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にじゅう ぷらす に。

 






朝、目が覚めますとベッドの上にアイヴィーさんはいらっしゃいませんでした。


…どこに行ったのでしょう?


ヴェルノさんと一緒に寝ていた時には必ず私が起きた時も隣りにいましたので、少しだけ寂しい気持ちになりました。


部屋を見回しましたらアイヴィーさんは鏡の前で器用に髪を編んでいらっしゃいます。


ジッと見つめていましたら鏡越しに目が合いました。




「お早う、真白ちゃん。」


「おはようございますです。」




手早く綺麗に編まれていく髪を見ていましたら、アイヴィーさんが笑います。


うさぎのヌイグルミには髪がないので編み込むことも結うことも出来ないので、残念なのです。


終わるまで待って、アイヴィーさんお手製の可愛らしいワンピースを着せてもらい、いつものように抱き上げもらってご飯を食べに行きます。


船員の皆さんはほとんど出払っているそうで普段と違い食堂は閑散とした雰囲気でした。


朝とは言え騒がしいくらいの部屋がシンと静まり返っていると何だかつまらないものなのですね。


朝ご飯をしっかり食べてからアイヴィーさんと甲板で過ごすことにしました。


私たちの乗っている船とは別の船が沢山停泊しています。が、ほとんどが海賊船なのだと思うととても不思議な気分になります。


こんなに沢山いるのにすぐに喧嘩が起きないんですから。


それともヴェルノさんのように大らかな方が海賊には多いのでしょうか?


その話をアイヴィーさんにしてみると、苦笑しながら「そうでもないわよ。むしろ海賊は短気な奴が多いわぁ。」とおっしゃっておりました。


何より血気盛んな人たちだからこそ他船を襲撃したり、喧嘩などが好きなのだとか。


私はたまたまそういう場面を見ていないからそう思うのかもしれません。


アイヴィーさんのお話を聞きながら船の縁に寄りかかっていますと、段々船員の方々が戻って来る姿が見えました。


手を振れば、皆さん顔を見合わせてから笑って手を振り返してくださいます。


…どんなお話を聞いてもやはりこうして優しく接してくださる皆さんを悪い人とは思えないのです。




「ヴェルノさんはまだお店なのですか?」




縄梯子をヒョイヒョイと上ってきたセシル君に声をかけましたら、一度お店のある方角を振り返ってから何故か少し眉を下げて困ったような顔をされます。




「あ…そうっス。多分船長は昼過ぎになると思うっスよ。」


「そうなのですか?」


「いいのよ真白ちゃん。ヴェルノの事は放っておいて今日は買い物に行きましょう?」


「? またお買い物ですか?」


「えぇ、食べ歩きもたまには良いでしょ?」




食べ歩き!それはとっても心惹かれるお誘いなのです!!


一もにもなく頷きましたらアイヴィーさんだけでなくセシル君にまで笑われてしまいました。


だいぶ日が昇って船員の方々が戻って来た頃に、アイヴィーさんと一緒に船から降りて海賊達の孤島の中心へ向かいます。




「逸れちゃうと危ないから、今日は抱っこでね。」




と、抱き上げられて屋台を見て回ることになりました。


アイヴィーさんの抱き上げ方は本当に小さな子どもを抱えるように両手で支えながらですが、ヴェルノさんは片手で荷物を持つように抱えます。


安定感で言うならばアイヴィーさんの抱え方が一番安全なのです。


おかげ様で屋台を見るときに前のめりになっても全然怖くないのですよ。




「これは何ですか?」




キャラメルのような甘く香ばしい匂い。けれど見た目は焼き栗のよう。


お店のおじさんが私を見て驚いた顔をした後に大らかに笑います。




「サムナンを知らんのかい?」


「さむなん、?」


「固い殻の中に甘い実が詰まっていてね、それをカラメルと一緒に殻ごとじっくり燻すんだよ。食べる時には殻を取って実だけ食べるんだ。」




おじさんが殻を剥いたサムナンを一つくださいます。


少し熱いそれを一口食べましたら何とカルメ焼きのような味がするではありませんか。


甘くて美味しいお菓子なのです。


お願いして一袋分買ってもらいました。


本当は歩きながら食べたかったのですがゴミが出ますし、殻が固くて私では剥くことが出来ないので諦めて帰ってから食べることにしました。


代わりに中に少しピリ辛な野菜の料理が詰まったナンのようなものを食べながら歩きます。


ご飯を食べたばかりでも美味しいものは軽々とお腹へ収まってしまいますね。


そんな風に屋台を回っていましたら、船を停泊させている方が何やら騒がしくなってきました。




「何かしら?」


「喧嘩、でしょうか?」


「それにしては騒がしいわねぇ。」




流石のアイヴィーさんも気になったご様子で船のある方角を見ます。


すると、慌てたように数人の男の人たちが足をもつらせながら走って来ました。


その人たちが立ち並ぶお店の人々へ声をかけますと、皆さん一様に顔を青くしてお店を仕舞い始めます。


バタバタと走る男の人の一人が叫びました。




「海軍が来たぞーっっ!!!」




その声に周囲の人たちも慌ただしくざわめき、動き始めました。




「あら、もうバレちゃったの~?」


「どういうことですか?」


「海賊を捕まえたがってる海軍に見つかっちゃったのよ。残念だけど船に戻ってすぐに出航しなきゃ。」




大勢の人たちが殺到している船着場へアイヴィーさんは駆け出します。


私は買っていたお菓子のいくつかを抱えて、落ちないように服を掴ませていただいてます。


が、船着場が近付くに連れて沢山の怒号と地響きのような音が大きくなっている気がするのですが…。


もしかしなくとも船着場は戦場と化してしまっているのでしょうか?






 

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