酒などといったものは別の食糧庫に入れておくとのことなのです。


だから船が大きいのですね。船員の数もそれなりに多いですが、まるで客船のように大きな船に乗っている理由がこれで分かりました。


お店の奥から出てきた初老の店主にディヴィさんが話しかけて買う物を示して行きます。が、あんまりに沢山の物を言っているので運べるのか不安になってしまいます。


ですが話を聞いていると後で船員の方々が取りに来るのだそうです。


店主の方はヴェルノさんが沢山買ってくださるからかニコニコと笑顔で頷いておりました。


ぼんやりその様子を眺めておりましたら不意にヴェルノさんがユージンさんに何かを手渡して買うように言いました。ユージンさんの手の中にある物がチラリと見えると、それは大きな瓶の中に入った砂糖でした。


ヴェルノさんを見上げようとしましたが大きな手が頭を撫でていきます。


そうして私をユージンさんに手渡して、店主の方と話し始めてしまうのです。


…お礼を言いそびれてしまいました。


ユージンさんは手に持っていたお砂糖の瓶を買う荷物の上に乗せてから、私を抱え直しました。ヌイグルミの毛並みを整えるようにそっと手の平で撫でられつつ見上げた先にはユージンさんがバッチリこちらを見下ろしています。


ジッと見つめられて思わず顔をヴェルノさんの方へ戻しましたら微かにですが抱えてくださっている腕が震えたので、もう一度見上げると、ユージンさんが声もなく笑っておりました。


戻ってきたヴェルノさんが笑うユージンさんを物珍しげに見ます。




「珍しいな、お前が笑うなんて。何か面白いモンでもあったか?」


「……。」


「あぁ、そりゃ違いねェ。」




面白いものと聞かれてユージンさんは迷わず私を指差しました。


それに納得した様子で頷くヴェルノさんをジトっと睨んでみましても、笑って抱き上げられてしまいます。


そうして合羽を着直すとお店の扉を開けました。後ろから聞こえた「毎度!」という店主の方の声に押されるように雨の中へまた歩き出します。今度はアイヴィーさんたちが向かった方へ足を向けるのです。


合羽越しにサァサァと降る雨の音とパシャパシャと水溜りを蹴る足音だけが聞こえてきて、時折ウザったそうに小さく唸るようなヴェルノさんの溜め息が上から降ってきました。




「あの、私、自分で歩けるのですよー…?」


「泥だらけになるだけだから止めとけ。」


「でもヴェルノさん、大変じゃないですか?私を抱えていると歩きづらいでしょうし。」


「そうでもねェよ。…んなモン、いちいちお前が気にする事じゃねェ。」




合羽の中でヴェルノさんの手が私の背中をトントンと二度、宥めるように軽く叩きました。






 

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