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じゅう ぷらす よん。

 







「――…よぉ、起きたか。」




目が覚めると目の前に素敵過ぎるニヤリとした笑みがありました。


とりあえず、朝のご挨拶をすると寝起きの掠れた艶っぽい声で「あぁ。」と返してくださいます。


そうして頬にキスが一つ。……昨夜のことを思い出してしまいました。


お陰様で薄れかけていた羞恥心というものが私の顔を紅くします。


本当にヌイグルミでよかったのです。


これが人間の姿だったとしたらヴェルノさんは嬉々として私に色んな意地悪をしたでしょうから。


そんなことをツラツラと考えながらもやはり恥かしいので、枕に顔を埋めて唸ってみたり、シーツを手繰り寄せて隠れてみたりと気を紛らわせようと試みてみます。


でもヴェルノさんは私からシーツを引っぺがすと逞しい腕の中へ抱き込んでしまいました。


逃げるどころか身動き一つ満足にできません。




「…これくらいで恥かしがってんじゃねェよ…。」




笑いの混じった声がすぐ耳元で囁かれます。




「ヴェルノさんは変態さんなのですか?」


「…ぁあ?」




だってそうではありませんか。


ヌイグルミ相手に甘く囁いても困るのです。


私の言葉に呆れたような顔をして、それから抱き締められていた手が外れたかと思いますと、いきなり頬を左右に引っ張られました。


…痛くはないけれどこれは酷いのです。




「んなふざけた事言いやがるのはこの口か。」




いくらヌイグルミとは言えあんまりな仕打ちです。




「そふではないでふか。私は、ふいぐるみ(ヌイグルミ)、なんでふよ?ふいぐるみに、きふ(キス)するなんへ、変れふよ。」


「うるせェ。それ以上グダグダ言うなら口塞ぐぞ。」


「…なにへへすか(なにでですか)?」


「知りてェか?」




口角をつり上げて笑うヴェルノさんに嫌な予感がして思わず首を振れば、小さな舌打ちをいただきました。


パッと手が離れたので頬の形を両手で押して直します。


ヴェルノさんはすっきりしたのか満足したのか、ベッドから起き上がって昨日のままだった服を脱ぎ捨てて新しい服へ着替え出しました。


海の男というものは大雑把なのでしょうか?


脱ぎ捨てられた服をきちんと拾って洗濯物専用のかごへ入れるのも私の役目になりそうです。


それからヴェルノさんは自分の机の上から何かを取りました。




「おい、何ボケっとしてんだ。」




洗濯かごの傍で立っていましたらヒョイと持ち上げられてベッドの縁に座らされました。


手に持っていらっしゃるのは私のお洋服で、それをもらおうとしたのに、ヴェルノさんは渡してくれません。


それどころかワザと手の届かない少し遠くにお洋服を置いて、私の着ているワンピースに手を伸ばしてくるのです。




「後ろ向けよ。どうせ一人じゃ脱げねェだろ?」




そんなことはないのです。


見た目は小さなヌイグルミですが、幼児ではないのできちんと着替えも出来るのです。




「大丈夫なのです。」


「あ?聞こえねェな。」


「わっ?!」



問答無用で捕まえられると場所を入れ替わるようにヴェルノさんがベッドに腰掛け、私はその膝に座らされます。


ワンピースの小さなボタンに手がかけられて、片手で私を捕まえているというのにとっても器用にボタンを解いていくのです。


ヌイグルミでなければ赤面ものの状態ですね。


ニヤニヤ笑いながら見下ろしてくる黄金色の瞳は愉しげで、こんな風に意地悪をされているのに嫌な気持ちも怒りも湧かないのですから不思議です。


相変らず色気のない下着にやっぱり「色気がねェ。」なんてぼやかれても困ります。


ヌイグルミに色気というものがあったら逆に恐ろしいのですよ。


手早く着せられたワンピースは先ほどまで着ていたものとは違い、キャミソール風のワンピースで色はオレンジから白のグラデーションが綺麗です。


裾と胸元辺りに白でお花の刺繍がされていて可愛いお洋服ですね。


耳にはやっぱりワンピースとお揃いのオレンジのシュシュがつけられます。


なんだかワンピースですが若干ドレスのような要素も見受けられるのですが…、




「今日は何かあるのでしょうか?」




頭を撫でてくるヴェルノさんを見上げれば軽く瞠目してから、へぇと笑います。




「よく分かったな。」


「お洋服がドレスに似ているので、何か御祝いごとか大切なことがあるのかと思ったのです。」


「良い線はいってるが、祝い事じゃあねェよ。海賊達の孤島(ダクティスト)に今日は行くからだ。」


「だくてぃすと、ですか?」




人の名前のようにも聞こえますが、どのような場所なのでしょうか。


聞いてみても「着けば分かる。」としか言ってくれません。


立ち上がって私を机に乗せてからヴェルノさんはトレードマークのようなターバンを巻きます。


ターバンの横一方についている装飾がぶつかり合い、シャラリと耳に心地良い音を奏でました。


自然な動作で抱き上げられてしまいますが私は歩けないわけではないので、そろそろ歩かせて欲しいのです。


…一緒に歩くとどうしても歩幅の関係で遅くなってしまいますが。


薄暗い通路をスタスタと歩くヴェルノさんの腕の中でそんなことを考えていれば、すぐに食堂に着きました。


いつもならば大勢の船員の方々がいるのですが今日は半分いるかいないかくらいしかおりません。


キョロキョロと見回していると大きな手が頭をぽんぽん撫でます。




「大半の奴はまだ寝てるぞ。昨夜はかなり飲んでたからな。」




なるほど。皆さんはまだ夢の中なのですね。


ヴェルノさんに抱えられたまま席に着くと調理場から料理人さんが来て朝食を出してくださいました。


ベーグルサンドなのです。多分ヴェルノさんと私の分も合わせて三つお皿にあります。


手を伸ばそうとしましたがヴェルノさんが先にベーグルサンドをナイフを使って綺麗に切り分けてくださいました。


取りやすいようお皿の端に置かれたそれから小さな一片を取ってパクリと一口。




「…美味しいごはんは幸せなのです。」


「随分安上がりだな、お前の幸せってのは。」




もぐもぐ食べる私にクツクツと笑ってからヴェルノさんもベーグルを食べ始めます。


カリッとした表面と弾力のある食感は食べるのが少々大変ですが、とっても美味なのです。


これは明日の朝食にも期待が出来そうなのですよ。






 

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