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さんじゅう ぷらす ろく。

 





え、あれ?こんなことが前にもありましたような………デジャブ?


またチューされてしまったのですよ。ヴェルノさんはチューがお好きなのでしょうか?


そんなことをツラツラと考えながらも私の顔は真っ赤になっている気がしました。


…ヌイグルミなのできっと分からないでしょうが。




「ヴェルノさんっ、からかわないで下さいなのですっ。」




目の前にありますヴェルノさんの整った顔をちょっとだけ手で押して遠ざけようとしてみても、簡単に手を退かされてしまいます。




「からかってねェ。冗談で人形にキスなんかすると思うか?」


「それは…そうかもしれませんが。」




ヴェルノさんは優しいですが私の反応を見て楽しんでいる節がありますので。


少し胡乱な眼差しを向けてみても、黄金色の瞳は細められたまま見つめてくるだけなのです。


今までにないくらい優しいその視線が少しむず痒くてヴェルノさんの服に顔を突っ込んで隠れてみれば、低く笑う声が降ってきてヒョイと持ち上げられてしまいました。


綺麗な金色の瞳に映る私はしょんぼりとしていて赤い瞳だけが見つめ返しています。




「ヴェルノさんはナイスバディの素敵な大人の女性の方に、きっと人気があるのですよ。私みたいなちんちくりんな子では勿体ないのです。…そもそもつり合いません。」




海賊の船長で、力もあって、人の上に立つカリスマ性もあって、カッコ良くて素敵で、ちょっといじわるな優しいヴェルノさん。


私は人間の姿に戻れたとしても子どもっぽいと思うのです。


戦えるような力もないですし、誰かについて行くしか出来ません。ぼんやりさんですし。


けれどヴェルノさんは私の言葉を鼻で笑って吹き飛ばしてしまいます。




「ハッ、くだらねェな。俺は欲しいモンは手離さねェ性質(たち)なんでな、誰が何と言おうと…お前が嫌がっても手元に置いてやるよ。」




言葉自体はとても身勝手に聞こえるのに、不思議なくらい嬉しくなってしまう私はどこかおかしいのでしょうか?




「…なんだかプロポーズみたいなのです。」


「何だそりゃ。」


「えと、求婚…?」


「…(あなが)ち間違っちゃいねェよ。」


「え?!」




ビックリしてジッとヴェルノさんのお顔を見ますと、額にちゅっと軽い音を立ててキスをされてしまいました。


プロポーズ――……プロポーズ?!!ヴェルノさんが私に?!!


どんな顔をして良いのか分からず――結局ヌイグルミなので表情らしきものはないのですが――両手で顔を隠して、手の隙間からチラリと様子を窺ってみましたらヴェルノさんは私の反応に満足そうな笑みを浮べております。


か、からかっている訳ではないのですよね?


先ほどもきちんと確認しましたし…。そもそもヌイグルミな私の一体どこを気に入られたのでしょうか。


こんなふわふわもこもこな体で、小さいし、ロクにお仕事も出来ません。…チューくらいしか出来ませんし。


うーうー唸っている内に痺れを切らした様子でヴェルノさんは私を机の上に置いて、顔を隠していた両手を引き剥がしてしまいました。




「言っとくがお前に拒否権なんてねェ。真白、お前は俺の物だ。人間に戻ったら俺の女。それ以外は認めねェ。」


「………横暴なのです。」


「聞こえねェ。」




優しい、けれど絶対的な声にふわもこな体が震えました。


嬉しいような、苦しいような、声を上げて泣きたくなるような。不思議な気持ちなのです。


そうしてそんな横暴過ぎるヴェルノさんの言葉を受け入れてしまう私も不思議なのですよ。


でもそう伝えるのが恥かしくて、ちょっとだけ背伸びをしてヴェルノさんの頬にキスを贈ってみました。


するとヴェルノさんは本当に嬉しそうに口元を引き上げて笑うと私を抱き締めてくれます。


この温かくて切ない気持ちが‘恋’なのでしょうか?


私にはまだよく分かりませんが、それでもヴェルノさんと離れるのはとてもツラいのです。


立ち上がったヴェルノさんがベッドに向かうので思わず体が強張ってしまいました。


しかし頭を撫でられて、一緒にベッドに横になっただけで何もありません。


見ると黄金色の瞳が静かに私を見ておりました。




「安心しろ。今は何もしねェよ。」


「…‘は’?」


「人間に戻ったら覚悟しておけ。泣いても喚いても喰ってやる。」


「!」




愉しげに笑う声が艶っぽく掠れていて、私はパッとシーツに潜って隠れてしまいました。


喰うって、喰うって…そういうことなのですよね?


く、口に出して言うのを憚られるような恥かしい……っ。


だ、ダメなのですよ!考えてはいけないのですっ!!


シーツの中でわたわたと慌てている私をヴェルノさんはただただ興味深そうに見つめていらっしゃいます。


人間に戻るのが怖いような、待ち遠しいような…――私は一体どうすれば良いのでしょうか?


ヴェルノさんに「好い加減出て来い。」と嗜められてしまうまで、私はシーツの中で悩んでいたのですよ。






 

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