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さんじゅう ぷらす さん。

 






「真白!」




低く心地良い声が私の名前を呼びました。それに目を開けると、目の前には見慣れた上着を羽織ったヴェルノさんがいます。


片手で持つ剣でカルヴァートさんの剣を抑えながら私へもう片方の手が差し出されました。


躊躇うことなくその手を掴むと一気に引き上げられて、腕で抱き寄せられます。


たった数日でしたが、まるで何ヶ月も離れてしまっていたような気分になって思わずヴェルノさんにしがみ付いてしまいました。




「そんな奇妙な物をお前が傍に置くとはな。」




剣を擦り合わせたままカルヴァートが厭味っぽく言います。


ムッとした私とは裏腹にヴェルノさんは気にした様子もなく、剣を弾きました。




「何を持とうが俺の勝手だ。」


「フンッ、海賊の癖に一人前に人間らしい事を言う。」


「俺もお前も人間じゃねェか。」


「貴様のような男と一緒にするな!」




苛立った声でそう吐き捨てるように言って、カルヴァートは向かってきます。


けれどヴェルノさんはサッと避けながら剣を持つ手を狙って、鋭く剣先を突き出しました。


しかし軍師と呼ばれているだけあってカルヴァートはヴェルノさんの攻撃を交わして、更に横なぎに剣を振るいます。


片手でそれを受け止めるヴェルノさん。すごいのです。


でも、私を抱えている分きっと動きが制限されて不利なのですよ。




「ヴェルノさん、下ろしてくださいです!私を持っていてはきちんと戦えません!」


「あ?問題ねェよ。」




言葉通り、繰り出された突きを身を引いて避けたヴェルノさんは剣を持つ手を地面に付け、軽やかにバック転を披露します。


片手でバックテンをする人を初めて見ました。


とは言え抱えられている私も一緒にぐるんと回ったのですが。


ヴェルノさんとカルヴァートの戦いは明らかにヴェルノさんの方が強いのです。


それでも諦めずに剣を持って向かって来るカルヴァートも執念には思わず閉口してしまいました。


何時までも続くかと思われた戦いも、ヴェルノさんがカルヴァートの剣を弾いて終わりを迎えます。弾かれた剣は手の届かない遠くの甲板の上へ落ちました。


カルヴァートはとても悔しそうな顔で弾かれた左手首を押さえつつ、ヴェルノさんを睨むのです。


ヴェルノさんはカルヴァートを見て、いつもの意地の悪そうな笑みを浮かべているのです。




「相変わらず弱ェな。」




ヴェルノさんのその言葉に怒り心頭といったカルヴァートですが、勝敗はもう決まっています。


殺せ!と顔を顰めて叫ぶカルヴァート。


でもヴェルノさんは私をちらりと見てから、持っていた剣でカルヴァートの足を刺しました。


殺さなかったのは私がいるからでしょうか?




「何故殺さない?!情けをかけたつもりか!!」




よほど嫌だったのかカルヴァートは顔を真っ赤にしています。


ヴェルノさんは涼しい顔で否定しました。




「違ェ。お前にとっては死ぬより、この方が屈辱だろうと思ってな。」


下衆(げす)が…!」


「ククッ…海賊にゃ最高の褒め言葉だ。」




よくは分かりませんがカルヴァートにとって、ヴェルノさんに生かされることは屈辱なようなのです。


私には本当に理解できません。


だって生きていられたのに、喜ばずに嫌がるだなんて。


ヴェルノさんを見上げましたら、綺麗な黄金色の瞳と目が合いました。


何はともあれ、私はヴェルノさんの下へ戻って来れたのですね。


ふつふつと沸き上がります嬉しさに思わず抱き着いてしまいましたが、ヴェルノさんは優しく頭を撫でてくださいます。




「船に戻るか。」


「はいです!」




抱え直され、私もしっかりヴェルノさんの服を掴みました。


カルヴァートがヴェルノさんに色々と叫んでいましたが、気にはしていないようなのです。


振り返ろうとした私の顔を服に押し付け、ヴェルノさんは「放っておけ」と言います。


素直に前を向きました私に傍で見守っていたアイヴィーさんが駆け寄ってきました。


ヴェルノさんの腕からアイヴィーさんに渡され、ぎゅうぎゅうと抱き締められます。




「こんなに切られて可哀相そうにっ!真白ちゃんみたいな可愛い子に手を上げるなんて最低よぉ!!」




ぷんぷん怒るアイヴィーさんに抱えられ、私は久しぶりにヴェルノさんの船に戻ることができました。


しかも戻り方がターザンみたいにマストから伸びたロープで戻るんです。


風を切って綺麗に着地するヴェルノさんとアイヴィーさんが羨ましいのですよ。


そうして船上を見てふと気が付いたことが一つ。


皆さん一様に同じ服を着ているのです。


それは軍人さんが着ているものと全く同じ物で、けれどよくよく見ますと細部が微妙に違っていました。




「こすぷれ…!」


「あ?」


「何で皆さん軍人さんの服を着ているのですかっ?」




いつもならちょっとダブっとした服に布を巻いてアラビアンな雰囲気なのですが、軍服を来た皆さんはキリッとして――…


…あれ?んん?


ジッと眺めてみましたが、皆さん軍服の前を開けたりシャツを出したり。


何やら軍服を着ているにも関わらず悪そうな雰囲気が出ているのですよ。




「あぁ、海軍に紛れ込ませて内側から潰してやったんだ。」


「内側…ヴェルノさんの作戦勝ちなのですね。」


「そんな所だな。」




すごいです、と言っていれば次第に船上の皆さんが私たちに気付いて近付いて来ます。


目が合った皆さんは誰もが「おかえり!」「やっと戻ってきたな!」とそれぞれ声をかけてくださいます。それが嬉しくて私は思わず大声で返してしまいました。




「はいっ、ただいまなのです!!」






 

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