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にじゅう ぷらす よん。

 





軍人さんに連れて行かれたのは軍艦にある薄暗い牢屋でした。


ウェルダンさん自身は海賊でないにしろ、海賊達に加担しているからという理由で拘束されてしまうのだそうです。


…海賊の一員である私には何が良くて何が悪いのか分かりません。


ウェルダンさんにそう言いましたら「海賊の世界は力が全てです。弱い者が悪い、という具合ですから。」と苦笑していました。


いくつもある牢屋には沢山の海賊らしき人たちがいましたが誰もが多かれ少なかれ怪我をしていました。


ウェルダンさんは一人用の牢屋に押し込まれてしまいます。


もちろん、私もいるので一人というわけではありませんが。


軍人さんがいなくなるのをきちんと確認してから、漸くウェルダンさんの肩から下ろさせていただけました。




「困ったことになってしまったのですね。」


「ふふっ、貴女が言うとあまり困った様には聞こえませんね。」


「そうでしょうか?」


「普通海賊や海賊に加担した者は斬首なんですよ?」


「斬首!」




それは本当に一大事なのです!


早く逃げなければウェルダンさんは殺されてしまうのですよ!!




「どうすれば助かるのですか?」


「どうしようもない、というのが今の現状ですね。ヴェルノ達が助けに来てくれれば良いのですが。」




それまでは手も足も出せない状況です。


ウェルダンさんは気持ちよいくらいハッキリと言いました。


とりあえず海軍基地のある島までは身の安全は保障されているそうなので、精々体力を温存しておくくらいしかないのだそうです。


…あぁ、早くヴェルノさんやアイヴィーさんが助けに来てくださらないでしょうか?


ヌイグルミである私ができることなんてないのです。


手助けをすることもできず、しょんぼりとしていましたらウェルダンさんが小さく笑います。




「そんなに気落ちしないで下さい。…あぁ、そうだ、それではこの縄を切る道具を探して来てはくれませんか?」




擦れてとても痛いんです。そう言うウェルダンさんの手首はキツく縛られていまして、縄で擦れた部分は少し赤くなってしまっていました。


そういうことでしたらお安い御用なのですよ。


服の隙間に挟んでおいた小さなナイフを取り出して見せます。




「一体何所から出したんですか?」


「服の隙間に入れておいたのですよ。」


「不思議ですねぇ。」




可笑しそうに笑うウェルダンさんの手首の縄へそっとナイフの刃を当てます。


間違えても手首に傷を付けてしまっては大変ですので、慎重に縄を切ると、あっさりバラバラと解けてしまいました。


ナイフをまた服の隙間に挟んでいる間に、ウェルダンさんは自由になった手首を何度か動かしてから私の視線に気付いて「何ともないですよ。」と一言。


少し赤くはなっていますが、怪我はないようでよかったのです。


手が自由になったとは言えまさか牢獄から抜け出す訳にはいきません。


いくらウェルダンさんでも流石に海軍の基地から一人で脱出するのは至難の業だそうで、とりあえず助けが来るまでは大人しくしているのだそうです。




「でもこんな所では少々寂しいのですよ。」


「そうですか?」


「暗いし、狭いし、何もなくてとても退屈なのです!」


「ふふ、貴女からしたらそうかもしれませんね。」




でもこれが普通なんですよ。と笑うウェルダンさんには申し訳ありませんが、こんな所にずっと閉じ込められているなんて精神的にも身体的にも悪い気がするのですよ。


そんな風にお話をしていましたら、コツコツと足音が響き、周りの牢獄の囚人さんたちが騒がしくなります。


パッとウェルダンさんと顔を見合わせまして、慌てて人形のフリをすれば、牢獄の木製の格子の前で数人の軍人さんが足を止めました。


ガチャリ。そんな金属音がしたかと思うと牢獄の扉が開いて軍人さんが一人だけ入ってきました。


鮮やかな短い金髪にエメラルドグリーンの瞳。けれどとても冷たい顔立ちをした男の人がウェルダンさんを見ます。




「久しぶりだな、ダンガルド。」




落ち着いた深みのある声でウェルダンさんに話しかけます。


…なんだかその声には侮蔑のような響きが混ざっているように私には聞こえるのです。




「…懐かしいですね。カルヴァート。」


「数年ぶりの再会がこれとは随分皮肉な話だがな。」




どうやらお二人は知り合いのようです。


エメラルドグリーンの瞳がウェルダンさんを上から見下ろし、手に持たれている私を見て整った顔が眉を顰めました。




「何だそれは。」


「大切な物でして。」


「牢獄内にはどのような物も持ち込めないという事ぐらい、元軍人のお前なら知っているだろう?」


「勿論、心得ていますよ。」




なんと、ウェルダンさんは元軍人さんだったのですか!


それなのにどうして海軍を辞めて海賊の手助けをするようになってしまったのでしょうか?


チラリとウェルダンさんを見上げるのと同時にグイと体が引き上げられてしまいます。


驚く間もなく、私は男の人に耳を掴まれていました。




「返して頂けませんか?」




ハッキリとした口調で言うウェルダンさんに男の人は笑います。




「それは出来ない相談だ。そうだな…返しても良いが、その時は貴様が絞首刑に上がる時だろうよ。」




それまで精々大人しくしていることだ、と男の人は言って、私を掴んだまま牢獄から出てしまいます。






 

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