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じゅう ぷらす ご。

 





ベーグルを半分ほど食べたところで、隣の席にドカリと誰かが座ります。


横を見ればアイヴィーさんがテーブルに突っ伏していました。




「おはようございます、アイヴィーさん。」


「…おはよう、真白ちゃん…。」




腕に顔を埋めているせいか、ややくぐもった声の返事は力がありません。


もしかしなくともこれは二日酔いという状態でしょうか。


私は分かりませんが二日酔いは気持ち悪くなって頭も痛くなるそうですね。


かなり大量にお酒を飲んでいましたヴェルノさんがケロリとしていたのですっかり忘れておりました。




「大丈夫ですか?何か鉄分の多いものを取られるといいのですよ?」


「そうねぇ…。」




返事とは裏腹に起き上がったアイヴィーさんは気だるそうにサングラスをかけます。


目が合うとニコリと笑いかけてくださいましたが、ちょっとお疲れ気味なのですよ。


心配なのですがヴェルノさんに顔の向きをお皿へ戻されてしまったので、諦めて今は朝食を食べ切ることに専念することにしました。


時折頬を突付いたり自分のお皿のものをくれたりとヴェルノさんは優しいのですが本当にペット感覚になってしまっているので、人間に戻ったときが少し心配です。


そんなことを考えているうちにテーブルの正面にルイスさんが静かに腰掛けました。


昨夜は幹部の方々と飲み比べていたようですが、やはり何事もなかったかのような様子で料理長さんに大声でご飯を頼んでいます。


アイヴィーさんが恨めしそうに「大声出さないでちょうだい。頭に響くわぁ…。」と片手を額に添えてルイスさんを睨んでいました。


それに軽く謝りながら私を見てニヤニヤします。




「何時もそうやって食べてんのか?」


「はい。普通に座るとテーブルに届かないのです。」


「へぇ…羨ましいねぇ。」


「言っとくが、コレは俺のペットだ。」


「分かってるって。そうカッカすんなよ。」




頭上で交わされる言葉を聞きながら食事をしていれば、アイヴィーさんがジッと私を見つめていることに気が付きます。


小さく「ドレスも可愛いわねぇ…。」なんて聞こえたのは聞かなかったことにしておきましょう。


せっかくの美味しい料理も、朝では沢山食べられなくて少し残してしまいました。


作ってくださった料理人の皆さんには申し訳ないのですがご馳走様です。


ぽふっと両手を合わせて小さく頭を下げると、それが食事終了の挨拶だと分かっているヴェルノさんが布で口元を拭ってくださいます。


…何故でしょうか、ルイスさんやアイヴィーさんなど食堂にいらっしゃる方々の穏やかな笑みがすごく気になります。


強過ぎず、かと言って弱過ぎず、適度な力加減で口元を拭いてもらいスッキリしました。


汚れてはいませんでしたがお返しにウェルノさんの口元を、膝に立って拭って差し上げたらとても楽しそうな笑みを浮べて頭を撫でられます。




「あぁ、そうだ。今日は海賊達の孤島に行くぞ。」


「そうだな。二人揃ってるし丁度良いかもしれないなぁ。」


「だから真白ちゃんがドレス着てるのねぇ。納得だわぁ。」




何やら訳知り顔で頷くアイヴィーさん。


私はその‘だくてぃすと’が何なのか知りませんが、皆さんの様子を見ると楽しいところなのでしょう。


ヴェルノさんもルイスさんも、アイヴィーさんも楽しげな表情なのです。


…教えていただけなくてちょっぴり仲間ハズレな気分もしますが。


三人で私には理解不能な会話を繰り広げられてつまらなくなってしまいました。


仕方ないのでヴェルノさんの膝の上で眠ることにします。


……決して不貞寝(ふてね)ではないのですよ?


























「…ん?あ、真白寝ちまったか?」




話し込んでいるうちにヴェルノの膝の腕で眠りこけてしまっているヌイグルミを見てルイスが苦笑する。


ふわふわの真っ白なそれを日焼けしたヴェルノの大きな手がゆっくりと撫でた。


もう片手は柔らかそうな背中に添えられ、膝から落ちないように留めている。


自分と同じ黄金色の鋭い瞳が優しく細められているのをルイスはどこか遠くのことのように眺めていた。


前回の時には二人で軍艦を一隻襲撃したが、その時には絶対になかったであろう弟の穏やかな表情に何とも言えない気持ちになる。




「コイツには海賊達の孤島の事は教えてねェからな。暇だったんだろ。」


「あら、教えなくて良いのぉ?真白ちゃんみたいな子がウロウロしてたら、それこそ直ぐに捕まえられて売り飛ばされちゃうんじゃないかしら?」




海賊達の孤島はその名の通り、海で生きる海賊たちだけが訪れることを許される場所だ。


つまり無法地帯である。


そこで盗みや喧嘩、殺しなど‘何があっても’それらは自己責任となるため腕に覚えのある者でなければ好んで行くことはないくらいである。


真白のように物珍しい生き物が一人でウロついていれば、それこそ捕まえてくださいと言わんばかりの状態だろう。


狼の群れに子羊を投げ入れるようなものだ。


が、それは力無い者の場合である。




「俺がそれを許すと思ってんのか?」


「まさか!アタシだって真白ちゃんを他の奴らに渡す気なんてないわ~。」


「なら気にする事じゃねェだろ。」




ヴェルノとアイヴィーの会話を聞いていたルイスが笑う。




「お前ら本当に真白の事、気に入ってるんだな。」




特に気紛れで飽きやすい性格のヴェルノがここまで一つの物に執着を見せるのは珍しい。


確かに眠っているこのヌイグルミは世界に二つといない珍獣であろうし、どう見ても触っても柔らかな体は高級な布や動物の毛を惜しみなく使っているだろう。


だがこれほど気に入るなんて、恐らく初めてだ。


ルイスの言葉にヴェルノが低く笑う。




「あぁ、気に入ってるぜ。コイツは俺を退屈させねェし、無駄に苛立たせねェ。そこらの娼船の女よりマシだ。」




上機嫌と分かる声音に嘘はなさそうだ。


よく分からない唸りを上げながら丸くなるヌイグルミをヴェルノは抱え直して立ち上がる。




「後で部屋に来いよ。航路の確認くらい必要だろ。」


「あぁ、分かった。」




真っ白なヌイグルミを抱えて食堂を出て行く弟の後ろ姿を見送ってから、ようやく来た料理にルイスも舌鼓を打った。







 

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