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さんじゅう ぷらす ご。

 






朝、目を覚ましましたら目の前にヴェルノさんの寝顔がございました。


これにはビックリしてしまい、思わず叫びそうになった口を慌てて私自身の手で塞ぎます。


スキンシップに慣れたとは言いましても素晴らしく整った顔が眼前にありますと、とても心臓に悪いのですよ。


部屋を見回し、窓の外の青い空を見ましたら太陽が随分高い位置に。


…もしかして寝過ごしてしまったのでしょうか?


抱き寄せられていますヴェルノさんの腕を軽く叩きましたら、眠たげな金色の瞳が薄っすらと開かれます。


寝起きでやや掠れた低い声で「何だ…。」と呟きました。




「寝坊してしまったのです。そろそろ起きませんと、朝食と昼食が一緒になってしまうのですよ。」


「…眠てェ。」


「ダメなのですっ。夜眠れなくなってしまいますよ?」


「………仕方ねェな。」




むっくり起き上がったヴェルノさんに頭を撫でてもらいます。


それから着替えるためにお洋服をいただき、着ていた服を脱ごうとしてオカシイ点に気が付きました。


どうして私は下着姿なのでしょうか?


それに、汚れていたはずの手足をよくよく見てみますと何故か真っ白ふわもこの綺麗な毛並みに戻っております。


私、昨夜お風呂に入りましたっけ?そんな記憶は全くないのです。


ヴェルノさんを見上げてみましても、既に着替え初めていたのですぐに顔を戻し、首を傾げつつお洋服を着ました。


きっとお風呂に入った後に疲れたまま眠ってしまったのかもしれませんね。それか眠たい状態で入って記憶があやふやなのかも。


着替えを終えたヴェルノさんに抱えてもらい食堂へ向かいましたら昼食後だったようで、船員の方々が疎らにいらっしゃいました。


料理長さんが気付いてくださって少し遅めの昼食が出てきます。


にんじんのお皿とお魚のフォークは、やはり何度見ても可愛いのです。


ご飯を食べていますとヴェルノさんが何やら私を見てくるので、何となくジッと見つめ返しましたら頬をすりすりと指の腹で撫でられました。


ちょっとガサついた手でしたが温かくて落ち着くのです。




「おや、起きたようですね。」




聞こえて来た声にヴェルノさんの腕の下から食堂の入り口を見れば、レイナーさんがニッコリと笑いながら歩き寄ってくるところでした。


片目のモノクルが素敵なのですね。


ヴェルノさんの腰にくっつくように見ていたのですが、邪魔だったようで膝の上に引き戻されてしまいます。


残念です。腰の辺りにペタッとくっついているのは結構安定していて居心地が良かったのですが。


でもヴェルノさんのお食事の邪魔をしてはいけませんね。


隣りに座ったレイナーさんにしげしげと見つめられつつ私は食事を終えました。


…誰かに見られているとちょっと食べずらいのですよ。




「あの、」


「ん?」


「何かご用なのでしょうか?」




それはヴェルノさんになのか、私になのかは分かりません。それでも横にいらっしゃるという事は何か御用事があるのでしょう。


しかしながら聞いてみましたら「特には無いんですがねぇ。」カラリと笑います。


よく分からず困ってしまいました。ただヴェルノさんだけは関せずといった様子でお食事を続けておりました。




「随分馴染んでしまいましたねぇ、船長。」


「悪ぃか?」


「いいえ。」




頭上で二人が言葉を交わしておりますが、意味が分からないのです。


何だか仲間外れなようで寂しいのですよ。


ヴェルノさんのお腹にペタッとくっついていれば利き手とは反対の手で、背中をぽんぽんと叩かれました。それをされると凄く眠くなってしまいます。


うとうとし始めていた私に気付いたらしいヴェルノさんに「寝んなよ。」と注意されてしまいましたので、一生懸命目を開ける努力をしてみました。


けれども食事を終えたヴェルノさんが立ち上がって私を抱えたままお部屋に向かいます。


歩く時の一定の揺れが心地良くて、やっぱり私は眠ってしまいました。
















































































サラサラと聞こえて来る微かな音にふっと目が覚めました。


でも目の前に広がるのは布。…シーツとは違う感触なのです。


温かくて心地の良いそれに擦り寄ると上から小さな笑い声が聞こえてきました。どうやらヴェルノさんのお膝の上にいるようなのです。


ですがまだ眠たいので目を閉じてくっつきましたら、背中を優しく撫でられ、余計に眠くなります。


…やはりヴェルノさんに撫でてもらうのが一番気持ち良いのですよ。


海賊だなんて言いますが、少しカサついた大きな手は何時も優しく撫でてくださります。


そうしてもらうと何故だかホッと安心するのですから不思議なものですね。


眠たい目を開けて顔を上げれば柔らかく細められた金色の瞳が私を見下ろしていました。


口元に浮かぶ笑みはニヒルなものではなくて、ほんの微かに口角を上げるだけの優しい微笑……例え人を傷付ける手だったとしても私にはこんなにそっと触れてくださいます。


今まで会った人たちの中でここまで優しく触れる人を私は知りません。


危ないのを承知で、海賊なのに海軍まで迎えに来てくださいました。


……こんなに優しい人に私は何もお返しできないのでしょうか?


それがとても悲しいことのように思えてしまい、瞬きをしたらポタリと雫が零れ落ちます。それが涙なのだと気付くのにかなり時間がかかってしまいました。


ヴェルノさんは一度驚いたように目を見開きます。


それから親指の腹でそっと拭ってくださるのです。




「私はどうすれば恩返しができるのでしょうか。」




ポツリと呟いた言葉をヴェルノさんは黙って聞いています。




「二度も助けていただいて、なのに私は何も出来ません。お掃除も、お料理も、今の私には何一つ満足にできないのです。」


「別にお前に何か望んだりなんか無ェ。」


「分かっています。でも、それでは私は色々としてもらってばかりなのですよ。」




それは嫌なのです。私だってヴェルノさんのために何かしたいのです。


ヴェルノさんは少し考えるような素振りを見せた後、不意に視線を私へ向けました。




「人間に戻りゃ、色々ある。」




そうしてフッと顔に影が落ち、目の前にヴェルノさんの綺麗な瞳。


すぐに離れた口元にはやっぱり柔らかな笑みが浮かんでいました。




「―――…こういう事だけどな。」









 

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